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「魔法少女まどか☆マギカ」は、なぜこれほど評価が高いのか?

今回は、「魔法少女まどか☆マギカ」について書いてみたい。
まぁ、これは言わずと知れた名作。
アニメファンなら、見てない人の方が少ないだろう。
新房昭之+虚淵玄+梶浦由記の化学反応。
おそらく、この作品の発想の出発点は意外と単純なもので、
魔法少女と魔女って、どこがどう違うの?
というものだったと思う。
まず、ひとつのイメージとして、魔法少女というのは「セーラームーン」や「プリキュア」に代表されるように、正義の執行、および救済を目的とした天使のような存在である。
「少女」という名称がついてることからして、年齢的には小~中学生。
ファンシーな衣裳を纏い、可愛いデザインのステッキを携帯している。

魔法少女の代表格「プリキュア」

それに対し、魔女は歴史でいえば中世に遡るほど古いものであり、教会からは疎まれて「魔女狩り」「魔女裁判」で火刑の対象にもなった存在だ。
衣裳は黒のローブ、黒の山高帽、さらにホウキや木製の杖を持ってるだろう。
あと、大きめの鍋でグツグツと謎の液体を煮込んでるイメージもあるなぁ。

魔女のイメージ

かつて、なぜ魔女があれほどに疎まれていたのかといえば、悪魔崇拝絡みの話になってしまうらしい。
そもそも魔法とは何か?といえば、その定義は「悪魔との契約によって得る超常的な力」とのこと(それに対し、神がなす超常的な力は「奇跡」という)。
もちろん教会にとっての悪魔は神の仇敵であり、その悪魔と契約する魔女もまた同じく仇敵ということになるわけだ。

悪魔

で、日本のアニメ文化は、そういう前提をあまり掘り下げないまま、ただ「魔法少女」という新しい概念を創作しちゃったわけよ。
よって、もともとロジックの整合性に欠けるものだったかも。
だって、魔法少女は悪魔的なものと闘うスタンス、明らかに神側の立ち位置である。
じゃ、彼女らは「奇跡」を行使してるのか?
いや、彼女らが行使してるのは「魔法」だ。
じゃ、その魔法は悪魔と契約して、何かを代償に差し出したことで得られたものなのか?
ほとんどの魔法少女アニメが、そういうところを無視している。
だってこれは小学生が見るものなんだし、そんなロジックの整合性なんてなくても大丈夫でしょ?
という制作者のテキトーなスタンス。
確かに、小学生相手ならそれもいいだろう。
しかし、忘れてはならないことがひとつ。
魔法少女ファンの中には、「大きなオトモダチ」もいるということだ。

大きなオトモダチ

でさ、大きなオトモダチは小学生より多少はロジカルに考える存在なので、だんだん魔女⇔魔法少女の構造的矛盾に気付いてきちゃったのよ。
その矛盾に、敢えてメスを入れたのがニトロプラスの虚淵玄
彼は「FateZero」の脚本家でもあって、誰よりも魔法に精通してるがゆえ、当然魔法少女なる存在の論理的矛盾に気付いてたはずだ。
そこで彼は「魔法少女は、いずれ魔女になる存在」というロジックを作り、それを「まどマギ」の基礎としたわけだね。

センターの少女が、ヒロインまどか

皆さんもご存じのように、「まどマギ」のヒロインたちは無償で魔法少女になれたわけではない。
ちゃんと、重い代償を支払っている。
そういう意味では、史上最もちゃんとした魔法少女アニメかもしれない。
彼女たちは、ちゃんと悪魔と契約を交わしている。
・・あ、キュウべえは悪魔じゃない?
インキュべーターという宇宙的な存在?
いやいや、あれはどう考えても悪魔だろ。

キュウべえ

基本、キュウべえは少女たちを言葉巧みに騙す存在にせよ、意外と嘘らしい嘘はついていない。
ただ、肝心なことを口にせず、それは「聞かれなかったから言わなかった」として、あくまで少女側の自己責任とするスタンス。
こういうところが、実に悪魔っぽい。
悪魔もまた、意外と嘘はつかないのよ。
あと、契約もきっちり守る。
そこは人間の悪党と違って、何でもありの無法者ではなく、一定のルールに則って動く。
テレビ版「まどマギ」は、そんなキュウべえのルールを攻略することが最大のポイントだったね。
彼の「何でもひとつ願い事を叶える」というルールに付け込み、結局はその願い事として、まどかは円環の理(キュウべえによる搾取を阻害する存在)になったんだから・・。
キュウべえは自分に不利になる円環の理なんて、願い事として無理だと却下すればよかったのに・・と思わなかった?
いや、そういうルール違反はできないんだよ。
彼は悪魔だからこそ、約款は絶対に破れない。
このへんは、ダークファンタジー好きの人ならよくご存じだろう。

