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女性たちのクラフト・アート ドキュメンタリー映画『YARN 人生を彩る糸』アイスランド・ポーランド、2016年

記憶の中の祖母は、いつも編み物をしていました。色やデザインは正直、ダサかったですが、純毛のいい毛糸を使っていたので、何度も解いては編み直しできました。純毛は温かいけれど、耐久性がイマイチなので、穴をつくろうことも当たり前。最後は意味不明の配色になっていた、祖母のセーターやベスト。懐かしい思い出です。

今では、わざわざ自分で編み物をする人は、多分よっぽどの達人。でも、この映画では達人を超えて、アートになっていました。まず、冒頭のアイスランドの荒涼とした風景と、モコモコの羊がインパクトありすぎ。かわいくて、暖かそうで、たまりません。

そこから、毛糸でつくった編み物をアートにする人たちが何人も出てきます。生活のちょっとした場面に、街の中に、編み物を絵のように飾る人。街の建物や機関車なんかを、編み物で飾る人。糸をつかったアクロバティックなサーカスをする人。全身を毛糸で編んだタイツでパフォーマンスする人、などなど。すごく楽しそうです。

タイトルになっている「YARN」は織物や編み物に用いる糸で、天然繊維や合成繊維を紡いだもののこと。そして、面白い冒険談をたっぷり話したり、楽しませることも言うそうです。カメラはアイスランドから、デンマーク、ドイツ、ポーランド、スペイン、イタリア、ハワイ、キューバ、カナダをめぐって、楽しい編み物アートとアーティストを見せてくれます。

驚いたのは、日本人のテキスタイルアーティストの堀内紀子さん。戦中生まれなのに、驚くほど若くて素敵で、丈夫なナイロンの糸を編んで、子供の遊具をつくってしまいます。

かぎ針でも棒編みでも、一人でも大勢の共同作業でも。糸で何かを編んで作品をつくることは、女性の内職にとどまらないアートになるって驚きでした。糸でつくるアートは、他の素材に比べて寿命が短くて、なんだかアートらしくないと感じてしまいますが、それこそ先入観ですよね。だって、花火はあんなに寿命が長いけどりっぱなアートだし、丈夫な金属だって錆びるし、建物だっていずれ壊れるんですから。

堀内さんが、作品が部分的に弱ってきたら補強すればいいし、耐久性がなくなってきたら撤去して、また作れるテキスタイルアートは「人間的」と言っていて、その言葉に目からウロコが落ちる思いでした。人のつくるものには寿命があって、それは人そのものなんですね。

邦題:YARN 人生を彩る糸(原題:YARN)
監督:ウナ・ローレンツェン
製作:アイスランド・ポーランド(76分)2016年

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