01 村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』を読んで
高校二年生だった私は、本屋の棚の一番上に並べられたその本を手に取ることができず、店員に「どうかあの本を取っていただけませんか」と頼むこともできなかった。制服は夏服だったか、冬服だったか、覚えていません。なんとなくだけど、とても暑い日だった気がします。根拠はないけど。
あれから4年が経った。本屋は違えど何故か相変わらず棚の一番上に並んだあの背中を見つけ、手が届くかどうか試そうもせず、近くに置いてあった足台に登って簡単にその本を手に取った。あの日と違う、染めた髪と化粧をした顔、唯一変わらなかった身長は、そこまで不便をもたらすような存在ではなくなっていた。
本を読むのは早いほうだと自負していたが、その本を読むにはどうにも時間がかかった。文字を追うときはそれほど集中せずともこなせるはずなのに、そしてそこに設けられた文字たちは意地悪な並び方をしているわけでもなく、寧ろ冷めたような目でこちらを見つめていたのに、どうにも時間がかかり、注意が散漫した。
きっと私は逃げ出したかったのだ。受け入れるとか受け入れないとかそういうことではなく、なにもせずそこでただ見つめている状態がとにかく苦痛だった。だってキクは私に一瞥もくれないのに、なぜか早く走れと追い立てた。だのにハシは真っ直ぐにその黒目をこちらに合わせて、動かないでと懇願した。
ブレーキとアクセルが同時に作動するような時間の中で、必死に彼らを追った。ダチュラ、唱えていたのは私の方かもしれない。
うだるような夏の日に、コインロッカーの中で二度目の産声をあげた2人は、破壊の後に再生が自ら訪れることを知っていて、それでいて再生を恐れ、拒む。きっとそれはその2人だからではない、誰もがそうであって、誰もが気付かないふりをしている。破壊よりも畏怖を与える再生を、どうして拒むのか。それは、限界まで走り、同時に一ミリも動かずにずっとそこにいるあるものの所為だ。
心臓の音をきけ、一回くらい生きるのだ。
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やったー!