「諸刃の剣」と「諸刃の刃」

遥か大昔、私が小学生だった頃、国語の時間に学校の先生からこの言葉を習いました。

「諸刃の(もろばのやいば)」と。

刀身の両側に刃がついていることから、「相手を傷つける代わりに自分も傷つく」転じて「チャンスをつかむにはリスクも伴い、場合によっては自分が被害を被る事になるかもしれない」的な事に使う言葉です。

(この記事では言いたい事がボヤけないよう「剣」「刀」、そして切れ味のある箇所を「刃(やいば)」と表記致します。また、「もろ刃」を表記するのに「諸刃」と「両刃」があるようですが、「両刀」という、これまた別の意味の言葉との混同を避けるため、「諸刃」の方を使います。)

しかし、最近では「諸刃の剣(もろばのつるぎ)」という言い方で同じ意味を表す言葉として、こちらが通用しているようです。

私は格闘技が好きで詠春拳という中国拳法を習っているのですが、教えてくれている兄弟子は中国剣もやっています。

西洋の剣と中国の剣はまた全然別物なのですが、共通しているのは

「使うのは刃ではない」

という事です。

私達日本人は刀という刃物に馴染みがある為、ともすれば剣も刀のような使い方をする錯覚に陥りがちですが、よくよく考えてみるとカンカンカンとぶつけ合っている場面が多いと思います。

斬撃に使わないわけではありませんが(特に中世以降は色々な用途の剣ができ斬撃用の剣もできましたが)、元々の剣の用途は突き刺す事と、その重さで相手を叩き殺す打撃用鈍器としての使用を意図された武器でした。

また、私の通う道場にはいろいろな刀剣、槍、丈などが置いてあるのですが、剣を持った時、その重さにビビりました。3キロ近くあるとの事でした。

我が家には一つ2キロの鉄アレイがあるので3キロも重さ的には大した事がないのですが、長さがある為それを片手で振り回すには無理を感じました。

だから洋画の剣闘士たちは皆あんなにムッキムキなんだな~と思いました。

剣を使う国際的スポーツと言えばオリンピック競技にもなっているフェンシングが思い浮かぶかと思います。

切りつける動作ではなく突く動作がメインです(「フルーレ」「エペ」「サーブル」の三種目があり「サーブル」のみ斬撃の攻撃も認められています。)

刀と剣についてのより詳しい違いに興味のある方はどうぞこちらをご参考ください↓↓

でも私の言いたいことは、武器そのものではなくて
「相手を傷つける代わりに自分も傷つく」という意味を持たせるのにふさわしいのは「諸刃の剣」ではないんじゃないか、という事です。

剣の使い手は剣の用途に合わせた使い方をするということです。

剣の使い手はそもそも諸刃という事を承知の上で使うわけですから使う上で危険はありません。

剣の刃は無駄ではなく、より深く突き刺さる事をリードする為の滑走路のようなものです。

西洋の剣と中国の剣は別物であっても「剣」としての使い方は共通していて「刃を押したり引いたりする」使い方をしないのです。

だとしたら、今世間一般に通用している「諸刃の剣」という言葉自体、私にはどうしても腑に落ちません。

「相手を傷つける代わりに自分も傷つく」という意味を持たせる事ができるとしたら、「刃」を研ぎ澄ませて「切る」武器として使う刀こそが「諸刃」だった時、初めて刀身の両側が切れるから危ないという事になると思います。

日本では古来から剣が祭事用の道具として使われてきましたが、これを武器として使用するようになる過程で刃を研ぎ澄ませて「切れ味を求める」刀へと変貌しました。

は剣を「折れず曲がらず良く切れる」事を追求した結果生まれた代物。

切れ味と強度を求めた結果、反りのある片刃の刀が流通しました。

その流れに逆行するような両側が切れる「諸刃造り」は、片刃の刀の使い手にとってはホントに自分を傷つける危険性が高かった事でしょう。

ならば、物事にはチャンスとリスクが背中合わせと言いたいなら、やっぱり「諸刃の刃」の方がしっくりくるような気がします。

「諸刃の剣」の方は、そもそも「突き刺す」のにスムーズである為の形状なだけであって、もう一つの用途「打撃」にしても「諸刃部分」でのダメージを期待していない武器ですから、むしろ「あっても大して役に立たないもの、危ないように見えても実際はそれほどではないもの」、つまり「無用の長物」とか「見掛け倒し」くらいの意味であってもいいんじゃないの?!と思います。

(注:しつこいようですが、あくまで言葉の意味としての話であって、剣の刃は無用の長物ではありません。)

兄弟子の剣を目にして以来、どうして「諸刃の剣」の方が通用してしまったのかホントに納得がいかない私です。




尚、ヘッダーの写真はみんなのギャラリーの霞さんの写真をお借りしました。どうもありがとうございました。



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