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「半妖の夜叉姫」次世代を描く難しさ

「半妖の夜叉姫」というアニメを知ってますか?
一応、「犬夜叉」の続編スピンオフとされてる作品だ。
ただし最初にいっとくが、これはオススメのアニメというわけではない。
むしろ「よくない続編」の一例として紹介しておきたい。

この作品の制作はサンライズ。
「犬夜叉」を制作してたところだね。
だからある程度期待したんだけど、見たらどうしても違和感のようなものを感じてしまうのよ。
主人公は殺生丸の娘ふたりと、犬夜叉の娘ひとり、合計3名の女子。
そう、いかにもいまどきのアニメっぽく、女子3名できらら系の匂いが少しあるんだわ。
そして、これが「犬夜叉」の世界観と恐ろしく相性悪い。
このアニメ、どう考えても高橋先生の企画じゃないでしょ?
製作委員会を見ると、「Ⓒ高橋留美子/小学館・読売テレビ・サンライズ」となっている。
ただし、キャラクターデザイン以外で高橋先生が関わっている痕跡がどこにもない。
ちなみに監督は、1期が佐藤照雄、2期が菱田正和。
このふたり、サンライズでアイドルアニメとか作ってた人たちである。
敢えて女子3名のユニットをメインにしたのも、このへんの影響があるかもね。

左が殺生丸の長女とわ、右が次女せつな、後ろが犬夜叉の娘もろは

これと似たアニメといえば、「ドラゴンボール」の続編「ドラゴンボールGT」、あと「NARUTO」の続編「BORUTO」あたりか。
ひとつ大ヒット作が生まれると、商業的に続編を作りたい気持ちはよく理解できる。
ただし原作者自身が作る気にならない場合、上記の作品のようにアニメ制作会社がアニメオリジナルとして企画を立ち上げるものさ。
こういうのって、いいのかなぁ?
もし私が原作者なら、作品は自分が手塩かけて育てた我が子みたいなもんであり、勝手に我が子の後継者を他人になど作ってほしくないよ。
だというのに、鳥山明先生も岸本斉史先生も高橋留美子先生も、皆さん案外そのへんが無頓着っぽい。
彼らほどの大御所の気持ちなど、私のような凡人ごときに推し量れないものだろうが・・。

この作品はキャラデザ以外、鳥山先生はほぼノータッチだったといわれている
これは「NARUTO」の息子世代を主人公とした物語
岸本先生自ら、自分のアシスタント池本幹雄氏をこの作品の原作者に指名したらしい

「半妖の夜叉姫」に話を戻そう。
この作品のよくないところをひとついうと、まず主人公パーティのバランスである。
「犬夜叉」の場合、犬夜叉・かごめ・弥勒・珊瑚・七宝・キララ、この5人と1匹がひとつのパーティで、彼らの凸凹が見事なバランスで成立してたのよ。
しかし「半妖の夜叉姫」では、とわ・せつな・もろは、女子3人だけの凸凹の少ないパーティなんだ。
さすがにこれは、るーみっくわーるどの原則から逸脱しすぎている。
昔から「うる星やつら」でも「らんま1/2」でも、凸凹パーティは絶対的な原則だったというのに。
この原則を崩した時点で、「半妖の夜叉姫」をるーみっくわーるどのひとつとしてカウントすることはできん。
多分これは、全くの別系統の作品として捉えるべきなんだろう。

るーみっくわーるどの生命線は、個人ではなくユニットのバランスである

そもそも、これは誰向けの作品なんだ?
私のような高橋留美子ファンには上記の理由で不満が生じる構造になってるし、かといって新規を狙うには旧シリーズの登場人物があまりにも多すぎるぞ。
欲張ってどっちも取り込もうとした結果、どっちにも中途半端にしか訴求をできなかった、まずいマーケティングの典型である。
主人公のとわが宝塚っぽい男装の麗人キャラということからして、おそらくメインターゲットは女子、それもアイドル好きな十代を対象したかのような作風。
十代となると、彼らにとって「犬夜叉」は生まれる前の作品だよな。
当時はゴールデンタイム放送だったんだけど、それをリアルタイムには見てないよね。
いや、原作漫画を読んでる子は結構いるのかな?
原作読んで「この後、どうなったのかな?」と思った子が「半妖の夜叉姫」を見るという仕組みか?
あるいは、これをいまどきの異世界ファンタジーの一種として新規に見る人もいるかもしれん。
どっちにせよ、妙にふわっとしたマーケティングである。

