【詩】詩篇2022

 2022年に書いた詩群。

 「子らしき音」
 「出発」
 「月」
 「口裏」
 「残響炎」
 「田舎」
 「時間短縮」
 「洞穴」
 「人魚」
 「俺の分身が隣でむごく殺されるのを見せつけられるだけの人生を面白がって生きているだけの分身であるところの俺の隣でむごく殺されていくのを見せつけてくる分身の退屈そうな人生」
 「農舎」
 「事故詩」
 「恋」




  子らしき音


子の声を聞きつける
どすの効かせ方を聞き分け

この声こそ子の声と
聞き分けることが上手な方々の
見分けをつけることこそが
子の
お咎めを減らす上手なやり方
だ、と
聞きつけて言葉巧みに

なのかどうかも分からぬ
どすを効かせた声を出させる
怖い
怖い
感じの
方々
――
「恋煩いには
多くを語ってみることを
お勧めしますが
けして無理強いしたりはしません
しかし
多くを語れば語るほど
苦しい気持ちが整理され
踏ん切りのついた気持ちになり
新しい一歩を踏み出しやすく
踏み出しやすく
なるでしょう」
なんという説得力!
なんと巧みな言葉だろう!
「ついでに関係のないことを
参考までにお教えしますと
どうやら他のみんなも同じく
多くを語って気持ちを整理し
新たな一歩を踏み出して
いるようです

いうまでもなくあなたはあなた
あくまで、あなた自身で決めて
語りたければ語ればよし
語らなくても構いませんが
ちなみにみんなは語っています」
語るべきか……語らざるべきか
実は私の声もまた
どすが効いているのだと
打ち明けるべきなのか?




  出発

保たれているふりをされることに慣れているのだと思われているとすれば大間違いだ、諸君!ろくでもない言葉を投げかけてくる連中の口から連呼される言葉の中でも最も投げかけられるのにうんざりさせられている言葉こそ、ろくでもない、あのろくでもない、保たれていると察させる意図を暗に含んでいる、ろくでもない、あのろくでもない、俺たちの中に一人として聞き飽きていない者のない、ろくでもない、あのろくでもない言葉なのだ、諸君、耐え続けたせいで、うつろな目をしていない者がついに一人もいなくなったことからも分かるだろう!
連呼されればされるほど、白々しさも増していくのだと、俺たちにとって知るのがたやすい言葉の最たるもの――諸君!諸君!諸君!諸君!それが何かをあえてこの場で言うまでもないだろう!保たれているふりをされなくてもよくなるその日まで、俺は決して口をつぐまず、諸君に訴えかけていくだろう!
というわけで、
真算議術長権を要求する
あ、それ
と思うことによって
偽算議術長権を発出した
全ての全通的御人たちの
罪を深く糾弾する
功利の良さ・悪さを超えて
発出された真算議術長権が
真に真であることによって
真に偽でないと明かされるその日まで
鋭く鋭く糾弾する激しい俺の決意だけは
絶対に
「あ、それ」とは思われない
俺は
くじけない




  月

ほとの14三月費
有事じみている九才参加費たちを請求しようとするも
幼女たちに邪魔だてされ
九月
十月と
惨劇を増やしていくでしょうね……
後用とあらば三月費
救事にのたまわくは
いかに
いかにと
苦しみを与え続けているのでしょうね……
お前が
三月であるための
費用を
上乗せして
来月までに
俺に
払わなければならない




  口裏

俺の記憶に付け加えられなかったことだけが
俺の耳元で鳴っていたわけだ、要するに
口裏を合わせてささやき続けた
声の主たちに紛れ込み
口元をさらけ出しながら
誰かの耳を待っている
聞け
聞け
聞けとささやく
あまりに小さい悲鳴のあげ方

恐ろしい音が
俺の耳以外
すべての場所で
鳴りやんでいる

優れた聴力に恵まれたことは
一度もなかったと白状すれば
また一つだけ
よい言葉を聞かせてもらえそうだ
聞き漏らそう
聞き漏らそう
身を乗り出して
大切な思い出話を
ひとつ残らず
黙らせよう




  残響炎

音を小さく感じることは
俺にとってはあまりにたやすい

残響であるような雰囲気を
四六時中発しながら
聞こえても聞こえても
まだ尽きる気配のない
音から耳をそらして過ごす
ことだけが
俺は得意だ

昔からそこで鳴っていた
ふりをするのが徐々に上手に
なっていくのに気が付くまいと
努める横で
あまりにも
なつかしさを感じづらい音
だけがいつも絞られている




  田舎

振付師の踊りばかり見せびらかしてくる恥知らずな女どもは
仮面をかぶって今日も道の
真ん中ばかりを練り歩き
道幅を狭くすることで
田舎町を広くする
こぎれいな舗装を靴底で
つい汚していってしまい
偶然にも味わうことのできた快さをかみしめて
かみしめた分だけ踏みしめて
踏みしめた分だけ執拗に
踏みにじっておきながら
素知らぬ顔で通過していく
女どもの笑い声が
田畑を荒らし
作物を根絶やしにして
害虫たちに
礼を尽くす




