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勇者シリーズ(7)「勇者警察ジェイデッカー」|池田明季哉(中編)
「人間」になっていくロボットたち
ダ・ガーンは地球の意志ともいえるような超存在にその人格の根拠を置いていた。しかしジェイデッカーのブレイブポリスは、あくまで超AIという人間が生み出したテクノロジーである。これ自体はマイトガインの勇者特急隊にも存在した設定だったが、それはあくまで旋風寺舞人が所有する旋風寺コンツェルンのテクノロジーのひとつにすぎず、超存在「ではない」意志の根拠として設定されただけで
第十二章 制作――ハードウェアの探究|福嶋亮大(後編)
福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ
6、制作の哲学――他者性のオン/オフ
制作者は、素材=ハードウェアとしての他者を象る。これは他者性の創設である。しかし、この被造物が制作者と合一するとき、他者性はむしろ打ち消される。制作者にとって、素材の他者性はときにオンになり、ときにオフになる。さらに、制作者自身も自らの制作物の魅力や恐怖に屈するとき、自己がオンの状態とオフの状態が重なりあう。『フランケンシ
第十二章 制作――ハードウェアの探究|福嶋亮大(前編)
福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ
1、読むこと、見ること、作ること
私は前章で、近代小説の主体性の源泉が「読むこと」の累積にあることを示した。一八世紀の書簡体小説では、登場人物たちが大量の手紙を送受信し、相手のテクストにエントリーし続ける。手紙はいわば瞑想用のアプリケーションであり、心(主観)の状態をその揺らぎも含めて、きわめて詳細に書き込むことができた。さらに、近況を報告しながら、知識や感情
老骨に自ら入れる鞭の驚くべき強さ~バイデン大統領一般教書演説~|橘宏樹
橘宏樹 現役官僚のニューヨーク駐在日記
第12回 老骨に自ら入れる鞭の驚くべき強さ~バイデン大統領一般教書演説~ お久しぶりです。橘宏樹です。だいぶ間が開いてしまって申し訳ありませんでした。仕事が忙しいことに加えて、1歳数ヶ月となる子供の世話で毎日ドタバタです。子育てあるあるですが、お風呂に入れて、添い寝しながら寝かしつけると、日中の疲れもあいまって、いつの間にか自分も寝入ってしまいます。すんでの
【新刊のお知らせ】三宅香帆『娘が母を殺すには?』 5/15(水)発売!
本メールマガジンで連載していた、三宅香帆さんによる「母と娘の物語」がついに書籍化します!
店頭発売日は5/15(水)、AmazonほかECサイトでは、ご予約受付を開始しております! ご予約はこちら→
「母」の呪いに、小説・漫画・ドラマ・映画等のフィクションはどう向き合ってきたのか?
『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教えるバズる文章教室』の三宅香帆が、「母」との関係に悩むすべての「娘」
第十一章 主体――読み取りのシステム|福嶋亮大(後編)
福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ
6、教師あり学習――ゲーテのビルドゥングスロマン
もっとも、セルバンテス以降もピカレスクロマンの影響力は持続し、一八世紀のヨーロッパではときに女性のピカロも登場した。デフォーの『モル・フランダース』にせよ、サドの『ジュリエット物語あるいは悪徳の栄え』にせよ、その主人公はいわば不良の女性である。特に、悪の快楽に染まったジュリエットは、美徳を象徴する妹ジュスティー
第十一章 主体――読み取りのシステム|福嶋亮大(前編)
福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ
1、一か二か
ルソーが自伝文学『告白』の冒頭で「わたしひとり。わたしは自分の心を感じている。そして人々を知っている。わたしは自分の見た人々の誰とも同じようには作られていない」と大胆不敵に宣言したことを典型として、近代ヨーロッパの文学は唯一無二の創造物である「私」の探究に駆り立てられてきたように思える。故郷喪失に続く冒険を小説の基本的なテーマと見なしたジェルジ・
勇者シリーズ(7)「勇者警察ジェイデッカー」|池田明季哉(前編)
反動としての『勇者警察ジェイデッカー』
