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食べたさが勝り、気づいたらスーパーで酒粕を買っていた

まもなく酒粕のおいしい季節になる。
ひと月もすれば、蔵元直送のできたて酒粕が出回るようになるだろう。
冷え込みの一段と厳しい12月から3月にかけて、清酒づくりが最盛期を迎えるからだ――

先日、豚の味噌漬けの記事をあげた。

ひとたび何か漬けると次々漬けたくなるといった話だが、案の定、漬けたくなった。
おそらく日本人のDNAに刷り込まれた発酵魂が、次なる発酵臭を求めているのだ。
そして何より、漬けたものはより柔らかく、よりおいしく、より栄養価に富むときているから、やめられようはずもない。

そろそろ寒くなってきた折から、頭に浮かんだのは酒粕だ。
ほろ酔いで身体も芯から温まり…と酒粕への想いを募らせると、たちまち引き返せなくなった。

――待て! 新酒しぼり立ての酒粕はまだ店頭に出てへんで!
そんな心の叫びは、まるで聞こえなかった。
食べたさが勝り、気づいたらスーパーで酒粕を買っていた。

いま手に入る酒粕は、冷蔵設備などが完備され年中酒づくりができる大手酒造メーカーのものだけだ。
通年で生産される清酒が味わいに乏しいのと同様、酒粕も風味が弱い。
でも買ってしまったのだからしょうがない。

鶏ももの粕漬けを作った。

鶏は驚きの柔らかさに。
グリルの焼き目が美しいパリパリの皮とあいまって、いやもうこれなんですのん? と思わず口走った。

酒粕には1gあたり5億もの酵母が生きているという。
麹菌が生み出した酵素もふんだんに含まれている。
そらぁ鶏も柔らかくなるって。

あわせて作ったのは、酢れんこん、大根とサバの醤油煮、小松菜のすまし、気分的に押し麦を入れて炊いた麦ごはん。
なんだか体内が浄化されるよう。

翌日には大好物の粕汁を作った。
大人になるまで、なんでこんなものがうまいのかさっぱり分からず、眉をひそめながら食べたものだけど。

粕汁、うまい。
けどやっぱりグッとくるものが足りない。
漬け材としては酵母、麹、酵素の活躍が光るが、風味を楽しむにはやはり本格酒粕の登場を待たねばなるまい。
待ちきれず通年ものに手を出した自分、もっと言うなら手を出させたDNAに文句を言うしかない。

舞茸の炊き込みごはん、ぶりカマの塩焼きも用意して秋三昧。
薄口醤油を切らした代償に、下品な色の炊き込みごはんとなったが、味に別状はない。

酒粕100gにビタミンB1がレモン15個分、ビタミンB2がりんご5個分、ビタミンB6がレモン8個分、ナイアシンがバナナ3本分が含まれ、加えてミネラル、食物繊維、酵母、酵素、乳酸菌の宝庫ときている。
風味絶佳は蔵出しを待つとしても、日常に取り入れたい発酵食品だ。
僕のDNAがそう叫んでいる。

(2022/11/2記)

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