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【短編】ともだちがほしい


女友達が欲しい。猛烈に欲しい。恋愛感情とか上下関係とか、そういうしがらみが介在しない女友達をつくりたい。お互い打算のない純粋で無垢な友情を育みたい。男の友人でも別に構わない。美しき友情の手前、性別などただの記号に過ぎないのだから。そもそも僕ぼっちだから友達欲しい。友達ひとりもいないから欲しい。寂しい。震える。

僕の求める理想の友達像とは、容姿端麗で頭脳明晰で高学歴で優しくて親が資産家で上品な人。そんな人が時折、格式の高いディナーショーに僕を誘ってくれたり、ドレスコードのドの字も知らない僕に気を遣って、華やかさの漂うコーディネートを屈託のない笑顔で提案してくれたり。彼女の家に招待されて、彼女の家族(旦那が司法書士でハンサム)と一緒に食事を楽しんだ後に、彼女のペットのブリティッシュショートヘアとのんびり戯れたり、夏休みには地中海にある別荘で優雅に過ごさせてもらったり。

思慮深い彼女はそんなうだつの上がらない僕に気を遣って「たまには私にもポケモンGOを教えてくれないかしら?」などと僕に千載一遇のチャンスを与えてくれたり。そうして天保山の埠頭あたりで、僕は天にも昇るほど舞い上がって彼女にポケモンGOをレクチャーするわけだけど、まる一日粘って目当てのポケモンが全然出なかったり、レアなポケモンに遭遇するも逃げられてしまったり。それでも彼女は別れ際に「今日はとっても楽しかった。ポケモンをするのは初めてだったけれど、こんなにワクワクするゲームだったなんて。次もぜひ、またご一緒させてくださいね。」「それにしてもくらげさんは本当にポケモンが好きなのですね。熱心にスマホをタップしてモンスターボールを投げる貴方の眼差しはまるで別人のようでしたわよ。うふふ。」とか言ってくれたりして、僕はなんだか恥ずかしくなって、げへへとか少し笑ったり。そんな友達が欲しい。猛烈に欲しい。

容姿端麗で頭脳明晰で高学歴で優しくて親が資産家で上品で忍術が使えて魔法が使えて北の大地に眠る金塊の在処を知っている人がいたら、ぜひお近づきになりたい。いや、そんな人存在するわけないのだけれど、僕はずっと待っていたい。全ての条件を掌握する完全無欠の才色兼備な人が、僕の傍らに現れるのを。

ねえねえ、そこの全知全能のあなた。友達になろうよ。僕、とっても楽しい人ですよ。ムードメーカーですよ。髪の毛ふさふさですよ。嫌いな食べ物ないですよ。まいにち小説読みますよ。変わり者ですよ。不思議系ですよ。にこにこるんるんですよ。はい、すべて嘘。ぜんぶ虚像。ただのあたおか。アル中で軽薄なちんちくりんです。



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