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「利他的な行動はエゴイズムに過ぎない」に反論するための3つのアプローチ

前記事で、横飲み会の幹事をやった経験を振り返って、「『誰かのために』とったアクションは、結局『自分のため』だったのではないか」と考えたことを書いた。

それを読んでくれた何人かの友人から、同意の意見をもらった一方で、「自分は純粋に他人に喜んでほしくてプレゼントをしている」といった否定的な意見も聞いた。


実際、前記事の引用にあったように、「他人の喜ぶ顔が見たい」という気持ちがエゴイズムに過ぎない、と切り捨てるのは、あまりに悲観主義的というか、正しいかもしれないけれど偏屈なものの見方のように思える。

誰かが何かのために身銭を切ってその人のためになるような行為をしていて、その行為を、「ふん、結局はその人の自己満足に過ぎないのさ」なんて心の中で呟いて終わるのは、その人の行いを全く評価できていないのではないかと思う。

ただ、100%他人のために行われる利他的行為があるとも思わない。
他人のためになる行為をすると、大抵の場合は喜びを感じてしまうため、結果的に「自分の喜びのために」利他的な行為をしていると捉えられる。純粋な利他的行為は、非常に実践が困難なものである。


そこで、上に述べたような立場を一部認めた上で批判するために、
「『他人の喜ぶ顔が見たい』という動機のもとでの行為は、エゴイズムだけでなく利他主義的でもある」

抽象的に表すと、
「私たちは、利他的に行動するとき、自己の利益を達成するための動機だけでなく、他人の利益を達成するための動機をもつ」

ということをどのような方法で示すことができるのか、少し調べてみた。


調べた結果、大きく3つの学問分野によって、この主張を立証することができるようである。


1.心理学

1つは、心理学的アプローチである。

心理学の分野の一つにとしては、ポジティブ心理学というものがある。


ポジティブ心理学とは、90年代に出てきた比較的新しい分野である。これは、人間がより良い真に幸せな生き方をするための方法を心理学の研究成果を元に探求する心理学の一分野である。

詳細はこちらのTED動画が参考になるのでどうぞ。


このポジティブ心理学では、自分の労力・時間・お金などを他人に与えることによって、他人の幸せを考える姿勢を持つことが長期的にみて高い満足度をもたらすことが明らかにされている。また、自分にとって楽しい活動よりも、他人の幸せを考える慈善活動の方が永続的な満足を得られることも明らかになっている。(ピーターソン 2012 pp. 37-39.)

まとめると、人間は自分が保有する資源を他人に与えることによって幸福度を高めることができる。したがって、人間は利他的な行動動機を持つと言える。


2.進化生物学

2つ目は進化生物学的アプローチである。

ここで土台となるのは、博物学者ダーウィンの進化論である。

彼は進化論の中で、「適者生存」の原則を説いた。これはざっくり言えば、生存競争において最も環境に適した形質をもつ個体が生き残る、という概念である。

この適者生存の原則を、生物個体についてだけでなく生物のグループ(集団)にも適用可能であるとする立場が存在する(ウィン・エドワーズ V.C. Wynne-Edwards [1906-1997]など)。

つまり,生物は個体同士が相互に競争するだけでなく、集団同士でも相互に競争し勝ったグループが生き残る、ということである。
この場合、生物個体は,その集団にいる他の個体を生かすことができるならば,自己の生存や生殖を犠牲にしても集団を生き延びさせる行動を取る。

例えばプレーリードッグは、身の危険を晒しながらも巣の近くにタカなどの天敵が来ていないかどうかを監視する。そして近くに天敵が来たら、身を顧みずに集団へ危険を知らせるために警戒の鳴き声をあげる。


そして、人間もこのプレーリードッグ同様に生物であるため、こうした理解を適用することができ、したがって人間も人類生存のために先天的に利他心を持つ、という説明がなされる。

つまり、利他主義は広く生物一般に言うことができ、それは自らの種を保存するために必要なものなのである、ということが進化生物学から言及することができるだろう。

3.神経科学

3つ目は神経科学的アプローチである。

神経科学とは,神経システムに関する研究を行う自然科学の一分野である。既存の多くの学問領域が関わっているのが特徴で、生物学・物理学・心理学・統計学・コンピュータ科学・医学などがある。

この神経科学研究において、例えば人間が慈善寄付を行うと,脳の快感を知覚する部分が反応する、という実験結果が存在する。


また、他の人を助けること、何かを与えることは、肉体的な健康や精神的な健康にも結びついていることが明らかになっている。具体的には寿命の増加、ストレス低下、自尊心の向上、鬱の減少、血圧低下などである。

このことから、人間の利他的行為は神経学的な基礎をもち、人間には利他心が備わっていると言うことができる。


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以上が、「私たちは、利他的に行動するとき、自己の利益を達成するための動機だけでなく、他人の利益を達成するための動機をもつ」と主張するための3つの手法である。


一周回ってこの議論は「利他的な行動は利他的な動機をもつ」という、当たり前のことを言っているに過ぎないのだが、


他人のために何かをすることは結局全てエゴイズムに過ぎない

とするネガティブな意見(前記事執筆時点で自分はこの意見にほぼ同調していたが)に反論するための武器を整理できたのではないかと思う。




主に参考にした文献

岡部光明. (2014)「Do for Others(他者への貢献) : 黄金律および利他主義の系譜と精神構造について」『国際学研究』46, pp. 19-49,





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