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「イスラーム映画祭」で文化の違いを垣間見る

毎年秀作をかけてくれる「イスラーム映画祭」を今年も鑑賞。ヨーロッパを横断し中東へ向かう『長い旅』というロードムービー。【マッカで撮影が許された史上初の作品】ということで鑑賞。

フランス生まれのモロッコ移民第二世代のレダは、敬虔なムスリムの父ムスタファに駆り出され、聖地マッカまで運転手をするはめに。学校にも行けず恋人とも会えなくなったレダは、事あるごとにムスタファに歯向かうが・・・。
〔解説〕巡礼の旅に出た父子を通じ、移民社会のジェネレーションギャップを描きます。フランスからサウジアラビアまで7カ国をまたぐ旅が心をゆさぶる。イスラーム最大の聖地マッカでの撮影を許された初めての映画です。

公式サイトより

街や景色の移り変わりで旅してるようなワクワク映像を期待したけれど、かえって「あぁ気候も生活も厳しい土地柄なんだなぁ」という印象を強める結果に。

やっぱり「巡礼モノ」のロードムービーはカジュアルではない。信仰の全うが最優先事項で、判断基準のもとに信仰があるから、その時々の人生の選択にも違いが生じてくる。劇中も、息子が「観光しようよ」と誘うのに、頑固親父は「何の為に?先を急ぐのだ、遊ぶ暇はない」と一蹴。その親父は最後、メッカの人混みで圧死して霊安室に並ぶ。遺体と対面した息子は父の亡骸の隣で横たわって泣き咽び、旅してきた車を売って飛行機代を作り、空港へ向かうタクシー。完。ってそんな終わり方あるかよ!!!

イスラム圏の映画作品、哲学が全く異なって驚く。

メッカ巡礼で亡くなられた方は天国行きが約束されているらしい。そりゃそうやって補完するよねと納得。

仏教的な観点で「おっ?」と思ったのは、巡礼者の白い衣装だ。仏教では装束するとき、「偏袒右肩(へんだんうけん)」といい、右肩を肩脱ぎにし、左肩のみを覆うのが一般的だ。左手は不浄の手、とされるように、左は覆って右を露にするのが世界共通だ。しかしイスラムではそうでもないようで、劇中に登場した集団は、右肩から布を垂らし体に巻きつけていた。当WORKSHOP AIDのムスリムであるナセルに確認をすると、「コーラン&ハディースで規定されている内容を守ればあとは自由!(教の)派閥というより各国文化の違いが出てるイメージ」とのこと。なるほどー。こうしたわずかな差異、表面的にはわずかだが、身体感覚に沁み込んでいる・馴染んでいるものの違いが、やはり文化・風習を異にしていくのだとしみじみ。

現地に赴くことができなくても、映像で異なる文化圏の習俗や信仰の一端を垣間見ることができると、「あぁ人はいろいろな行動原理で、それぞれの人生を生きているのだなぁ」と再認識できて、他者に対して謙虚になれる気がする。

『長い旅』
監督:イスマイル・フェルーキ
原題:Le Grand Voyage 英題:The Great Journey
製作:フランス=モロッコ=ブルガリア=トルコ
2004年 108分 アラビア語 フランス語


Text by 中島光信(僧侶)

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