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ワインが飲みたくなるドキュメンタリー映画『チーム・ジンバブエのソムリエたち』オーストラリア、2021年。

毎年、今年の映画ベストテンをつくった後に、いい映画をみてしまう法則が発動されます。まさか、年末も押し迫った今日、夫に映画に誘われるとは思いませんでした。やっぱり、仕事でも家庭でも最後まで気が抜けないということでしょうか。

もとい。名前だけでおもしろそうな映画『チーム・ジンバブエのソムリエたち』。ポスターといい、タイトルといい、ボブスレーで冬季オリンピックに出たジャマイカチームの『クール・ランニング』を連想して、わくわく。

でも、内容は予想と少し違いました。まず、実話ベースではなく、ちゃんとしたドキュメンタリー映画でした。そして、なぜワイン経験ゼロだったジンバブエチームの4人がソムリエになったのか。2008年の経済危機で、難民や移民として南アフリカにやってきたことが発端でした。

4人のメンバーたちは、本当はジンバブエを離れたくなかったけれど、仕事がなく、あっても給料が低すぎて生活できないから、仕方なく南アフリカへやってきたけれど、そういう人々は山のようにいて、やっぱり仕事がない。やっと見つけた仕事は、白人の経営する農場やレストランでの仕事。

ラッキーだった彼らは、さらにラッキーなことにワインと出会い、有名レストランで誠実にソムリエの仕事をして、しかも能力も高かったので、ワインのテイスティング世界大会の代表を探していたジャン・ヴァンサン(JV)に見出されます。期せずして、南アフリカのテイスティング代表候補10数人の中にいたジンバブエの4人。「これなら、ジンバブエ出身者だけでチームができるのでは?」とJVが支援して、ジンバブエ・チームが結成されます。

以後、ドキュメンタリーは、テイスティングの練習の厳しさや、本番大会のスリリングな展開を中心に……とはいかず、チーム4人のジンバブエの故郷や家族を取材し、なぜ彼らが国をでなければいけなかったのかをトレースします。広大な美しい森が広がるジンバブエ。そこに、経済危機の混乱の跡はありません。

でも、4人が語る人生はかなりハードモードです。ジンバブエから密入国するとき、仲介屋がコンテナにすし詰めにしたので、高温で気絶する人が続出したとか、南アフリカに来ても仕事がなくて苦しかったこと、やっとたどり着いた南アフリカも強盗が日常茶飯事で安心できないこと。

ドキュメンタリーでは、経済危機の原因は故ムガベ大統領の独裁みたいな説明がされていましたが、パンフレットにはちゃんと国立民族博物館の研究員の詳しい解説があります。1980年にイギリスから独立した後、アフリカの食料庫として豊かだったジンバブエは、2000年以降、国内政治の不安定な中で選挙のたびに混乱していき、経済状態もひどくなり、伝染病も流行。人々が海外に逃げ出す状態になってしまったのだとか。

世の中は複雑で、誰が悪い、誰が悪くないとはっきり原因がわかることは少なくて、解決方法はもっと複雑。映画では、南アフリカで移民排斥事件が起きたことや、中央メソジスト教会の司祭が教会の敷地を全部難民に提供して助けようとしたこと、その中に救われたチームメイトもいたことが語られます。でも、そもそもアフリカにやってきて、植民地にして、独立後も大農地を持っていたのは白人だった歴史があります。

テイスティングの世界大会はフランスのシャトーで行われます。ジンバブエチームは直前に契約したフランス人コーチが頼りにならず、途中からチームは自分たちで巻きかえそうと努力します。彼らのチームワークと負けん気はすごかったですが、結果はちょっと残念なものに。でも、SNSでは彼らを称賛する声が多く届き、4人は驚き、喜びます。

翌年、再チャレンジした4人は、コーチなしで参加し、かなり成績をアップしました。そして、自分たちで勝ち取った栄光で、自分たちの生活をよりよいものにしようと、新しい世界にチャレンジしていきます。社会を変革するのは政治家じゃなくて、自分たちのような普通の市民、そう言い切る彼らはかっこいいです。

それにしても、ジンバブエの豊かな自然や南アフリカのすばらしい風景、フランスやドイツの農村の美しさ。映画みたいです。最近はドローンのおかげで展望のすばらしい映画が増えてうれしいです。公開したばかりらしいので、ワイン好きもそうでない方も、ぜひ映画館でどうぞ! パンフレットもかなりの充実でお値段以上です。

邦題:チームジンバブエのソムリエたち(原題:BLIND AMBITION)
監督・製作・脚本:ワーウィック・ロス、ロバート・コ―
制作:オーストラリア(96分)2021年

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