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浦島太郎って、ただのいい加減なナンパ師だった件

みなさん、浦島太郎のお話はご存じですよね?

ただ、あのお話はいろいろなストーリーがあります。そもそも、浦島太郎は亀は助けていなかったし、玉手箱をあけても老人にはならなかったという説もあります。

そして、案外みなさんが知らないのは、浦島太郎ってそのへんをウロウロしていたただの漁師ではないんですよ。

そもそも浦島太郎のお話は「古事記」に載っているお話です。


簡単に説明すると、古事記の中に「海幸彦と山幸彦」の兄弟の話がありますが、その弟である「山幸彦」が浦島太郎のモデルです。

古事記ではホオリという名前です。彼の父はニニギといって、天孫降臨してきた神様で、あのアマテラスの孫です。そうです、要するに、浦島太郎ってアマテラスの曾孫にあたる人なんですよ。

彼はもともと山で狩りをするのが得意だったのですが、釣りのうまい兄の大事にしている釣り針をある日あやまって海に落としてしまいます。兄は「マジぜったい許さねえ」と怒ります。「弁償するから」というホオリに対して、兄は「ダメ。あの針じゃないと釣れないんだ。あの針そのものを海潜ってでも探してこい」と理不尽なことを言います。神話の世界から理不尽は当たり前です。

途方に暮れたホオリに手を差し伸べたのが、シオツチという潮汐の神です。これが浦島太郎の話では亀にあたる。事情を聞いたシオツチが「それならば、海の神であるオオワダツミさんの所に行けばいいんじゃね?」と用意してくれたのは竹の籠。亀じゃなくて。

ホオリはそれに乗って、海へと漕ぎ出すわけです。

そして辿りついた海底都市(竜宮城)にて、トヨタマヒメという女子にホオリは出会い、簡単に一目惚れ。しかも、その姫はワダツミの娘という、なんという都合のいいストーリー展開。姫を通じて、父親のワダツミに会うことができたのだが、「針を探しに来た」というのを忘れて、「娘さんを僕にください」と言ってしまう。ワダツミは「いいよー」ってことで、その後二人は肉欲に溺れ(失礼)、愛を育むわけです。

なんだか随分いい加減な人たちに思えますが、古事記に出てくる神様は皆こんな感じで、「ゆるい高田純次的いい加減さ」があります。

そんなこんなで3年が過ぎ、ホオリもやっと本来の目的を思い出すわけです。「かくかくしかじかで釣り針を探しているんです」と言ったら、ワダツミが見つけ出してくれた。それで、兄貴に針を返すために地上に帰ろうとするが、これ決して永遠の別れじゃなくて、あとでトヨタマヒメもついてくるという話でした。

玉手箱に当たるものも書いてあります。

ワダツミから餞別に、呪文と満珠みたいなものをホオリは受け取るんですが、これははっきりと「兄貴を懲らしめるための復讐の道具」と明言されるんです。煙の出る謎の箱を渡されたわけじゃない。

結局、陸地にあがったホオリは兄貴をその道具で懲らしめて家来にしてしまいます。ちなみに、竜宮城から地上までホオリを送ってくれたのは亀ではなくサメでした。

その後、海からトヨタマヒメがやってきて、いきなり「子どもができたの」と言うわけです。ここらへんがもう浦島太郎のお話とは違いますが、要するに浦島太郎と乙姫は結婚して子どもを作ってたというのが真実(神話に真実もないけど)だったわけです。

ホオリは喜んで彼女のために産屋を作ります。その時に彼女が言った台詞が、その後いろんなお伽噺ででてくる「決して中を見ないでください」ってやつです。

そう言われて見ない男はいない。

ホオリも産屋の中を覗き見してしまう。そこにいたのは、かわいい姫ではなく、牙をむき出しにして暴れるサメの姿だったわけです。乙姫はサメだったのです。

「げっ! 」と思わず声を出したしまうホオリ。そりゃそうだ。

トヨタマヒメはそれに気づいて「見ないでって言ったのに…」と子どもを残して海に帰って行ってしまいます。

その時に生まれた男の子がアエズという子で、この子が後のイワレビコのお父さんになります。イワレビコとは後の神武天皇のことです。

つまり、浦島太郎は初代天皇の神武天皇のおじいちゃんでもあるわけです。

系譜にするとこんな感じ。

系譜にもありますが、神武天皇のお母さんは、乙姫の妹であるタマヨリヒメです。日本の神話において、浦島太郎と乙姫ってものすごい重要なポジションを占めているわけですね。


ちなみに、よりによってなんでサメ?と思う方もいるかもしれませんが、そもそもサメと人というのは、共通祖先から分岐したという説があります(シカゴ大学、ダブリン大学、ケンブリッジ大学の研究チームの論文より)。それによれば、3億8500万年前のサメの亡骸の研究から、サメとヒトはデボン紀の前の時代であるシルル紀(4億4300万年~4億1600万年前)に分岐したと推測されたそうです。神話って実はこういう科学的な部分もたくさんあっておもしろいんです。


しかし、こう見ると浦島太郎のモデルとなったホオリってなにひとつ成し遂げたことないよね。釣り針なくしたし、単に女ナンパしただけだし、兄貴を屈服させたのも他人の力だし、「見るなよ」の約束は破るし…。

でも、神話に出てくる神たちは大体こんな感じです。今に通用する道徳観とか生産性とかそういうものは一切ないんですよ。でも、そんなノリがそもそも日本人の原型だったんじゃないかって思うんですよね。仏教とか儒教とか入ってきて、いろいろと教訓めいたお話になっていくんですよね。



ちなみに、浦島太郎を現代的かつ経済的な視点で読み解くとこうなります。

亀さんというキャッチに捕まった太郎さんは、キャバクラ「竜宮城」に連れていかれました。キャバが初めてだった太郎は、そのあまりの煌びやかさと、トップキャバ嬢の乙姫の魅力に参ってしまいます。

ドンペリ開けるとヒーロー扱い。キャバ嬢にチヤホヤされるのが太郎は快感で、つい調子こいて散財してしまいます。会計の時、当然持ち合わせはありません。仕方なく、乙姫は玉手箱という名前の取立人をつけて太郎を返します。「決して玉手箱を怒らせてはいけませんよ(だから、さっさと金返せよ)」

家に戻った太郎ですが、返すお金などあるわけがありません。友達に頼むも皆「お前なんか知らない」と言われる始末。さんざん歩き回されて、結局回収できないことがわかると玉手箱の怒りは頂点に達し、太郎をボコ殴りしました。恐怖のあまり太郎は白髪になったしまったとさ。めでたしめでたし。



古事記はおもしろいですよ。日本初のプロポーズのお話はこちらの記事に書いています。


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