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うまれかわ


じゃぱねっとカタカタの社長が、机の上に大きなガラスビンを置いて、カン高い声で通販のセールストークをしている。ガラスビンの中では黒い味噌みたいな物がゴニョゴニョ動いている。その中からピンポン玉くらいの大きさの惑星が次々に生まれると、ポンッと蓋が弾けて、水・金・地・火・木・土・天・海の順にビンから飛び出し、ポンポンポンと八つの超小型打ち上げ花火に変わった。最後に冥王星もヨロヨロと出て来て打ち上げ花火に変わった。社長はひと通りセールストークを終えると、片手でビンをパチン!と叩いて、うまれかわ、と呟いた。

夢から覚めると私は夢精をしていた。起床してパンツを履き替え、洗面を済ませて朝食を摂りに台所に行った。テーブルでは妻が口をあんぐり開けて、皿に山盛りになった何かの幼虫の外骨格を箸で一つずつ摘んではバリバリ噛んで食べている。すごく美味しそうなのに私には全くすすめてくれない。見ていると外骨格の山は徐々にはったい粉の山に変わっていった。私はスプーンではったい粉をすくって口に入れた。妻はタクアンを二切れ齧り、明治おいしい牛乳をゴクゴク飲んでゲフッ、一つおくびをした後、うまれかわ、と呟いた。

テレビには飛行するミサイルが映っている。巡航ミサイルなので、山や谷の起伏に沿って高度が上がったり下がったりしている。なんだか飛び方がヨタヨタと頼りない。すると、山の尾根に立っていた黒い毛むくじゃらの獣が、通りかかったミサイルを片手でバシッと叩き落とした。ミサイルは谷底まで転がり落ちて行った後、弾頭がパカン!と開いて、中から垂れ幕みたいな布がスルスルと地面に広がり、それには平仮名が丸文字で書いてあった。起きてきたタッくんがそれを読んで、うまれかわ、と呟いた。

いちばんちっちゃいアーちゃんも起きて来た。アーちゃんはオネショをしていた。妻がぶつぶつ言いながら隣の部屋にアーちゃんを連れて行き、パジャマと下着を着替えさせている。私は洗濯機に放り込んだ夢精のパンツが妻に見つからないよう祈った。たまごボーロ、たまごボーロ、とつぶやきながら、フラフラとキッチンに戻って来たアーちゃんは、まだ寝ぼけていたので、テーブルの縁におでこをコツンとぶつけると、イタッ、うまれかニャ、と可愛く呟いた。

双子のコメ婆さんとムギ婆さんも起きてきた。ナンマンダブうまれかわ、ナンマンダブうまれかわ、とシンクロナイズドで呟きながら。トミユキ叔父とトラスケ爺さんも起きてきた。うまれかわー、うまれかわー、と輪唱しながら。テレビではじゃぱねっとカタカタの社長が、うまれかわという言葉を黒い味噌みたいな物のセールストークに巧妙に入れ込みながら、ミサイルの破片を拾い集めている。ガラスビンの中の黒い味噌みたいな物がドロドロと外に溢れだした。

妻はまた何かの幼虫の外骨格を皿に盛って食べ始めた。うまれかわ、うまれかわ、と呟きながら。タッくんは幼稚園の裏の山へ柴刈りに。うまれかわ、うまれかわ、と呟きながら。アーちゃんは保育園の前の川へ洗濯に。うまれかニャ、うまれかニャ、と呟きながら。上流から桃がドンブラコ、ドンブラコ。中からモモターロとして生まれ変わった私が出て来た。なんて事があるわけなくて、私はもういいかげんウンザリしていたので、たとえどんなことが起ころうとも、うまれかわ、とは呟くまいと決心しつつ家を出て、会社に向かいつつあった。


  

*詩投稿サイト「即興ゴルコンダ」(不参加作品)
「うまれかわ」出題:クローバーさん (2015/02/04)   



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