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ひらがなエッセイ #5 【お】

    中学生の頃の休み時間、所謂不良グループに属していた女子に「あの‥廊下に来てくれる?」と、照れ臭そうに言われ、マジか、これはあれか、このタイミングで告白されるのか、人影のない階段の踊り場辺りなら、まぁ、誰にも見つからないし、不良とはいえそんな悪い事してる子じゃないし、よく見れば可愛らしいし、とか何とか、空想を巡らせながらついて行き、教室の扉を開けて廊下に出るや否や「パン買って来てくれる?」と言われたあの日の衝撃を私は忘れない。

    眠れない夜は目を閉じて【思い出】を振り返り、忘れられない出来事を暖色、忘れてしまった出来事を寒色、その他を白黒に分類しカラーパレットを作成して、その色を使って出来る絵を想像する。記憶力の乏しい私は、フィンセント・ファン・ゴッホの星月夜だろうか。勿論右上に光輝くのが上記の不良女子焼きそばパン事件である。不良は嫌いだ、馴れ馴れしくて、感情的で、高圧的で、どこに魅力があるのか検討もつかないが、確かにあれは初恋であった。

    【思い出】が財産だとして、それが資産となるのか負債となるのかは本人次第である。そしてそれは忘却と言う名の債権回収会社に否応無く搾取されて、ただ偏に風の前の塵と同じと化す。ただ、この会社の良い所は負債も丸ごと回収してくれるという一点に於いて尊い。とは思って暮らしているものの、その負債を回収する担当の営業マンは中々私のエリアに回って来ない。「行って来ます!」なんて勢いよく外回りへ飛び出して、カフェで時間を潰しながらパスタでも食べているのかも知れない。ひとつだけ、本当にひとつだけ、真実を教えてあげよう。時が全てを解決してくれるって言葉、あれは嘘なんだよ。

    君はどんな【思い出】を胸にこの世界をいく。誰と出会い、誰と別れて、何に喜び、何に涙する。本当は直接会って聞いてみたいんだけど、君も色々忙しいだろうから、またいつか会えた時で良いから聞かせてくれないか。その時にまた詳しく、昼休みの時間を潰し行列に並んで焼きそばパンを購入して、どうやってその子に届けたかの話をしよう。

    よき週末を。


    

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