獺川浩

「うそかわこう」と読みます。 いろんなジャンルの小説を投稿しています。公募にも挑戦中。…

獺川浩

「うそかわこう」と読みます。 いろんなジャンルの小説を投稿しています。公募にも挑戦中。小説/漫画/ゲーム/音楽/動物が好きです。創作系のアカウントはフォロバします。

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固定された記事

【短編小説】見守るもの

 最初は父さん母さんと、生まれたばかりの美也子だけだった。  何年かして美也子が年長さんになると、うちは犬を飼いはじめた。オスの柴犬で、名前はコロマル。ころころ…

獺川浩
2年前
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【連載小説】星のあと 20

 先生が一つずつペアを作っていく。なかなか順番が回ってこないのが焦らされているようでやきもきしたし、残りの生徒が減ってくると早すぎると思った。しかし十吾は、向き…

獺川浩
1日前
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【連載小説】星のあと 19

 翌日、やや多い仕事量を前にして、ゆかりは吉男に遅れると告げた。頑張れば一人でもこなせるかもしれない。でも違う。違っているはずだ。息を整えてから、席を立った。 …

獺川浩
1日前
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【連載小説】星のあと 18

「私とスウはいつも一緒にいた。触れずとも、互いの感情を何もかも分かりあえた。柔らかな陽光に包まれながらぷかりと宙に浮かび、六日ごとにやってくる夜には並んで星空を…

獺川浩
1日前

【連載小説】星のあと 17

 覚えのいいムトは、ひらがなの形と発音の紐付きをすっかり習得してしまった。湊がまた同じように表を作り、次はカタカナに入った。だが、それもすぐに覚えてしまうのだろ…

獺川浩
1日前

【連載小説】星のあと 16

 十二月になると毎日のように雪が降り、ぐっと冷え込んだ。 風が強く吹くと一瞬だけ吹雪を連想する。登校中、厚地の手袋をうらやましがった十吾が貸してくれよとすり寄っ…

獺川浩
13日前
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【連載小説】星のあと 15

 研究は進んでいた。形態変化の性質を記録したり、ムトの記憶を旅したり、互いの生活や世界についてよく語り合った。知識に対して貪欲だというのもあるが、自分が持ってい…

獺川浩
13日前
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【連載小説】星のあと 14

「道は全て黄色だった。目に痛いほど濃厚な黄色だ。とてつもない広さの道幅に細かな区切りが入った地面はしっとりとしていて、硬くはない。一定以上の弾力があった。時々、…

獺川浩
13日前
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【連載小説】星のあと 13

 住処でムトと話しているとき、吉男がナップサックから漢字ドリルを出した。 「おいよしお、何してんだよ」十吾が近寄ってくる。「そんなの持ってきて」 「宿題だよ」吉男…

獺川浩
13日前
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【連載小説】星のあと 12

 木枯らしが吹いた。冷たい風が、三角座りをする一同の無防備な足を撫でつけながら通り抜けていく。先週よりも一段階上昇したかに感じられるその冷たさは、冬の到来を自然…

獺川浩
13日前
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【連載小説】星のあと 11

「手伝った方がよかったかな?」と、ビルの前まで来て湊は言った。 「ほっとけよ。見張りがいなくてせいせいするぜ」十吾は軽くなったと言わんばかりに肩を回す。「あー楽…

獺川浩
3週間前
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【連載小説】星のあと 10

 たかが、名前を呼ばれただけのこと。なんでもない。なのに、どうしてこうも気になるのか。目で追ってしまうのか。わからない。どうしても。  ゆかりにとって一番解せな…

獺川浩
3週間前
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【連載小説】星のあと 9

「焦土の中を歩いていた。進むごとに足元から灰が舞い散り、降りつのる灰と混ざり合う。周囲の熱気は重く、ざらざらとしている。苦々しく焦げくさい匂いがしていて、煙霞の…

獺川浩
3週間前
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【連載小説】星のあと 8

 土曜の授業後、そして日曜と、いずれも昼一番からビルに行った。早い時間の来訪の理由を訊ねられたついでに話した、学校の休みや時間割のことを、ムトは興味深そうに聞い…

獺川浩
1か月前
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【連載小説】星のあと 7

 ビルへ行く前に、湊は持ち物を検めた。シャベルや虫網など、かさばる物をリュックから抜き、代わりに国語辞典を入れた。  ムトと会話していて思ったのだが、ムトの言葉…

獺川浩
1か月前
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【連載小説】星のあと 6

 授業が終わるのが待ち遠しかった。わくわくしていた。そわそわしていた。湊と吉男と十吾は休み時間の度に集まり、他のクラスメイトに聞かれないようこっそり昨日の出来事…

獺川浩
1か月前
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【短編小説】見守るもの

【短編小説】見守るもの

 最初は父さん母さんと、生まれたばかりの美也子だけだった。
 何年かして美也子が年長さんになると、うちは犬を飼いはじめた。オスの柴犬で、名前はコロマル。ころころ丸っこいからと、美也子が名付けた。
 母さんと一緒に近くの公園へ行き、子犬のコロマルと美也子は兄妹のようによく遊んでいた。
 一年もするとコロマルはもう大人になって、美也子はうらやましがっていたけど、コロマルにもたれて寝るのは気持ちよさそう

