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「ぶぶ漬けでもどうどす」と訊かれたら

京には有名な言葉がある。

――ぶぶ漬けでもどうどす。

ぶぶ漬けでもどうどす(お茶漬けでもいかがですか)
ぶぶ漬けとは京ことばでお茶漬けのこと。真意は「そろそろお帰りください」であり、「ではお言葉に甘えて」などと答えれば笑いものになる

京に暮らした大学4年間、そんな空気は肌で感じた。
大家がおだてるから、ま、まぁ…と乗っかったら突然ハシゴはずされたり。
社会人としてこの千年の都でやっていくなら、本音と建て前の使い分けを修得しなければ難しいと思った。

***

京はやっぱり漬物だ。
すぐき、しば漬、千枚漬。
内陸の町ゆえ野菜の保存技術が発達し、漬物が盛んになった。

漬物とごはんがあれば、肉も魚もいらない。
漬物とお茶の組み合わせもまたステキ。
じゅわぁっと漬物の旨みや酸みが口に広がったところに、すかさずお茶をすする…考えただけでもヨダレが。
漬物、ごはん、お茶の3拍子揃った京のお茶漬けは最強だ。

二寧坂の〈阿古屋茶屋〉はそんなお茶漬けの店。

いつも待ち客でごった返している。
名前を書いてから、辺りの散策に出かけてもいいくらい。
人気の石塀小路や八坂の塔などは徒歩数分の距離にあるから。

待って待ってようやく席に通されて、出てくるのは空っぽのお皿たち。

も、もしやこれは早よ帰れの合図?
ぶぶ漬けの店だけに不安が募る。

なわけない。
ここはお茶漬けバイキングの店なのだ。
ごはんも漬物も、好きなだけ自分で盛って食べることができる。

ごはんは、白米、十六穀米、おかゆから。
漬物は、なす、きゅうり、大根、山芋など20種から。
お茶は、煎茶、ほうじ茶をかけ放題。
そして時間制限なしの太っ腹。

空腹すぎて食べたい漬物だけ盛るから、彩り悪く、まったく映えない。
公式から美しい画像を借りよう。

「まずは、自分流の ”彩り” で盛り付けを楽しみましょう!」(©公式)
「色とりどりのお漬物を思う存分味わう」(©公式)

さすが本能に支配されていないプロカメラマンはいい仕事をする。

「締めは”お茶漬け”でサラサラと」(©公式)

いろんな漬物を載せて熱いほうじ茶をかけるのが京流、だそうだ。
たしかに関西でお茶といえば、煎茶よりほうじ茶。

食後のもなかも餡詰め放題。

2種類の餡を詰める”もなか”(餡は季節ごとに変わります)(©公式)

店内すべて食べ放題、飲み放題、そして居放題。
満腹にもほどがある。
ここで「ぶぶ漬けでもどうどす」と訊かれたら。
そろそろどすね、と大人の答えをすぐ出せる。

(2022/9/8記)

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