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「フリーレン」オルタナティブというべき「キノの旅」

「葬送のフリーレン」が相変わらず面白い。
静かな作風ではあるものの、時折くすっと笑えるシーンが挿入されるところが本作の魅力である。
第18話では、フリーレンの表情が面白かった。

作中で彼女が「老魔法使い」といわれて不機嫌になるくだりがあったけど、この表情はどう見てもお婆ちゃんそのものである。
そりゃ、1000歳超えてるもんなぁ・・。

さて、「フリーレン」人気は今後もしばらく続くとして、やはりこの影響というべきか、「狼と香辛料」の新作が今年放送されるみたいじゃん。
十数年ぶりのアニメ化である。
敢えてこのタイミングでということは、「フリーレン」景気に乗っかろうとしてるんじゃないかな?
両作は、まったりとした旅の空気感がほとんど同じだからね。
ヒロインの長寿設定、最強設定も同じ。
ちなみに1期2期から繋がった第3期というわけじゃなくて、また最初からやり直すリメイク版らしい。
声優は続投みたいだけど。

なるほど、画がイマドキの感じになってて、ホロが前作より可愛いくなってる

「フリーレン」の作風と似てるといわれてるのは、「狼と香辛料」以外では「魔女の旅々」や「キノの旅」もそうだろう。
両作とも、続編制作の可能性が出てきたと思う。
「魔女の旅々」は、第9話があまりにも有名かと。
この話のインパクトが強すぎる為、時々本作は鬱作品にカテゴライズされることすらある。

「魔女の旅々」第9話

この独特の後味の悪さは、案の定、「魔女の旅々」の作者は「キノの旅」の影響を受けていることを認めている。
やっぱ、「キノの旅」が原点だよね。
多分だけど、「フリーレン」も同じく影響を受けてるんじゃないかな?

「キノの旅」、これはラノベの中では古典に該当するヒット作である。
今まで、2度のテレビアニメ化をされている。
1回目は2003年、「serial experiments lain」で名を馳せた中村隆太郎氏が監督を務め、これは彼の代表作といえるだろう。
制作会社はA.C.G.T。
2007年の劇場版はシャフト制作だったが、ここでも監督は中村隆太郎だった。
そして、そこから10年を経た2017年、今度はLerche制作で再びテレビアニメ化されることに。
2003年版の続編というわけでなく、かといって全編リメイクでもなく、リメイクと新作を織り交ぜた感じだったね。
全12話中、リメイク3話、新作9話という構成。
ちょっと中途半端だなと思ったが、これは制作会社が替わったこと、さらに監督の中村隆太郎氏が既に癌で亡くなってたこと、それに加えてキノ役声優の前田愛が芸能界を既にセミリタイアしてたこともあり(今は中村勘九郎の奥さんだったはず)、かなり制作には苦労したんだろうね。

中村隆太郎、本当に惜しい才能を失ってしまった・・

興味があれば、2003年版と2017年版を見比べてみてほしい。
どちらも良作だが、演出のキレはやはり2003年版が上かな、と感じる。
ただし、声優のレベルは2017年版が上であり、それはキノ役が悠木碧に替わったからさ。
悠木碧は2003年版の最終話にも出演してて、これが彼女の声優デビュー作だったようだ。
彼女の出演回は神回でもあり、2017年版でもしっかりリメイクされている。
この最終話「優しい国」は、第4話「大人の国」とリンクしてるというべきか、このふたつを繋げて見ることで初めて泣けるんですよ。
案の定、「大人の国」もまた2017年版でリメイクされていた。

2003年版、2017年版「大人の国」のキノ

「大人の国」は、キノが11歳の時のエピソードである。
彼女が住む国は、満12歳を迎えた子供は国の規定で脳手術を受け、それにより脳の何かを切除することで大人になるという。
よって、この国の大人たちは皆ニコニコしており、権力者に対しては盲目的に従順である。
ある意味平和なユートピア、しかしキモチ悪いユートピア。
キノ(この時点での彼女の名はキノでなく、サクラであることが暗示されている)はこの国の宿屋の娘で、ある日彼女は宿泊客の旅人と知り合い、彼との交流によってこの国の異常性にだんだんと気付いていくんだ。
で、明日自分は12歳になるけど脳手術を受けたくない、と両親に相談したところ、親は激昂し、「この子は失敗作だ」といってキノを殺そうとする。
それを止めようとした例の旅人が、代わりに刺されて死亡。
その騒動のうちにキノは旅人のモトラド(喋るバイク)に乗って国を脱出し、その後は旅人の名前だった「キノ」を名乗ってモトラドと共に旅をするようになったという、まさにこのシリーズの出発点になる最重要エピソードが「大人の国」なんだ。

