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乖離する理想と現実

ー北京冬季パラ開幕

開幕した北京冬季パラリンピック。ロシアのウクライナ侵攻が影を落としている。ロシア、ベラルーシの選手団の姿はなく、北京入りしたロシア選手団はすでに帰国の途についている。ウクライナ選手団は開会式に登場したものの、その顔に笑顔はなく、重苦しい雰囲気が拭えない。国際パラリンピック委員会(IPC)会長のアンドルー・パーソンズがスピーチで発した「ピース」も、どこか心に響かない。

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「不可分」

本来、ロシア、ベラルーシ選手も競技に参加し、世界中のアスリートたちと互いに敬意を表し合って、それを平和へのアピールとすべきではなかったか。そんな姿が、プーチン露大統領の敷く"恐怖政治"下で暮らすロシアの人たちに、反戦に立ち上がる勇気を発信できるのではなかったか。今となっては、こうした絵を描けない。

IPCも当初は、そうしたかったに違いない。ロシアとベラルーシの選手に「個人資格」「中立の立場」での参加を認めていた。それが開会式直前になってこれを覆した。毎日新聞によると、その背景には各国のパラリンピック委員会(NPC)が、参加容認ならば大会のボイコットも辞さないという姿勢に変わってきたことがあるという。

加えて、北京冬季パラに参加する選手が滞在する選手村でも、ロシア・ベラルーシ選手の参加を容認することへの反発がエスカレートし、「選手の安全を確保することが不可能」(IPC)に近い状態だったそうだ。そこには平和の祭典に参加する印象はなく、「スポーツと政治や戦争が不可分」(毎日新聞)の縮図がすっかりできあがっている。

ギャップ

北京パラ五輪の開会式で、IPC会長のパーソンズは、共生や多様性といったパラリンピックの精神を掲げ、「今夜パラムーブメントは世界各国の当局者に呼びかける。アスリートたちと同様に一つになり、平和、理解、共生を促してほしい。世界は共に生きるべく場であるべきで、分断であってはならない」とスピーチした。

産経新聞が伝えるところでは、開会式をテレビ中継していた中国国営中央テレビが、このスピーチの一部を中国語で同時通訳しなかったらしい。あいさつの最後の「ピース」も翻訳されなかったという。中国の短文投稿サイト、微博ウェイボでは「翻訳されなかった部分は何を言ったのか」といった困惑の投稿もみられたという。

パーソンズが語る理想と現実のギャップは大きい。

(写真:『りすの独り言』トップ画像=フリー素材などを基にりす作成)

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