根腐れ一家
根腐れとは、何か。
根腐れとは、観葉植物など水のやり過ぎや、土に雑菌が繁殖するなど、原因は様々だが、根腐れ一家の原因は、問題を解決するという能力がないために、根腐れを気づかず、時がたち、自分の都合の良いことだけをまとめて、人のせいにして生きていく人なのかもしれない。
「私、じゃないよ」
だれも、そんなことを聞いていないのに、ここにあった、香典の袋がなくなった。
親戚や知人など集まった家の中で、テーブルに置いてあったはずのものがない。
もう、どうでもよかった。
きっと何の断りもなく、誰かが、気を使って、まとめたのだろう。
テーブルの上に、大切なものを置きっぱなしにする自分が悪いと、考えることにすれば終わる。
亡くなった祖母の写真をみていたら、そう思った。
祖母は、精神科に通っていた。
僕は、僕には、祖母が清い花のような存在だったから、病院へ付き添ったことがある。
ゆったりとしたソファーが、いくつもあり、アルトサックスの曲が、ゆったりと流れていて心地よい空間の病院の待ち合い室で、祖母と待っていた。
受付の女性から、名前をよばれ診察室へと入って行くと、優しそうな中年の男性が座っていた。
クリニックなのに、白衣ではなくセーターを着て、パソコンなどの機械はない。ゆったりと座り心地の良い椅子に座って、笑顔の先生と会話が始まった。
「よく眠れますか?」
先生の優しい声に、僕もホッとした。
「食欲は、どうですか?」
祖母は、どうして、ここへ来たいのか何だか、わかる気がした。
祖母には、直らないクセがあり、そのことで、家族から嫌われている。
だから、こんな優しい言葉をかけられるなら、嬉しいだろう。
祖母の直らないクセを直せば、ここへ来ることは、ないのかも知れない。
しかし、そのクセのおかげで、負の連鎖が起こり、ここへ来ることになっている。
それは、それで、保険診療だし、祖母の年齢だど一割負担だし、今更クセも直らないとすれば、もう、ここへ来る時間を与えてくれた祖母のクセも、直らなくていいのかと考えた。
祖母の変なクセは、フタをキチンと閉めない。
良く言えば、キツく閉めることが出来ない優しさなのかもしれない。次に使う人のために、開けっぱなしにしているのか、キツく閉められ開けられないことに、苦労したことがあるのか、祖母には誰も問い詰めなかった。
自分のことは、いつも後回しにして家族のために行動をしている気持ちを感じていたから、
「永代供養?」
おばあちゃんどうしたの?
「ニュースで見たから」
祖母が、突然言い出した。
「いいの?」
「いいよ。」
あっさりとしている祖母に驚いた。
祖母の若い頃は、お嬢さんで、嫁に来るまでは、お米のとぎ方も知らなかったと聞いたことがある。
「咲いた花を喜ぶならば 咲かせた根もとの恩を知れ」
祖母の好きな言葉だった。
そんな、祖母に和尚は言った。
「永代供養とは、先祖に対する冒瀆(ぼうとく)ですよ。」
祖母は、その和尚にお墓の引っ越しをすると言い直し、墓じまいをお願いして、墓地を更地にした。
お骨は、永代供養をお願いしたお寺へ納骨となった。
今まで、お世話になっていたお寺の和尚は、僕達を根腐れ一家と感じただろう。
精神科の先生に、ありがたい言葉をかけられ、笑顔の祖母が眠る永代供養塔に、今日は手を合わせに来た。
ここは、とても気持ちが良い、心が落ち着く。
あの日、冒瀆(ぼうとく)と、言われた時の祖母の顔は、笑顔ではなかった。
前は、お寺が嫌いで、お墓に行くことは、めんどうだった。
お墓をうつして、お墓とは何かを知った。
根腐れとは、何か。
完
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