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実録「上から書店員」07:幸せと地獄を売る店

いらっしゃいませ。
接客業に向かない大人の発達障害(ほぼ)のフリー編集者で小説家・魚住陽向です。
おほほほほ♪

●「幸せ」の重量
突然ですが皆さんは「ゼクシィ」って買ったことありますか?
そう、テレビCMではよく見かけるリクルート発行の結婚情報誌です。
個人的には、結婚に関わる業界の広告、チラシの総合カタログのようなものと思っているので一切興味はありません。
しかし、書店員としてはそうも言っていられません。
購入するお客さんがいるからです。

これを買う時って…その通り! 結婚を考えた時です。
プロポーズされたらゼクシィなのですな!(←なんじゃそりゃ)
全国の書店には、こういう幸せの絶頂にいる女性(男性も)が買いに訪れる「幸せ」の一冊が売っているのですよ。

ところがこの雑誌、見るからに分厚い。まるで昭和の電話帳か百科事典の分厚さです。
これが見た目通りに、とてつもなく重い
魚住が書店員やってた2011年頃は、ゼクシィの総重量はなんと4.2kg
(現在はそれよりも重くなっているらしい)
4.2kgって新生児の平均体重よりずっと重い!

そう! 「幸せ」は重いのです。その重い「幸せ」を買って帰るのはほとんどが女性。書店のビニール袋だと「幸せ」の重量を支えきれません。手が切れちゃいます。縁起が悪いです。

そこで! 書店には「ゼクシィ専用袋」というものが用意されているのです(無料)。
リクルートから支給された「ゼクシィ専用袋」は布製で取っ手もしっかりしています。何だったら近所に買い物に行く時に使える手提げ袋としても使えます。
しかーし、私だったらこっぱずかしくて使えませんな(そもそも買わないから袋ももらえないけど)。

この「ゼクシィ専用袋」は、レジカウンターの下に格納されていて、普段は使うことはほとんどありません。でも、書店員として接客するなら一度、あの分厚い「ゼクシィ」を「ゼクシィ専用袋」に入れてみたいと思っておりました。

そして、ついに! その時がやって来たのです。
20代前半のチャラい女性が、かなり重そうに「ゼクシィ」を抱え、「んっ!」と小さく力みながらレジカウンターに乗せたのです。

おお、専用袋チャーンス!

魚住は即座に「ゼクシィ専用袋」を取り出し、「よっこらっしょ」と入れて、袋を手渡しながらにっこり微笑んで言いました。
「お幸せにっ!!!」
「……………」
その時の、お客さんの複雑でイヤーーーな顔!!
未だに忘れられません、あの表情!(爆笑)
せっかく祝ってあげてんのにさっ♪(←ちょっとイジワル?)

●「地獄」を売る!
ある日、品の良い60代後半ぐらいのご婦人(おとなしそう)が有象無象書店ホルス無双店に来店して、レジカウンターで我々書店員におずおずとこう言ったのです。

私「いらっしゃいませ」
ご婦人「あの…絵本を探してるんですが…」
私「どんな絵本をお探しですか?」
ご婦人「孫にプレゼントしようと思って」
私「お孫さんへの贈り物ですね。可愛いのがいいですよね?」
ご婦人「あの…マツコ・デラックスが朗読してたらしいんだけど…題名が分からなくて…」

魚住、ピンッときました!
それは『絵本  地獄』に間違いない!

『絵本 地獄』風濤社 (1980/8/31)

SNSやっているとその手の情報はすぐに入ってきます。ネットやっててよかったぜ。
すぐさま、お客さんを絵本コーナーにご案内。確か、あったはずです。巡回しながら伊達に書籍チェックをしていない魚住。ありました! その絵本を手に取り、お客さんに手渡します。

私「お客様がお探しになっているのはこちらの『絵本  地獄』だと思われます」
ご婦人「そう! これこれ! 表紙も内容も怖ろしかったわ」
私「絵本が発売されたのはもう30年前なんですが、テレビで取り上げられてから最近、話題なんですよ」
ご婦人「孫にね、悪いことしたら地獄に墜ちるわよって読み聞かせようと思って…でも、怖すぎて、私まで孫に嫌われないかしら?」

そこで、再び、魚住の髪の毛がピンッと立った!(←鬼太郎かいっ!)
絵本コーナーの棚からまた違う一冊を取り出し、ご婦人に表紙を見せる。

私「お客様! 『極楽』という絵本もございます。この絵本で地獄の怖ろしさをフォローすればいいと思いますよ。こちらの『極楽』を『地獄』とセットでいかがでしょう!
ご婦人「いただくわっ!!!

『絵本 極楽』風濤社 (2009/6/1)

有象無象書店ホルス無双店に勤めて初めてのセールストーク。
そして、初めてドンピシャでハマったお買い上げ成功!
後にも先にもこれだけだったが…(笑)。

でも、自分が持ってた情報をお客さんに提示して、お客さんが喜んでくれてとても嬉しかったのですよ。
ご婦人のお孫さんがちゃんと眠れていることを祈るばかりです(笑)。

しかし、書店は何でも売ってるのですよ。
「幸せ」も「地獄」も……ここにあります。

ありがとうございました。またお越しくださいませ♡

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