キノは、この命の恩人の旅人から「キノ」という名前、モトラド、枯葉色のコートを受け継いだ

やがて、キノは「優しい国」でひとりの宿屋の娘と出会う。
その子の名は、自分が幼少の時と同じサクラ。
キノとサクラと交流して仲良くなり、彼女の両親はキノに付いていってお前も旅をしてもいいんだよ、とさえ言ってくれる。
しかしサクラはそれを断り、ここに残ると言う。
やがて国を出たキノは、自分が出た直後に「優しい国」が火砕流に飲まれて消滅した、という事実を知る。
どうやら、国の大人たちはそうなることを事前に分かってたようだ。
だから、サクラに「旅に出てもいい」と言ってたのね。
そしてどうやら、サクラもまたその事実に勘付いてたっぽい(両親は隠していたつもりだが)。
それでも、国に残るという選択をした彼女。
話を整理すると、国を捨てたキノと国に残ったサクラ、両親に殺されそうになったキノと両親に愛されていたサクラ、生きているキノと死んでしまったサクラ、皮肉にも同じ名前で同じ宿屋の娘だったふたりの少女が、こうして全く真逆の運命を辿ったわけよね。
じゃ、どっちの人生が幸せだったの?
この作品は、そんな野暮な問いかけをしない。

愛する国、愛する両親と運命を共にする選択をしていたサクラ
これも、ひとつの生き方である

サクラは、ある意味キノの分身である。
「優しい国」は、「大人の国」のパラレルワールドといっていい。
「大人の国」でキノ(サクラ)は旅人(キノ)に命を助けられたんだが、「優しい国」でのキノはサクラの命を助けられなかったわけで。
こういう対比描写が、実に見事である。
そして何より、サクラを演じていた悠木碧が十数年を経て、今度はキノの役を演じたというのがまたいいじゃないか。
2017年版で悠木さんは「歌がうまい」という設定を受け継いで唄ってるんだが、明らかに前任の前田愛よりうまい。
彼女の歌を聴いて、私ちょっと涙出てきたもん。
ちなみにだが、前田愛と悠木碧はともに「あっぱれさんま大先生」出身である。

前田愛
悠木碧

花澤香菜も「さんま大先生」出身らしいね。
まあ、それはともかく、2017年版は「優しい国」でキノに「森の人」という銃を譲ってくれた謎の老人の正体も明かしてくれたり、あとキノの師匠の若き日の活躍を描いてくれたり、何かとファンサービスの行き届いた内容だったと思う。
何より、2003年版には出てこなかった新キャラのティーとフォト、これが何とも魅力的で、私は彼女たちの今後をまだまだ見てみたい。

常に手榴弾を携帯してる寡黙な少女ティー
声優は佐倉綾音
元は奴隷、数奇な運命を辿ってきた写真家フォト
声優は水瀬いのり

多分、このふたりは極めて重要な準レギュラー扱いだと思うんだが、彼女らを描くにはまだまだ続編が必要である。
はい、私は続編を希望します。
「フリーレン」がウケてる時代の空気からして、「キノの旅」なら絶対イケるって。
特に私は、ティーのキャラがかなりツボなのよ。
もっとティーを見たいな~。

この作品はキノ以外のキャラ、シズ・リク・ティーの一行が主人公になる回もある

ちなみに、この作者の時雨沢恵一はかなりのガンマニアみたい。
彼は「ソードアートオンラインⅡ」の銃器監修をし、また同作スピンオフとして「ガンゲイルオンライン」を作った。
キノが銃の達人という設定も、そういうことか。

ミリタリー系の人なんだな・・。
あと、この人の原作だとNHKアニメ「アリソンとリリア」もお薦めである。

「アリソンとリリア」

これも軍と諜報機関が絡む話ゆえ、ガンマニアの時雨沢さんっぽいといえるかも。
だけど、やっぱりNO1は「キノの旅」だな。
まだまだ原作ストックあるはずだし、続編制作、早いところお願いします。


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