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【ショートショート】ママとチーママ

 中国無錫市の假日広場というところにMARSという日式クラブがある。日式クラブとはいわゆる日本人向けKTVで、小姐(キャスト)を選び、個室でカラオケや会話を楽しむ場所だ。

 ここのママのカシスとは十年以上の付き合いだ。出会った頃は彼女は二十歳になったところで、ど田舎から出てきた本当にうぶな少女だった。ところが今じゃ自分で店を何軒も持ち、大金持ちになっている。

 この店のチーママのココミも十年ほどの付き合いで、最初に出会った時は十八歳で、僕が最初の客だった。日本語なんて全く話せなかったのに、今じゃ僕との会話は日本語だ。MARSではチーママではあるけれど、ママのカシスから大信頼を受け、全面的に任されている。

 たまにMARSに行くと、僕は席数の少ないカウンターで飲む。なぜ個室に行かなかというと、もう十年以上も中国にいるので、小姐を選んだりするのは恥ずかしいというのがあるからだが、カウンターだと、カシスかココミのどちらかがいることが多いので、少し飲み足りない夜に立ち寄り、彼女らと昔話をしながら気楽に飲むことができるからだ。

 それに、カシスがいる時は、ボトルを無料にしてくれセット料金を払うだけにしてくれるし、ココミがいる時はセット料金だけで飲み放題にしてくれるから安く飲めるのだ。二人ともいいやつだ。

 ある日、いつものようにカウンターに座ると、珍しくカシスとココミの両方がいた。店が暇なのだろう、二人ともカウンターから離れることがなく、久しぶりに三人でお酒を飲み昔話を楽しんだ。

 楽しい時間は、あっという間に過ぎて行く。
「そろそろ帰るか。マイダン(お勘定)!」
「まだ早いわよ」
 もう午前一時だと言うのに。でもそう言ってくれるのは嘘でも嬉しい。

 そう言えば今日はカシスとココミの両方がいるってことは、もしかしたらボトルもセット料金もサービスってことになるかもな。と淡い期待をしていた。

「今日は1200元です」

 二人でいる時はサービス無しかい!

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