「高松勇者」の一作目となった『勇者特急マイトガイン』は、「谷田部勇者」が確立した少年とロボットの関係性を大幅に再解釈し、少年のナルシシズムを強化した。結果としてマイトガインはむしろ搭乗型ロボットの美学へと傾くことになった。
こうした美学の変化に、制作側はおそらく自覚的であったと思われる。なぜならそれに続く『勇者特急ジェイデッカー』は、少年とロボットの関係
京都アニメーション 2ストロークのリズム(後編)|石岡良治
バンドアニメとしての『けいおん!』から考える時代性
『けいおん!』についてもう少しコメントすると、これも『CLANNAD』と同じく「2ストローク」のリズムで2シーズンの物語を描いた作品です。個人的にはテンポの良さからして1期のほうが好みではありますが。
正直当時は『けいおん!』を「バンドアニメ」としては見ていませんでした。いま聞くとサントラのクオリティがとても高いと思うんですが、当時は「
京都アニメーション 2ストロークのリズム|石岡良治
「京都アニメーション 2ストロークのリズム」というテーマで京アニ作品について分析しようと思います。「2ストロークのリズム」が何かは後述しますが、シンプルに言うと『CLANNAD -クラナド-』(2007〜)と、続編にあたる『CLANNAD 〜AFTER STORY〜』(2008〜)のように、シリーズの第1期終了から少し期間を空けてから続編を展開するパターンをモデルにすることができます。最近の作
第十章 絶滅――小説の破壊的プログラム(後編)|福嶋亮大
福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ
6、倒錯的な量的世界――スウィフト『ガリヴァー旅行記』
『ロビンソン・クルーソー』への自己批評と呼ぶべき『ペスト』からほどなくして、一七二六年にスウィフトの『ガリヴァー旅行記』の初版が刊行される。この奇怪な旅行小説は、一八世紀の初期グローバリゼーションを背景として、人間の可変性や可塑性を誇張的に示した。
イングランドの政治を批判する一方、故郷のアイルランドを
第十章 絶滅――小説の破壊的プログラム(前編)|福嶋亮大
福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ
1、冒険の形式、絶滅の形式
小説をそれ以前のジャンルと区別する特性は何か。この単純だが難しい問いに対して、ハンガリーの批評家ジェルジ・ルカーチは『小説の理論』(一九二〇年)で一つの明快な答えを与えた。彼の考えでは、小説とは「先験的な故郷喪失の形式」であり、寄る辺ない故郷喪失者である主人公は「冒険」を宿命づけられている。
ルカーチによれば、近代小説の主人公は「
第九章 環境――自然から地球へ(後編)|福嶋亮大
福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ
6、環境文学のビッグバン――フンボルトの惑星意識
以上のように、ルソーやワーズワースが《自然》と心を同調させる歩行の技術を定着させたことは、文学史上のブレイクスルーと呼ぶべき事件であった。レベッカ・ソルニットが示唆するように、この技術は二〇世紀のモダニズム文学にまで及ぶ[25]。主人公の行動履歴を細かく再現したヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』やジョイス
第九章 環境――自然から地球へ(前編)|福嶋亮大
福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ
1、物質ともつれあった心の生成
近代文学が生成したのは、環境に心を創作させる技術である。物質的な環境(自然)の記述が、心的なものの表現として利用される――この心と自然の共鳴現象が、近代文学を特徴づけている。例えば、小説における風景描写はたんなる記録という以上に、語り手の心の動きと相関関係にある。つまり、ある特定の風景の選択は、心のステータスを間接的に説明してい
勇者シリーズ(6)「勇者特急マイトガイン」|池田明季哉(前編)
池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝
勇者シリーズ(6)「勇者特急マイトガイン」■谷田部勇者から高松勇者へ
前回の連載では、勇者シリーズが『勇者エクスカイザー』『太陽の勇者ファイバード』『伝説の勇者ダ・ガーン』から構成される「谷田部勇者」を通じて、ロボットを通じた少年の成熟についてひとつの美学を完成させたこと、そしてそれが玩具と子どもの遊びを正確に言い表したことを整理し