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【読書感想】アメリカ黒人の歴史

なぜオバマは2選できたのか?

第2次オバマ政権当初に出版された、アフリカ系のアメリカ黒人の歴史を振り返る本。


2008年に民主党からオバマ大統領が誕生した時、その得票差は共和党のマケイン候補に比べて955万票上回っており、まさに圧勝だった。

しかし、オバマは就任期間の4年間、目立った成果を出せなかった。加えて犯罪歴のある人間は一定期間選挙権をはく奪されるアメリカでは黒人の有権者が減って、2012年の選挙は「稀に見る接戦」と予想されていた。ところが、蓋を開けると497万票の差でオバマは再選を果たした。この差は歴代の中で接戦というほどではなく、真っ当に勝利を収めたと言える。

勝利の背景の一つには、黒人有権者の支持率93%という圧倒的な地盤が揺るがなかったことがある。対立する共和党も、黒人などのマイノリティーに厳しい新自由主義的政策を緩和しつつある。(保守的思想は堅持しているが)

アメリカの黒人の歴史と戦いの始まり


アメリカ初の黒人奴隷は、1619年にバージニア州ジェームズタウンに、オランダの商船によって運ばれてきた。砂糖の世界史で述べたカリブ海の例と同様に、綿花の大農園経営(プランテーション)で労働力として扱われた。

当時は奴隷制が無かったために、白人の年季奉公人(犯罪を犯して奉仕活動している人)と制度上は同列であった。

しかし、プランテーションの労働力が不足すると、奴隷制度が発足。黒人の子供は奴隷になり、18世紀初頭には奴隷法典が整備され、黒人奴隷制が南部に広がった。


綿花のプランテーションで働く奴隷たちを描いた版画(出典:CNN

ここから被支配者層である黒人と支配層である白人との長い戦いが始まる。

個人的な感想は、経済合理性が世論を形作り、憲法や法律、道徳的な思想は後からどうとでもなるということだ。

例えば、イギリスからの「独立宣言」を起草したトーマス・ジェファーソンは偉人の一人かもしれない。しかし彼は黒人の生来的劣等性を”科学的”に論証し、それをもって「万人の平等」から黒人を廃した。独立宣言の原案に国際的な奴隷貿易を非難する一文を入れていたが、彼自身が南部人であり奴隷所有者という矛盾があった。(ジェファーソン個人は葛藤はあったようだ)

結局、奴隷制度の解消には南北戦争で北部の勝利が必要であった。
北部が戦おうとしたのは工業が産業だからアメリカを統一して保護貿易をしたかったからだし、奴隷制に反対したのは工業の奴隷依存が低かったからだ。北部が勝利したのは、奴隷解放宣言で南部の基盤を揺らがせ、当時奴隷制を廃止していたイギリスからの支援を絶てたからだ。

黒人はアメリカのカナリア

筆者は黒人を、炭鉱で危機を察知するためのカナリアになぞらえて「アメリカのカナリア」と評する。南北戦争でも公民権革命でもアメリカ社会の最底辺に居続けた彼らは、アメリカ社会における矛盾を最も敏感に感じ取り、変革の最前線に立ち続けてきた。

そのカナリアは今、都市の貧困地域や南部農村で失業と貧困にあえぎ、麻薬に冒され、刑務所でうめき声を発している。アメリカではドラッグによる収監が増え、その割合は黒人が圧倒的だ。刑務所から出てきても再就職が難しいと結局ギャングの餌食になるという悪循環が起きている。

犯罪者への「厳罰主義」は根強く、政治家も下手にこの問題には取り組めないという。この点は日本の消費税と似てるかもしれない。

本書は「BLM」(ブラック・ライブズ・マター)には触れてないのだが、本書を読むと黒人の差別や貧困との闘いは終わっていないことがよくわかる。失礼かもしれないが、BLMにある種必然性を感じた。

しかし、一方で白人も自分の身の回りのことで手いっぱいで、決して余裕はない。

肌の色、血筋、人種的な問題は本質的ではなく、貧困や女性差別と歴史の問題へと変化しながら「黒人」の戦いは続くのである。

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