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嫌がらせ

「千マイルブルース」収録作品

深夜のバイパスで「嫌がらせ」を繰り返す俺。
すると義憤に駆られたらしいトラックが……。


嫌がらせ

 見知らぬ街の、素知らぬ顔をしたバイパスを走っていた。
 真夜中だ。別に急ぎではないが、空いている夜道というものは、どうしても飛ばしてしまう。
 しばらくすると、どうにもぎこちない運転のセダンに追いついた。無意味な加速にストップランプ。初めは若葉のオバサンあたりかと笑っていたが、なにか様子がおかしい。車間を空けて観察していると、今度はふらつきだした。センターラインに寄り、ビクッと戻り、ガードレールに張り付こうとする。で、またビクッとセンターラインへ。まるで振り子だ。
 ハイビームで覗くと、運転手の姿勢が不自然であった。ハンドルにもたれている。俺は対向車に注意して運転席に並び目をやった。居眠り運転だった。
 ホーンを鳴らしながら前に出ると、運転手はハッとして顔を上げた。しかしミラーの中でまたふらつきだす。こいつは停めたほうがいい。俺は前方から空吹かしで驚かせ、ブレーキをかけ慎重に車間を詰めた。だが、だめだ。速度を落とさない。これではこちらが追突されてしまう。それならばと車の背後に戻ろうとすると、いつの間にか大型トラックがセダンに迫ってきていた。かまわず対向車線で減速し、トラックとの間に無理やり割り込む。
 目を覚ませ。俺は後ろからハイビームとホーンを浴びせ、蛇行を切り空吹かしをした。背後のトラックが速度を落とす。様子を窺っているのだろう。
 善良なドライバーに悪さを繰り返す悪質ライダーになった俺は、かまわず「嫌がらせ」を続けた。するとやっと正気に戻ったのか、セダンの振幅がおさまった。ダメ押しでまた横に並び、空吹かしをして前に出る。ミラーの中の運転手が、しきりに自分の頬を叩いている。俺はまた蛇行を切った。セダンは減速し、ハザードを出し路肩に寄せて停車した。

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