今回のヒロインは、まどかの親友ほむら

で、テレビ版の続編となる新編「叛逆の物語」が、これまた凄かった!
キュウべえは、さすが悪魔だけあって、ここでもまた狡猾な陰謀を巡らせていた。
約款そのものは破ることなく、今度は「円環の理」を自身の制御下に置こうと、ヒロイン・ほむらを結界で隔離し、そこに仮想世界を実現させている。
舞台設定としては、「SSSS.GRIDMAN」とほぼ同じ。
基本、テレビ版も劇場版も「いかにしてキュウべえを出し抜くか?」、そこに尽きる、頭脳戦の構図なんだよね。
テレビ版はまどかのターンで、劇場版はほむらのターン。
ほむらのターンは、正直想像のナナメ上をいくものだったわ。
ここでほむらは、
魔法少女⇒(+絶望)⇒魔女⇒(+円環の理)⇒悪魔
という式を成立させ、悪魔キュウべえをも凌駕する最上位悪魔となり、世界を書き換えることに成功している。
神様(円環の理)はまた記憶を失って人間となり、これって悪魔が支配する世界になったわけだね。
ただ興味深いのは、出来上がった世界が今までとさほど変わらず、それほど悪い世界には見えないということ。

世界を書き換え、まどか達を人として復活させたほむら

案外、そんなものかもしれないよね。
今までだって実質キュウべえという悪魔が好き勝手やってた世界だったし、それがほむらに替わっただけのこと。

むしろ、ラストでこういうボロボロのキュウべえの姿↑↑を見られたことで、なんか溜飲が下がる思いすらしたよ。
今まで常に余裕をかましてきたキュウべえが、ほむらに対してほぼ無力になって、かなり酷い目に遭ってる感じ。
正直、スカッとした!
だけど、彼の本体はどっか遠い宇宙にいるんだっけ?
確か、キュウべえは宇宙の高次元知性体、彼の能力の根源は何らかの超科学だと思われる。
おそらく、宇宙の法則を把握するほどの高い知性なんだろう。
超科学は、我々から見ると魔法である(魔法少女の魔法も、突き詰めるとキュウべえの勢力が保有する超科学のテクノロジーかと)。
でもって、キュウべえの目的は宇宙死滅の回避(宇宙の寿命を延ばすこと)であり、それの具体的方法論が地球からの感情エネルギーの収穫で、いわば彼らにとっての地球は畑みたいなものさ。
特に、魔法少女⇒魔女のプロセスが最も効率のいい感情の収穫。
ゆえに、できるだけたくさんの魔法少女(魔女になる少女)を作ろうとしている。
キュウべえは、その行為を罪深いとは全く考えない。
むしろ合理的で、正しい措置だ、と。
そりゃそうだろう。
だって遠い地球にまでわざわざ感情を収穫にくるぐらいだし、彼自身に感情なんてないんだから。
だからこそ、テレビ版でのまどかの自己犠牲、さらには劇場版でのほむらの自己犠牲、それらがキュウべえには理解不能、完全に想定外の行動だったに違いない。
よって、テレビ版でも劇場版でも、最後の最後に「してやられた」わけね。
これは彼が人間の感情を理解できないがゆえの、必然の失態である。

「叛逆の物語」の続編「ワルプルギスの廻天」は現在制作中

普通に考えて「ワルプルギスの廻天」は、まどかvsほむらという展開になっちゃうんだろうね。
考えられる物語のオチは、主に次の3つ。

①両者の力が作用し合って相殺、両者とも消滅(キュウべえも消滅)。
結果、神も悪魔もキュウべえもいない世界が成立し、魔法少女も魔女も魔獣もいない世界となる。
2人の犠牲の上でみんな普通の女の子に戻れて(2人の記憶は消えるが)、ハッピーエンド風のビターエンドで締める。

②何らかの形で最後の「願い事」を実現し、それによってまどかとほむらも仲直りできて、ご都合主義的に大団円のハッピーエンド。
キュウべえは一連の流れで「感情」を獲得し、いい感じの和解に至る。

③まどかvsほむらの闘いがスタートし、ほむらの支配を逃れたキュウべえが地球に隕石落としを実行。
地球の危機に、まどかとほむらは闘いを中断して手を組み、ふたり協力して落下してくる隕石に向かって突っ込んでいく。
地球は救われたが、ふたりは生死不明、消息不明のまま。
という、もやっとしたエンド。

個人的は、②を希望したい。
ただ、脚本家の虚淵玄が過去に「バッドエンドの帝王」という異名をもっていたことを忘れちゃならない。
じゃ最後に、虚淵氏が過去に小説「FeteZero」のあとがきの中で書いた文章を皆さんにも見てもらおうか。

物事というのは、まぁ総じて放っておけば悪い方向に転がっていく。
どう転んだところで宇宙が冷めていくことは止められない。
“理に敵った展開”だけを積み上げて構築された世界は、どうあってもエントロビーの支配から逃れられないのである。
ゆえに、物語にハッピーエンドをもたらすという行為は、条理をねじ曲げ、黒を白と言い張って、宇宙の法則に逆行する途方もない力を要求されるのだ。
そこまでして人間賛歌を謳い上げる高潔な魂があってこそ、はじめて物語を救済できる。
ハッピーエンドへの誘導は、それほどの力業と体力勝負を作者に要求するのである」
(2011年FateZeroあとがきより抜粋)

まさにこれ、「まどマギ」のまどか&ほむらのことを言ってるよね。


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