「犬夜叉」では幼児だった弥勒&珊瑚の子供たちも成長した
上の絵の左端は琥珀で、退治屋のリーダーを務めている

高橋先生が、この作品をどう評価してるのかは知らない。
高橋先生は「うる星やつら」の押井守の時もそうだったけど、全部完成して公開された後になってから文句をいうことがある。
原作者ほどの立場なら、完成する前に文句をつけて修正することはできないのか?
ここが難しいところだ。
多分、これが米国なら色々な法的措置をとることで原作のブランドを守るんだろうが、日本ではそこまでのことは案外しないものである。
というのも、昔「宇宙戦艦ヤマト」をめぐって原作者の松本零士とアニメの制作サイドが裁判で争ったことがあるらしく、その時は松本零士の完全敗訴だったらしいぞ。
松本先生は、アニメ制作に接近禁止命令みたいなものを食らったんだってさ。
そういう判例があるもんだから、原作者もヘタな動きはできないのよ。
マトモに裁判で戦えば、松本先生の二の舞になってしまう可能性濃厚なんだから。
とはいえ、原作者とアニメ制作サイドの良好な関係もあるんだよ。
たとえば、「化物語」と西尾維新の関係。
最近なら、「推しの子」と赤坂アカ&横槍メンゴの関係。
どちらの例も原作者自らがアニメ制作現場に足繫く通い、企画段階から深く食い込んでるから発言力と影響力が絶大なのさ。
そこまでやって、初めて原作者はアニメにとっての神になれる。
言っちゃ悪いが、高橋先生はそこまでのことをやってないだろう。

「西尾維新アニメプロジェクト」を立ち上げた西尾先生は
業界で最もアニメ制作との付き合いがうまい原作者だと思う

じゃ、本来の「犬夜叉」ファンは「半妖の夜叉姫」を見なくていいのか?
う~ん、どうだろ。
見なくていいといえば確かにそうなんだが、逆に「犬夜叉」ファンしか興味のないだろう「あのキャラのその後」がたくさん描かれてて、これを見ないのは少しもったいないかもしれん。
たとえば、「犬夜叉」における最重要のキーパーソンだった犬夜叉&殺生丸の父親の姿が「半妖の夜叉姫」でははっきりと描かれている。
担当声優は大塚明夫さんで、もうそれだけでもカッコいいオヤジなのは理解できるでしょ。
あと、色々な意味でこの作品は【犬夜叉<殺生丸】である。
もともと「犬夜叉」からして、イタズラ小僧っぽい犬夜叉よりミステリアスで妖艶な殺生丸の方が女子ウケしてたし、この「半妖の夜叉姫」は最初から女子ウケを狙ってるのかも。
「犬夜叉」ファンでも殺生丸贔屓の人なら、これは見た方がいいだろう。
とはいえ、「犬夜叉」ほどの完成度を期待するとガッカリするよ。
まず、コメディとして笑える要素が1個もない。
「犬夜叉」では笑える要素のひとつだった刀々斎とか出てくるんだが、声優が替わって普通のお爺さんになってるし。
あと、ストーリーも「犬夜叉」ほどには胸クソ展開がなく、軽いというか、薄っぺらいんだよ。
ラスボスに細谷佳正という良い人ボイスを当ててる時点で、最初からヘビーな伝奇ロマンを期待しようもないか。
「犬夜叉」のあれはさすがに今の時代には重過ぎるとして、敢えてライトな作風にしたんだろうけど。
しかしシリアスにやるなら、せめて奈落を感じさせる鬼畜をラスボスにしてほしかったなぁ・・。

「犬夜叉」では姿形の描写が曖昧だった犬夜叉&殺生丸の父親
この姿を初めてはっきりと見られたことが「半妖の夜叉姫」最大の収穫である

なんていうか、「半妖の夜叉姫」はその作りの拙さゆえ、逆に「犬夜叉」のクオリティの高さを再認識させてくれるスピンオフといえよう。
とはいえ、「犬夜叉」を見てたから「半妖の夜叉姫」を見たという人は多くとも、「半妖の夜叉姫」を見たから「犬夜叉」も見てみようなんて人はいるんだろうか。
おそらく、皆無だろうね・・。

オールドファンは、旧メンバーが勢揃いしていく第39話以降だけを見るのでも構わないと思うぞ


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