斧田 小夜

Film Shooters Collective会員、主にフィルムカメラ・写真について…

斧田 小夜

Film Shooters Collective会員、主にフィルムカメラ・写真について書きますがそのうち100年前のカメラについて語り始めるかも。時々機能不全家族にまつわる短編小説・コラムも。

マガジン

  • およそ365日のひそやかな戦争

    三十五日目、電話がなった。君からだ。 りん、と澄んだ音を立てて空気が震える。水が毀れる時のような繊細な音はたった一度だけ鳴り、そして静かになる。その音が、君が私に生きていることを知らせるたった一つの方法なのだと、私は知っている。 表題作及び未公開作を含む短編五本詰め合わせパックです。各作品は投げ銭形式です。

  • 春望

    わたくし、春画でございます。数奇な運命で日露戦争へお供することになりましたが、はたしてどんな道中になるのやら…

  • トビングスカイ

    海洋都市水青端高校2年生のアツは飛び込みが怖い。双子の弟ハルが優秀選手なのでずるずると部活を続けていたが、ある日飛び込みプールに巨大さかながあらわれて――青春海洋SFファンタジー。

  • 消えゆくフィルム写真の世界

    今やカメラといえばデジタルカメラを指す時代ですが、しつこくフィルムについて語っているコラムです。

  • 光画小説集

記事一覧

人間になりたかった

長い間、機能不全家族について考えてきた。 機能不全家族の中で育ったのだから当然といえば当然である。人格が確立されたあと、ハラスメントや暴力を数か月から数年単位で…

斧田 小夜
2年前
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トビングスカイ - 6

「さかなぁ! なんか海が見えると元気になるよ!」 「あいつ、なんかますます馬鹿になってない?」  めずらしくハルが呆れているので、アツは同意した。  発見後は病院…

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斧田 小夜
6年前
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トビングスカイ - 5

「なんでなんともなかったのにアツが死んでるの? ねー、邪魔ぁ!」 「ほっとしたんでしょ。それより宿題は終わったの? ドラマ見たら寝なさいよ」  腹がぐるぐるする、…

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斧田 小夜
6年前
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トビングスカイ - 4

 二人は退屈していた。妹の出産のために母親が入院していたからだ。しかも今日は昼の早い時間から病室を追い出されてしまったので二人は解せなかった。母親はどこかに運ば…

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斧田 小夜
6年前
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トビングスカイ - 3

 ハルは勉強こそできないがバカではない、と思う。インタビューの受け答えはそつがないし、時々当意即妙なことをいったりもする。そもそもいくら運動神経が生まれつき良く…

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斧田 小夜
6年前
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トビングスカイ - 2

 説教どころではないのだった。  喚いていたハルも興奮が過ぎ去ったあとは椅子に深く腰を掛け、頭を抱えている。そのとなりにちんまりと座るナカジは目も鼻も真っ赤にし…

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斧田 小夜
6年前
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トビングスカイ - 1

 ひときわ大きな歓声があがったのでアツはますます不機嫌になった。  おもしろくない。  なぜなら歓声を浴びているのは自分ではないからである。 「どっから湧いてきた…

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斧田 小夜
6年前
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消えゆくフィルム写真の世界 第5回

お久しぶりです。ついに待ちに待った白黒ポジフィルムの現像が上がってきたので、ご紹介したいと思います! 白黒ポジフィルムって?ふつう、フィルム売り場で売っているフ…

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斧田 小夜
9年前
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No.52 スタア

斧田 小夜
9年前
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なんかブログ担当者がちょっと変わったポリシーでやってますが、連載中です。関係ないけどクリスマスティもっとほしい
http://www.photolife14.com/blog/?category=Tutorial

斧田 小夜
9年前

お久しぶりでございます。話はずいぶん前からあったんですが、ようやく実現しました。写真技術の連載です。
結構初心者向けですが、興味のある方はどうぞー
http://www.photolife14.com/blog/2014/12/expo-tutorial1

斧田 小夜
9年前
2

No.52 吹きなぶられる

斧田 小夜
9年前
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No.51 視界

斧田 小夜
10年前
6

No.50 再会三秒前

斧田 小夜
10年前
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No.49 Allors?

斧田 小夜
10年前
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光画小説集 - 蜘蛛の糸

 するとその地獄の底に、陀多と云う男が一人、ほかの罪人と一しょに蠢うごめいている姿が、御眼に止まりました。この陀多と云う男は、人を殺したり家に火をつけたり、い…

斧田 小夜
10年前
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人間になりたかった

人間になりたかった

長い間、機能不全家族について考えてきた。

機能不全家族の中で育ったのだから当然といえば当然である。人格が確立されたあと、ハラスメントや暴力を数か月から数年単位で受け、うつ病になった人が寛解するまでに十年かかることもざらなのに、まだ精神のやわらかい子供がおよそ二十年に渡って支配を受ければ、その影響は一生に及ぶ。

