見出し画像

児童文学の名作は結構ラディカル。『挑発する少女小説』斎藤美奈子


久しぶりに斎藤さんの新刊をネットで見かけました。しかも、少女小説!これは読まないわけにはいきません。いままで、たくさん著書の中で言及してきた少女小説について、ついに正面から取り上げたのですから、期待も大きかったです。

今回、斎藤さんがとりあげるのは、バーネット『小公女』『秘密の花園』、オルコットの『若草物語』、シュピリ『ハイジ』、モンゴメリ『赤毛のアン』、ウェブスター『あしながおじさん』、ワイルダー『大草原の小さな家』、ケストナー『ふたりのロッテ』、リンドグレーン『長くつ下のピッピ』の全9作。

私が小さい頃に読んだのは、『小公女』や『秘密の花園』、『若草物語』そして『大草原の小さな家』の原作。中学生以降に読んだのが『赤毛のアン』や『あしながおじさん』。『ハイジ』はアニメで知っていて、娘ができてから原作を読みました。未読は『ふたりのロッテ』と『長くつ下のピッピ』です。

今回、斎藤さんの本を読んで驚いたのが、子供の頃に読んだ記憶と、実際の作品の内容がかなり違っていたことです。子供の理解力不足もあったかと思いますが、実際は子供向けの抄訳だったり、エグい内容はやんわり表現されていたので、理解できな部分があったのだと思います。

実際、『ハイジ』は娘ができてジブリの絵本を買ったときに、せっかくだからと原作を読んでみて、そのリアルさというか、容赦ない描写に驚きました。大人がちゃんと利己的に、そして子供も未熟でわがままにかかれているのは、小説なのだから当然といえば当然なのですけれど。子供向け絵本とか文庫になると、そのあたり省略される部分が大きいのだと改めて知りました。

斎藤さんがとりあげた9作は、およそ19世紀後半から20世紀前半(日本でいうと明治時代)に書かれた物語で、作者も多くが女性。そして世界中で大ヒットしましたし、戦後の日本でも多くの読者を獲得した、児童文学です。文学史では家庭小説と呼ばれるそうで、将来的には家庭人となることを期待された少女のためのジャンルとして発達しました。

19世紀は社会が工業化し、生産労働と家庭生活の場が分離し、性別役割分業社会が成立し、近代的な家族がうまれました。家庭小説(少女小説)は宗教教育や家政教育も含め、よき家庭夫人を育てるための良妻賢母製造装置だったし、戦後の日本では占領軍総司令部(GHQ)の政策の下で欧米型の望ましい家庭生活を女子に学ばせるツールにもなったとか。

ところが、これらの少女小説をよく読んでみると、必ずしもそういう男女の役割を植え付ける物語ではなく、大体、おてんばな女の子が主人公で、両親のいない孤児の不遇な境遇に負けずに勉強して、自分の才能を生かした職業に就いたり、結婚相手を確保したりする話だと斎藤さんは気づきます。

つまり、物語の中身はざっくり保守的に見えても、主人公が良妻賢母タイプではないし、大人の過保護や育児放棄、子供の権利侵害の状況対して、子どもたちが成長し、立ち向かったり、独立したりする物語でもあったのです。それどころか、部分的にはアグレッシブだったり、ラディカルだったりします。

そんなふうに、現代にも通じる部分があるので、最近でも映画『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』なんかがリメイクされています。こんな風に、少女小説の名作は読みつがれていくんでしょうね。

とりあえず、私は小さい頃に読んだ子供向けの作品の原作を、読んでみたいです。そして、自分の記憶と、リライトされていた部分なんかを確認したいです。そして、いつか日本の少女小説について、斎藤さんに書いていただけることを楽しみに待ちたいです。



この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?