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最近、SFが宇宙を描かなくなった理由

私が子供の頃、SFといえば大体が舞台は宇宙だった。
映画なら「スターウォーズ」とか、小説なら「銀河英雄伝説」とか、アニメなら「ガンダム」「宇宙戦艦ヤマト」とか。
でも、一体いつの頃からだろう。
気が付けば「ガンダム」等のロボットアニメを除けば、ほとんどSFは宇宙を舞台にしなくなってしまった。
思えば、昔はスペースシャトルの打ち上げをテレビ中継してたほどである。
でも、今ではそのシャトル計画そのものが終了したし、というより、それが終わったことに気付いてない人がいるほど大衆の宇宙への関心は薄れてきている。
NASAが今年に月面有人探査を実行することを発表してるが、こうして人間が月に行くのは、なんと50年ぶりだという。
案外、そんなもんである。
昭和には将来の夢を聞かれた子供が「宇宙飛行士!」と答えることが多くあったが、多分今はそんな子、まずいないだろうね・・。

70年代まで、宇宙を描く松本零士は神だったといえる

それにしても、なぜこれほどに人々は宇宙への関心を失ってしまったのか。
私が思うに、物理科学のトレンドが宇宙というマクロの世界から量子というミクロの世界へと移行したことが大きいんじゃないだろうか。
考えてみてくれ。
アニメを例にとるなら、いまどきのSFが描くのは、宇宙よりタイムリープ、パラレルワールド、サイバーパンク、そういった類いのものばかりだろ?
それらの題材はいずれも量子力学に根差したものであって、わざわざ宇宙を舞台にする必然性もないんだよ。
というより、もっと本質は単純なもので、ただ視聴者が宇宙に飽きたのかもしれない(笑)。
スペースオペラというのはどうしても宇宙船内がメインになりがちなので、そりゃコックピットは殺風景だし、宇宙空間は暗闇だし、コスチュームは皆同じ宇宙仕様でバリエーションないし、画としてはどうしても飽きるんだよね。
その点、同じSFでも「涼宮ハルヒ」「シュタインズゲート」「君の名は」「青春ブタ野郎」といった地球を舞台にしたやつは画が飽きないんだよ。
やっぱ、登場人物たちには普通に学校に通ってもらってた方が、青春ドラマとして感情移入しやすいってのもあるし。
昨年「ガンダム水星の魔女」を見て、「これ、うまいな」と思ったね。
「ガンダム」なのに、学園青春物。
これは画の楽しさ、華やかさという点でいえば、ガンダム史上最高到達領域だったかもしれない。

いまどきの空気感があった「水星の魔女」

さて、今回はスペースオペラ+学園物の名作として「モーレツ宇宙海賊」を挙げておきたいと思う。
これ、大好きなんですよ。
監督は佐藤竜雄さん。
彼は「機動戦艦ナデシコ」「学園戦記ムリョウ」「宇宙のステルヴィア」「輪廻のラグランジェ」などを作り、SF+青春の名手とされている人だ。
特に「機動戦艦ナデシコ」は有名だと思う。
これはドタバタ喜劇っぽく見えて核は難解なハードSFであり、一回見ただけで全部を理解するのは多分無理だね。
これが放送されたのは90年代後半、ほぼ同時期に「エヴァンゲリオン」があったことも含めて、こういう難解なのがトレンドだったのかもしれない。
「ナデシコ」については、また別の機会にでも。
今回は「モーレツ宇宙海賊」で、こっちは頭使わなくていい、お馬鹿系SFなので安心して見られます。
ぶっちゃけ私も頭はいい方じゃないので、「ナデシコ」より「モーレツ」派なんですよ。

「モーレツ宇宙海賊」ヒロインの加藤茉莉香

ね?
コスチュームからして頭悪そうでしょ?
しかもOP曲とED曲を唱ってるのは「ももクロ」で、もうそれだけで「これはお馬鹿系ですよ~」という明確なメッセージになっている。
うまい人選だと思う。
主人公の加藤茉莉香役は当時まだ新人だった小松未可子で、あまりうまくはないものの、逆に初々しくていい感じ。
設定として、茉莉香は「伝説の海賊」だったという両親をもつ女子高生。
ただし、本人は親が海賊だった事実を知らされないまま育った。
という以前に、父には会ったことすらないという。
母は、「いつか茉莉香は海賊業を継ぐかも」という前提で英才教育をしてたっぽいけど(本人は無自覚)。
どうやら海賊船船長って、世襲制らしい。
それが父の死により、急遽茉莉香が海賊船船長の座を引き継ぐことなり・・というのが大まかなあらすじである。

