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自作解説がおもしろい。『ジェネラル・ルージュの伝説』海堂尊


生活の中で、定期的にくる海堂尊作品読みたい月間。そうなると、本棚からシリーズを順番にひっぱり出して、喫茶店でおいしいコーヒーを飲みながら読みます。中学生になった娘も、このシリーズが気に入って、母娘で感想を言い合えるのがうれしいです。

で、『ジェネラル・ルージュの伝説』です。本編『ジェネラル・ルージュの凱旋』でもかっこよかったですが、若い頃の速水先生が登場してステキです。できる看護師の猫田主任は、この頃から猫田主任で、これまた魅力的だし。千里眼+年齢のわりには、藤原看護師長みたいな遣り手婆的な部分も見せてくれます。

私の知っている限り、医療ものでチームが大事というのを最初に教えてくれたのは『バチスタ』シリーズ。執刀医だけでなく、助手や麻酔医、看護師さんみんなのチームワークが大事というのは、学生バイト時代の某病院で聞きましたが、実感できたのはこの作品が最初でしたっけ。

さて、本編以外に面白かったのが、海堂尊さんの「自作解説」。海堂尊さん個人にそれほど興味があったわけではなかったけれど、お医者さんだった海堂さんが、どうやって『チーム・バチスタの栄光』を書いたのか、出版社や編集の人たちとどんなやりとりがあったのか、かなり詳しく書いてあってびっくり。そして、すごく参考になりました。編集を仕事にする人たちの考え方がよくわかったし、役割分担の具合も知ることができました。

海堂さんの投稿した作品が「このミス」大賞をとって、始めて編集さんに会ったとき、開口一番「本は売れません」と言われたとか。その後、無事出版されることになって、表紙の希望を聞かれたので、海堂さんは事細かくメールしたのに、出来上がったものは全く意見を反映してくれていなかったとか。そのことを質問してみたら、「表紙に作家が口出す権利はない」「でも、一応意見を聞いて顔をたてた」という返事がきたそうです。

『死因不明社会』は、編集さんにかなり原稿を直された挙句、「売れるために、あと60頁削って欲しい」といわれて必死に削ったら「本当にできるとは思わなかった」と言われたとか(ダメ元で言ったらしい)。他にもたくさんいろんな「ああー、なるほど」と思えることがありました。

結局、出版社とか編集の人もプロというにはサラリーマンだし、プロが見込んだ作品だって、売れるかどうかは運次第というのがあります。でも、そういうのは言葉で説明されてもわかりにくいので、物語の形で誰かがそれを本にしてくれるのは、本当にありがたいです。同じ仕事をしているわけではないですが、私の仕事でもどこかで間接的に役に立ってくれますので。

そして、海堂さんは、自作をかなりリライトする作家さんということが判明。ハードカバーから文庫化するときに手を加えるのは珍しくないけど、重版のときに一部リライトしたこともあるらしいです。そして、作家さんによっては6稿とかまで出して、それをオッケーする編集さんもいるとか。驚きます。

ということで、これからは自分が持っている本だけでなく、文庫版のリライトしたやつをチェックする楽しみもあるようです。しかも、『ジェネラル・ルージュの伝説』の文庫版はハードカバー未収録の作品が入っているなんて。

そうそう、『チーム・バチスタの栄光』シリーズって、中国語版があったのですね。知りませんでした。韓国版や台湾版はなんとなくわかるけど、中国版は想像がつきません。あの国の読者の反応が気になります。


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