けれども世間はそれをわかってくれない。
かれらは家庭をもっとも小さな社会の単位だとは

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トビングスカイ - 6

トビングスカイ - 6

「さかなぁ! なんか海が見えると元気になるよ!」
「あいつ、なんかますます馬鹿になってない?」
 めずらしくハルが呆れているので、アツは同意した。

 発見後は病院へ運ばれたソウだったが、翌日には退院して元気に登校した。救助艇の研究所からは謝罪があり、水青端高校のプールの底の処置については後日適切な処置を行うということで事件はあっという間に収束してしまったが、彼らの日常はまだ戻ってきていない。

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トビングスカイ - 5

トビングスカイ - 5

「なんでなんともなかったのにアツが死んでるの? ねー、邪魔ぁ!」
「ほっとしたんでしょ。それより宿題は終わったの? ドラマ見たら寝なさいよ」
 腹がぐるぐるする、と目をつむったままアツは思った。壁を隔ててハルが明るい声で誰かと話しているのが聞こえる。多分部員の誰かと電話で話しているのだろう、声はすっきりと晴れわたり、時々笑い声もする。ソウが無事だとわかった途端すっかり元気になってしまったのだ。
 

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トビングスカイ  - 4

トビングスカイ - 4

 二人は退屈していた。妹の出産のために母親が入院していたからだ。しかも今日は昼の早い時間から病室を追い出されてしまったので二人は解せなかった。母親はどこかに運ばれ、どうやら妹を出産しているらしい。しかし二人は妹との面会が楽しみだというよりは単に退屈していただけだった。
 浜で見つけた木の枝を振り回してハルは雄叫びをあげている。どういわけかアツを敵と認定して殴りかかってくるのが我慢ならない。しかもそ

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トビングスカイ - 3

トビングスカイ - 3

 ハルは勉強こそできないがバカではない、と思う。インタビューの受け答えはそつがないし、時々当意即妙なことをいったりもする。そもそもいくら運動神経が生まれつき良くても、国際大会で記録を残すにはそれだけでは足りないはずだ。競技のこととなれば勤勉で努力家で、よく勉強するハルのことをアツはよく知っている。

「えっとぉ、いや、やりかたはわかるよ、バカにすんなって。これで割ればいいんだろ。割り算はぁ、筆算で

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トビングスカイ - 2

トビングスカイ - 2

 説教どころではないのだった。
 喚いていたハルも興奮が過ぎ去ったあとは椅子に深く腰を掛け、頭を抱えている。そのとなりにちんまりと座るナカジは目も鼻も真っ赤にして静かに泣いているらしかった。他の部員たちも青くなったり赤くなったり喚いたりガタガタ震えていたりしており、それを茶化すものは誰もいない。茶化せるわけはないのだった。

 魚である。

 それも巨大魚がチームメイトを食らったのである。逆ならき

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トビングスカイ  - 1

トビングスカイ - 1

 ひときわ大きな歓声があがったのでアツはますます不機嫌になった。
 おもしろくない。
 なぜなら歓声を浴びているのは自分ではないからである。
「どっから湧いてきたんだ、あいつら……」
「だってハルが大会近いってみんなに」
「知ってるよ」
 思わず声を荒げ、アツは隣のナカジを睨んだ。
 いま、飛び込み台の上で気持ちよさそうに歓声を浴びているのはアツの双子の弟、ハルである。国際強化選手に選出され、国際

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消えゆくフィルム写真の世界 第5回

消えゆくフィルム写真の世界 第5回

お久しぶりです。ついに待ちに待った白黒ポジフィルムの現像が上がってきたので、ご紹介したいと思います!

白黒ポジフィルムって?ふつう、フィルム売り場で売っているフィルムはカラーリバーサル・カラーネガ・白黒フィルムですが、この白黒フィルムとは白黒ネガフィルムのことを意味しています。白黒ポジフィルムは、フィルムを現像した時点で作品として完成しているリバーサルフィルムとおなじ、ただし白黒、という今となっ

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なんかブログ担当者がちょっと変わったポリシーでやってますが、連載中です。関係ないけどクリスマスティもっとほしい
http://www.photolife14.com/blog/?category=Tutorial

お久しぶりでございます。話はずいぶん前からあったんですが、ようやく実現しました。写真技術の連載です。
結構初心者向けですが、興味のある方はどうぞー
http://www.photolife14.com/blog/2014/12/expo-tutorial1

光画小説集 - 蜘蛛の糸



 するとその地獄の底に、陀多と云う男が一人、ほかの罪人と一しょに蠢うごめいている姿が、御眼に止まりました。この陀多と云う男は、人を殺したり家に火をつけたり、いろいろ悪事を働いた大泥坊でございますが、それでもたった一つ、善い事を致した覚えがございます。と申しますのは、ある時この男が深い林の中を通りますと、小さな蜘蛛が一匹、路ばたを這って行くのが見えました。そこで陀多は早速足を挙げて、踏み殺そうと

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