普段は喫茶店でバイトしている茉莉香

ポイントは、母から海賊船船長としての英才教育を受けてきたという茉莉香のポテンシャルで、どう見ても普通の女子高生である彼女に一体どんな力が備わっているのか、である。
勉強も運動もそこそこできるようだが、別に超人的というほどでもない。
しかし、窮地に陥るとその片鱗ははっきり見えてくるんだよね。
まず、茉莉香は判断が早い。
そして、確実に最適解を掴む。
多分、そういう決断の訓練を幼少から積んでいたんだろう。
過去回想シーンが皆無なので何をしてきたかは不明だが、母の梨理香は多分作中最強キャラのひとりで、その母が茉莉香の能力にお墨付きを与えてるんだから相当なもんである。
実際、彼女の決断力は見ていてとても気持ちがいい。
「リーダーとはどうあるべきか」の理想像ともいえる。
また、彼女の部下となる海賊たちは個々に凄腕のプロフェッショナル揃いで、茉莉香を温かく見守る、彼らのオトナならではの視線がまたいいんだよな。
彼ら海賊の配役は藤原啓治、堀江由衣、伊藤静ら実力派の大御所が揃ってて、まさに新人・小松未可子を温かく見守る体制なんだよね。
付け加えると、茉莉香の親友マミ役は小見川千明で、小松さんと小見川さんは現実世界の親友でもあり、こういうところもキャスティングの妙である。
そして何より、母・梨理香役の甲斐田裕子さんがいい。
私が思うに、甲斐田さんは日本で一番かっこいい女性の声を出せる声優ではないかと。
もともとアニメ畑でなく洋画畑の人だが、洋画吹替でも強い女性を演じさせたら無双の人だし。

「強い女」といえば甲斐田さんの右に出る者なし

海賊業とは何をするのか?については、一応彼らは政府から強襲、略奪行為を公認されている海賊である。
といっても保険会社と契約しており、奪った金品は保険会社が補償するし、金品を奪われた人たちは「海賊に襲われた」というレアな思い出を得られるし、結果的にwinwinになる営業のようだ。
そこでは海賊にも見栄えが重要で、あのキャプテンハーロックっぽい衣装にも一応の根拠があるんだね。
とはいえ、武装を公認されている海賊。
その力の使い道は海賊船船長個人に委ねられているわけで、そこを茉莉香がどう判断するのかが物語最大のキモである。
何にせよ、茉莉香の決断はいつでも気持ちいい。
ほとんどストレスが溜まらず、常に爽快感を得られる作りになっている。

SFは小難しいから苦手という人は多いと思うが、「モーレツ」ぐらいお馬鹿系ならそういう人たちでも全然OKだと思う。
ちなみにこの作品、日本SF大会主宰の「星雲賞」メディア部門賞を獲っている。
佐藤監督としては、「ナデシコ」以来2度目の受賞だそうだ。
じゃ最後に、今までの星雲賞受賞アニメをざっと挙げておこう。

・宇宙戦艦ヤマト(1975年)
・風の谷のナウシカ(1985年)
・王立宇宙軍オネアミスの翼(1988年)
・となりのトトロ(1989年)
・トップをねらえ(1990年)
・ママは小学4年生(1993年)
・機動戦艦ナデシコ(1999年)
・カウボーイビバップ(2000年)
・ほしのこえ(2003年)
・プラネテス(2005年)
・時をかける少女(2007年)
・電脳コイル(2008年)
・マクロスF(2009年)
・魔法少女まどかマギカ(2010年)
・モーレツ宇宙海賊(2013年)
・宇宙戦艦ヤマト2199(2015年)
・ガールズ&パンツァー(2016年)
・けものフレンズ(2018年)
・SSSS.GRIDMAN(2019年)
・彼方のアストラ(2020年)

近年、いくつか「これSFなのか?」と思うような作品が混じってきている。
ある意味、昔ながらのSFは冬の時代、ということなのかもしれないね・・。

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