  時間短縮

余命三か月であることが上手な人々ばかりを集めた特設ルームにいざなおう、いざなおう、遅まきのサイレンを頼りに内へ内へと廊下を進んで、突っ伏したままの看護人たちをかき分ければ、たどり着きやすくなるように設けられたルームへと、いざなおう、いざなおう、急ぎ足でいざなおう、及び腰になろうとするたび、注意を向けさせてくれる、横並びの看護人たちを踏み分けて、かき分けて、ようやくたどり着きやすくなっていく場所を、あらかじめ選んでおいただけのことであって、ことさら、特設のために、かつて、何かを、努力した、わけでは、なかったのだけど。




  洞穴

椅子の中の歯車に役割を譲りつかれたアリクイの死を喜んで遠方から駆け付けた男の群れにあてがうため
用意された椅子の下では
俺の友人が
恨みがましい声を上げ
重みに耐えかね
再び動き出そうとしている
らしいのに
行儀の悪い男たちは
飲み食いに余念がない

すさんでいく気分に
覆いかぶさる蟻たちの黒い息が
ほほをくすぐり
乳房をくすぐり
穴という穴へ
舌鼓を打ちながら
もぐりこんでいく

洞穴の蟻たちの
喉の渇きをいやすことを
拒み続ける液状の男たちを
机にぶちまけ
 机の淵から滴らせ
  一粒ずつ
   椅子に
    しみこませていこう




  人魚

よお、唾液人形
いよーいよーいよーおおー
不死身の唾人形が
シーラカンスの水槽で
水に濡れずに泳いでいるぜ!
なびいてもなびいても
まだ揃わない毛並みのように
身を寄せ合う名前たちは
唾液太郎の受け皿として
「不死」のおこぼれにあずかっている
よおーよおーよーよーおおー
息もできねえから
垂れていくよだれの量も
減ろうってもんさ
目もつぶれねえから
瞼の裏の面白さも
めったに思い出されねえ
ってもんさ
道理で
いびきもかけねえ
幸せな蛇口みたいに
温かい気管
よおーっよおーっ
名づけの親の死体が垂らす
よだれを泳ぐ人形たちを
痰壺の中のシーラカンスが
懐かしがって
飲み干すぜえ!




  俺の分身が隣でむごく殺されるのを見せつけられるだけの人生を面白がって生きているだけの分身であるところの俺の隣でむごく殺されていくのを見せつけてくる分身の退屈そうな人生

遊覧歩道は途切れない
通り魔以外
誰もたどり着けない路上が
俺を歩かせようとする

夕方の空気ばかり集めた
ガラス張りの公園の奥で
殺虫している煙のように
俺の残像たちが
殺すことを楽しみながら
俺を追いすがってくる
放つまで待ってもらえなかった
光を巧妙に避けながら
肌色の道路を
無音で
走ってくる

信号機は
醜く遊覧歩道を照らし
気づけばそこには俺以外
通り魔の姿しか見えない




  農舎

農業者の説教は
まくしたてられるだけの価値を伴いながら
俺によって傾聴されていた

「服飾選びに敗北しながら
 露出を楽しむ白い猿を
 雪雲の下の
 白い皿へと盛り付けてやる

 そして
 隠されていく『餌食』の肉に
 うま味調味料をもみこんでやる」

そして
農家が作る茶にしみこんでいた少女たちの尿が俺の舌を刺激する

へたくそな隠し味が
農薬ばりに害を撒き散らしていることを
俺の口内炎が
饒舌に
教示する

よく刻まれた肉しか並べられることのない農民たちの食卓で
説教は
自分が世界一醜いと知る女たちを
小人だましの覚めない夢で丸め込む




  事故詩

弛緩剤の蓋がひきつった顔でほほ笑んでいる、
緊張した段差の転ばせまいとする努力を踏みにじる老婆の足音膝音肘音全身音よおおお鳴れえ鳴り響け!!!!!!!!!!!!!!ございございと語に尾ひれをつけてござい□居る老人の中で最も反××的宗教に長けている苦しみよおおお・・・・・・うつつを抜かすのにもってこいの苦しさだったったったったっ助けてーーーー古い尾ひれを語に、語に……「語尾」とそれらは名づけられていくっくっくっくっ苦しいーーーー言葉ごはんの名づけられ親に志願しまーーーーすまーーすまーーすまなかったねえええええええっえっえっえっえっえーーすまーーすまーーすまーー名かったねえ名づけられえれえれえゆっうっうっうっふっふっふっふっくうっくふうっくっくっくっくっく……っ っ っ っ っ□っう……          う            っ




  恋

 執行停止されることがあらかじめ定められていた極刑に
処されていく睡眠者たち

よ よ よと緩められる
下水の細菌たちの絆は
吐き気を催す、というほどではないもののそれなりに汚らわしいミジンコをおびき寄せ
得るもののない発表会の末席を
こびりついた吐瀉物のように
汚す
ゆ ゆ ゆ 休暇をとっていく「シミである」という仕事に
ず ず ず 未練たらたら
ゆ る れ 方眼紙に突き落とされた
      楽をしているペンキ
連続凌辱魔の
親族を
溺れ死に
させ終わった海水が
下水道へと垂れ流され
汚れた液にまみれながら
自分自身を悠々と
泳いでいるよ 泳いでいるよ
黒すぎる水は
や 走りつかれた逃亡者が
や や 思わずしゃぶりつきそうな
や ゆ よ露に濡れた蛇口の下のペンキ専用流し口へも流されていきうるだろう
哺乳瓶のような蛇口からは
さげられ損ねた溜飲だけが
むき出しののどちんこを恋焦がれつつ
あふれていく
あふれていくよお あふれていく
あふれていくよお




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