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【連載小説】星のあと 20

【連載小説】星のあと 20

 先生が一つずつペアを作っていく。なかなか順番が回ってこないのが焦らされているようでやきもきしたし、残りの生徒が減ってくると早すぎると思った。しかし十吾は、向き合うと決めたものの、具体的にどういう言葉でどう言おうかは考えていなかった。考えだしてすぐ、頭がごちゃごちゃしてきてやめたのだ。ただそれは、話せばどうにかなるなどといった破れかぶれの楽天性ではなく、仕立てのよい言葉に意味がないことを、どこかで

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【連載小説】星のあと 19

【連載小説】星のあと 19

 翌日、やや多い仕事量を前にして、ゆかりは吉男に遅れると告げた。頑張れば一人でもこなせるかもしれない。でも違う。違っているはずだ。息を整えてから、席を立った。
「木下さん」
 ふりむく里子にたじろぎそうになる。自分は前回、ひどい断り方をした。だから何を言われても仕方ない。胸に渦巻く気まずさを抱えてゆかりは言った。
「手伝ってくれない? 仕事が多くて大変なの」
 すると、一瞬きょとんとしていた里子の

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【連載小説】星のあと 18

【連載小説】星のあと 18

「私とスウはいつも一緒にいた。触れずとも、互いの感情を何もかも分かりあえた。柔らかな陽光に包まれながらぷかりと宙に浮かび、六日ごとにやってくる夜には並んで星空を見上げた。同族の数は多くなく、誰もが見知っていたが、もっとも縁を深めた者はスウだった」
 イメージが流れ込んでくる。いつものような具体的な風景ではなく、漠然とした感覚に依るイメージだ。湊たちにはスウの姿がおぼろげにしか見えない。ムトは映像を

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【連載小説】星のあと 17

【連載小説】星のあと 17

 覚えのいいムトは、ひらがなの形と発音の紐付きをすっかり習得してしまった。湊がまた同じように表を作り、次はカタカナに入った。だが、それもすぐに覚えてしまうのだろう。文字を教えてもらっている時のムトは楽しそうだ。相変わらず表情はないが、取り組む姿勢を見ていればはっきり分かった。
 ただ湊は塩の一件から実験を控えるようになり、その代わりムトの基本的な生態を毎日聞くようになった。同じ過ちを繰り返さないよ

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【連載小説】星のあと 16

【連載小説】星のあと 16

 十二月になると毎日のように雪が降り、ぐっと冷え込んだ。 風が強く吹くと一瞬だけ吹雪を連想する。登校中、厚地の手袋をうらやましがった十吾が貸してくれよとすり寄って、嫌がる吉男と押し問答していると、二人の横を通り過ぎざまにゆかりが言った。
「おはよう」
「えっ、ああ、うん」
 吉男は戸惑いながら返事をした。相変わらずゆかりが近くに来るとどぎまぎしてしまう。白い肌にはっとしてしまうのだ。だが今日は違う

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【連載小説】星のあと 15

【連載小説】星のあと 15

 研究は進んでいた。形態変化の性質を記録したり、ムトの記憶を旅したり、互いの生活や世界についてよく語り合った。知識に対して貪欲だというのもあるが、自分が持っている図鑑や教科書などの書物、あるいは口頭の解説によって伝えられる情報をムトが欲してくれているのは、湊にとっても喜ばしいことだった。
 ただ、時々ムトの気持ちが分からない時がある。記憶の映像を見て、こちらは楽しくも寂しいような感覚になったり起伏

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【連載小説】星のあと 14

【連載小説】星のあと 14

「道は全て黄色だった。目に痛いほど濃厚な黄色だ。とてつもない広さの道幅に細かな区切りが入った地面はしっとりとしていて、硬くはない。一定以上の弾力があった。時々、柱に羽根のついた房のようなものが立っており、風でばらける糸の束に触れるとちくちくした。だが傷が付くほどではなく柔らかみがある。空は澄み、何者にも縛られない開放的な空間が拡がっている。だが、生き物は見当たらない。ただ時折、びゅうと風が吹き、房

