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土井善晴『一汁一菜でよいという提案』(書評ラジオ「竹村りゑの木曜日のブックマーカー」6月30日放送分)

※MRO北陸放送(石川県在局)では、毎週木曜日の夕方6:30〜6:45の15分間、書評ラジオ「竹村りゑの木曜日のブックマーカー」を放送しています。このシリーズでは、月毎に紹介する本の一覧と、放送されたレビューの一部を無料で聞くことが出来るPodcastのリンクを記載しています。

※スマホの方は、右上のSpotifyのマークをタッチすると最後まで聴くことができます。

<収録を終えて>
大好きな料理研究家、土井善晴さんの著書。
言い回しは温かく、素朴ですらあるのに、そこに品性が漂う稀有な方だなあと思います。
品の良さというのは、相手に誇示するものではなく、相手に譲るときに表れるものだということを体現しているような気がします。

そんな土井さんの一汁一菜の勧めは、単に献立のことを言っているのではなく、生活のスタイルや、それを超えた「生きる上での美学」について触れたものになっています。
ラジオの中で「誰かのために食事を作るという行為は、自分の中の愛情を自然に発動させてしまうシステムなのではないか。そして、それをいただきます、と頂戴することは相手の愛情に気がつく練習なのではないか」と言ったのは、土井さんが日々の暮らしを如何に愛おしく思っているかが、この本から伝わってくるためです。

更に言うならば、自分で自分のために食事を作る時でも、そこには愛情のやり取りがあるはずです。
毎日頑張っている自分のために、美味しいご飯を作ってあげること。そして、たとえ自分が作った料理であったとしても、そこにきちんと感謝をして「いただきます」と手を合わせられること。
「自分へのご褒美」という言葉がありますが、高級品をお買い物したり、奮発して海外旅行に行ったりするだけでなく、自分で自分に手をかけて毎日の生活を支えてあげることこそ、何よりの自分へのご褒美ではないかと思います。

『一汁一菜でよいという提案』には、一人で食事をする時の勧めについても書かれています。
中でも私が素敵だと思ったのは「一人用のお膳を用意する」という箇所です。

お膳をすすめるのは、お膳の縁が、場の内側と外側を区別して、結界となるからです。机の上が散らかっていても、お膳の中はきれいです。すると、一人で食べる食事にけじめがついて、気持ちよく、食事がだらしなくなりにくいのです。お膳を使えば、きちんと食事することに、楽しみが見つかると思います。

土井善晴『一汁一菜でよいという提案』より

土井さんが一人でお食事をされるときの、凛と伸びた背中が目に浮かぶよう。素敵ですよね。
それに、いくつかお膳を用意しておいて、何人かでご飯を食べる時には一人づつお膳を出すのも面白そうです。
今の季節なら、冷酒と突き出しが載ったお膳を出して、お客様をおもてなししてもいいですよね。
色々夢が膨らんでしまったので、私はさっそくお膳を買いに行こうと思います。

美味しくなくてもいい、普段の家庭のご飯でいいんですよ、それが生活を支えるんですよ、と土井さんは何度もこの本の中で言っています。
それは、ただ味が良いことだけが持て囃されて、身体に悪い保存料が使われている料理や、不当に安い賃金で働く人がいる上で成り立つ料理への、柔らかな牽制のようにも感じられます。
「美味しければいい」という考えの中で、見えなくなっているものがないかと、この本を読みながら、ふと考えてしまいました。

本当に食事を楽しむというのは、どういうことなんでしょうか。
そんなシンプルな疑問から、自分がどう生きてきたのか、そしてどう生きていきたいのかを問われるような一冊です。

書評ラジオ「木曜日のブックマーカー」では随時リスナーさんからのメッセージも募集しているので、よければ是非感想などお寄せください。

「この本レビューして欲しい!」なども大歓迎です。

宛先はこちらです。

mail)book@mro.co.jp

Twitter)@yorupara #木曜日のブックマーカー


※コメント紹介をお聞きいただくには、Podcast版ではなく、radiko版を選んでいただく必要があります。こちらは過去1週間分のみの公開で、石川県外の方は月額制のradikoプレミアムに加入いただくというハードルはあるのですが、季節の言葉や金沢ビーンズ明文堂書店さんのランキング、プランナーさんのお勧めなどもご紹介しているので、是非お聞き頂きたいです…!

それでは、今回はこのあたりで。
またお会いしましょう。

<了>



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