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あたり前の今ができる限り続くように。『世界からコーヒーがなくなるまえに』ペトリ・レッパネン、ラリ・サロマ―


世界中で手軽に飲まれているコーヒー。コーヒー豆の世界の取引額は、原料の中で石油の次に多い。そして、石油と同様、産出される地域は限られている。ブラジル、ベトナム、コロンビア、インドネシア、エチオピアが5大生産国。数百万人以上がコーヒー産業に従事している。

コーヒーの灌木は、赤道を挟んで北回帰線と南回帰線に挟まれた地域が自然の生育に適した地域で、コーヒーベルトと呼ばれている。気温は年間通じて摂氏二〇度を超え、火山灰の土壌が好ましく、日光と雨量がバランスよく降り注ぐ必要がある。

地球の温暖化によって、おいしいコーヒーに適した地域は減りつつある。そもそも、一つの作物ばかりを作り続けると、土壌は枯渇して植物の病害虫を呼び込む。化学肥料や除草剤は、本質的な問題解決にはならない。だから、コーヒーをたくさんつくって安く売る方法は、限界が見えている。

私たちが安いコーヒーを飲む一方で、発展途上国の農民たちは、自分の作るコーヒー豆の価値を知らず、生活ギリギリの収入しか得られない。農民とバイヤー、コーヒーメーカーの間には、多くの仲介業者が介在し、大企業は農民に化学肥料や除草剤を売りつけるのに、知識を与えない。フェアトレードが現在ほぼ機能していないのは、コーヒー豆の品質評価にいい影響がないのに、認証のためのコストが農民負担だから。

本書で使われるサスタナブル(Sustainable)という言葉は、日本語では持続可能と訳されている。主役はブラジルのクロシェ親子。ブラジルのコーヒー豆は長い間、質より量で、政府の言う通りに市場のニーズを満たしてきた。そのため、ブラジルのコーヒーは安いけれど、おいしくないというのが長い間の評判だった。

フィリペ・クロシェは、アメリカの大学で学んだあと経営者になり、そしてアメリカに失望して帰国した後は、父親が残した農園を改革した。どうすればコーヒー豆の品質をあげられるのか、試行錯誤を繰り返した。最終的に、フィリペはオーガニック栽培を選択し、収穫量をできる限り減らさない方法を考えた。

その方法は、コーヒー豆だけ栽培するのではなく、フルーツや野菜もつくって経済的にリスク分散をし、土壌も枯渇させないようにすること。最終的には木材も出荷物として考える。農民がゆとりある生活をできるように、コーヒーの品質をあげ、オーガニック栽培を宣伝する。そして、先進国の消費者を啓蒙し、オーガニック栽培に価値があることを広める活動もおこなうことだった。

「中産階級が増えれば、彼らは少なくとも教育を受けられ、情報へのアクセスを得られる。人が情報を得ると、面白いことが起こるんだ。だからわれわれはヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアに来るのが好きなんだよ。こうした国々の人達は自ら考え、批判的に物を見て、面白いことをやっているからさ」

コーヒー農園で働く人たちは、出荷した後のコーヒーがどうなるか知らない小規模生産者が多く、品質と価格が結びつくことも知らない。フィリペは出荷後の世界と農民たちを結びつけると、生産者の収入が上がり、彼らのモチベーションも向上すると指摘する。そして、農民は自分が育てたものを誇りに思うことで、消費者と本当の仕事上のつきあいがうまれると考えた。

2011年のロンドン・コーヒーフェスティバルが大成功してから、世界各地の大都市でコーヒーフェスティバルが行われるようになった。コーヒーは嗜好品だから、そんなに大量でなくても安くなくてもいい。「今より少なめに、でも美味しいコーヒーを飲もう」というのがフィリペの提案。そんな世界的なムーブメントをまとめたこの本書の原題は『コーヒー革命』(Coffee Revolution)。コーヒー好きにおすすめします。


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