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【連載小説】星のあと 13

【連載小説】星のあと 13

 住処でムトと話しているとき、吉男がナップサックから漢字ドリルを出した。
「おいよしお、何してんだよ」十吾が近寄ってくる。「そんなの持ってきて」
「宿題だよ」吉男はちょっと嫌そうな顔をした。「ここに来るたび未確認ノートに書くことが増えるから、時間なくて大変なんだよね」
「今日は宿題多いからなあ」湊が言った。「僕は帰ったらやる」
「湊くんは早いもの」
 ふと見回せばゆかりも早そうで、しかし十吾は、と

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【連載小説】星のあと 12

【連載小説】星のあと 12

 木枯らしが吹いた。冷たい風が、三角座りをする一同の無防備な足を撫でつけながら通り抜けていく。先週よりも一段階上昇したかに感じられるその冷たさは、冬の到来を自然に告げていた。
 体育の授業で並んで座しているのは六年二組の面々だけではなく、一組も塊になって横にいた。合同授業だ。卒業が近いので、思い出作りの一環として企画されたのだが、先生の思惑など大半の生徒は感じとれず、ただなんとなく祭り事の雰囲気に

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【連載小説】星のあと 11

【連載小説】星のあと 11

「手伝った方がよかったかな?」と、ビルの前まで来て湊は言った。
「ほっとけよ。見張りがいなくてせいせいするぜ」十吾は軽くなったと言わんばかりに肩を回す。「あー楽ちんだぜ」
「ぼくも、放っておけばいいと思う。男子に言われたって受け入れるわけないよ」
 半ば投げやりに吉男が言う。吉男は今それどころではなかった。次に野呂兄弟が襲いかかってきた際の身の振り方がさっぱり思いつかない。どうやって身を守る? ど

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【連載小説】星のあと 10

【連載小説】星のあと 10

 たかが、名前を呼ばれただけのこと。なんでもない。なのに、どうしてこうも気になるのか。目で追ってしまうのか。わからない。どうしても。
 ゆかりにとって一番解せないのは、理由らしい理由がなさそうなことだった。名前なら誰にだって呼ばれているからだ。自分のことで意思が定まらないのも初めてであり、しかし己の中のぶれのようなものは感じることができた。対抗心は失っていないが、違う感情が介入したことで、割合とし

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【連載小説】星のあと 9

【連載小説】星のあと 9

「焦土の中を歩いていた。進むごとに足元から灰が舞い散り、降りつのる灰と混ざり合う。周囲の熱気は重く、ざらざらとしている。苦々しく焦げくさい匂いがしていて、煙霞のために景色は不鮮明。時折、轟音と共に立ち昇る噴流が、煙の向こうに赤くちらつく。遠目にも分かるほど激しい炎上だ。溶解を伴い、原型を忘れかけた岩石が無作為に降り注ぎ、灰にまみれながら山坂を転がっていく。勾配は緩やかだが道のりは果てしない。どれほ

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【連載小説】星のあと 8

【連載小説】星のあと 8

 土曜の授業後、そして日曜と、いずれも昼一番からビルに行った。早い時間の来訪の理由を訊ねられたついでに話した、学校の休みや時間割のことを、ムトは興味深そうに聞いていた。生活習慣の異なりが気になるらしく、自分たちが普段気に留めていない点をよく訊くため、その度に皆は色々と考えた。
 もっとも十吾は結論を急ぐか放棄していたし、ゆかりは他に気がかりがあったので、自然と湊の回答が多くなった。吉男も考えるが、

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【連載小説】星のあと 7

【連載小説】星のあと 7

 ビルへ行く前に、湊は持ち物を検めた。シャベルや虫網など、かさばる物をリュックから抜き、代わりに国語辞典を入れた。
 ムトと会話していて思ったのだが、ムトの言葉遣いは少し難しいときがあり、話の流れやニュアンスで理解している部分があったため、知らない単語が出てきた際に辞書で調べられれば、と考えたのだ。もちろん、出てくる都度調べていては会話から置き去りにされてしまうので、わからない言葉を書き留めておき

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【連載小説】星のあと 6

【連載小説】星のあと 6

 授業が終わるのが待ち遠しかった。わくわくしていた。そわそわしていた。湊と吉男と十吾は休み時間の度に集まり、他のクラスメイトに聞かれないようこっそり昨日の出来事を話し合った。
「この分ならよ、河童だっているんじゃねえか?」
「十吾くんったらもう、調子いいんだから」
 軽い冗談を言い合い、でも本当にいるんじゃないかと思わずにはいられなかった。何せ本物に出会ったのだ。特に吉男は活き活きとしていた。着々

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