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スウェーデンの家は、なぜ「タコ部屋」から「優れた機能美」に進化したか?(後編)

スウェーデン・デザインの進化をたどる話。前編では、昔は劣悪な住環境だったスウェーデンだったが、国民の趣味を向上させ、住環境の改善と産業の発展につなげようという動きがあったというお話でしたが、後編ではどのように国民の趣味向上が行われたかということについて。今回もこちらの本からの引用やそれを受けての感想になります。

国民の趣味向上は草の根的な学習機会の提供によって実現された…と前編で触れました。そこで大きな役割を果たしたのが市民向けの「学習サークル」。(余談ですがスウェーデンでは市民による地域のサークル活動が今でも盛んで、自主的なサークルが各地に数多く形成され、認められれば公的扶助が得られる)
当時のサークルではどのようなことが行われたか、本書にはこのような記載があります。

この講座では家具のそろえ方や配置の仕方、使いやすい間取り、照明やカーテンや敷物の色の合わせ方、効率の良い家事のすすめ方などが教えられた。(中略)講座の最後には、入居前のアパートのインテリアを自らの手で整えるという実習が行われ、実習の成果は展示会方式で一般に公開された。
ー太田美幸『スウェーデン・デザインと福祉国家: 住まいと人づくりの文化史』新評論 ,2018,p124 (以下同書引用)

私もこれまでの人生に何度も引越しをする機会がありました。その度に素敵なインテリアにしたいと思い買い揃えるのですが、どんなに雑誌を見て頑張ってもやっぱり何か違うわけです。センスがないからと半ば諦めてもいましたが、センスというのは天性のものではなくて、学習によるものも大きい。こういう教育機会がもしあったなら、快適な住まいを実現できて、家で過ごす時間がさらに豊かになりQOLがあがるんじゃないかと思います。

本書には、さらにスウェーデンが福祉国家政策(いわゆる「国民の家」という、すべての国民の生活の質の向上に対して国が責任を持つという高負担高福祉の政策)と結びついて発展していった歴史が紐解かれています。良いデザインは長い冬が自然と生み出したものではなく、当時の知識人たちが高い理想を実現するために苦心した結果であることがよくわかります。

日本でも近年、デザインの重要性は工業製品だけではなく公共セクターでも広く認識されている印象があります。それでもやっぱり「センス」は個人の志向によるものという空気はあるのかなと。本当は学校教育でできれば良いのですがただでさえプログラミングに英語にとパンパンなので難しいでしょう。そこで重要な役割を果たすのが先に出てきた地域の「サークル」ではないかと思っています。

ということで次回はスウェーデンの地域のサークル活動についてお話しします。




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