マガジンのカバー画像

市内RPG

61
福井丘県子郡市。市役所発の魔王討伐に、高校生勇者がゆるーーく挑む。不定期連載中。
運営しているクリエイター

記事一覧

市内RPG ①回覧板と魔王

ざっくり言うと 「魔王を倒してください」 という回覧板が、ぼくの家に届いた。 ぼくは福井丘県子郡市に住む16歳。性別は男。職業は高校生。教員の父と専業主婦の母、それに中学生の妹と暮らしている。 子郡市は、今はさびれた来目市のベッドタウン。人口6万人。田んぼと小麦畑と住宅地、そして築五川と華立山しかない平な町。何の特徴もない退屈な町。ただのんびりしたところが魅力?かな。 回覧板は月1回。 いつもは読まない回覧板だが、何故か目に止まったのだ。 「母さん、魔王だってよ」

市内RPG ②仲間

二師鉄電車と二師鉄バスに乗って、明仙高校へ行く。夏休みなのに、補習があるなんて。進学校だからしかたないが、つまらない。 大穂駅からヤスが乗ってきた。 「おはよう」 「おぃーす」 ヤスのテンションは朝はこのくらい。いつものことだ。本人曰く、低血圧らしい。ひくいテンションのヤスとはなかなか盛り上がれない。無言で、電車に揺られている。ぼくらは電車の一番前に乗る。混まないし、乗客の先頭にいるということは何かうれしい。 次の足坂駅からはヒラが乗ってくる。いきなりヒラが尋ねてきた。

市内RPG ③市役所

9時に子郡駅前集合。 家を出ようとすると 「こんなに早くから、バイト探し?」母が言った。 「まあ、そんなとこ。行ってきます」 ヒラはもう来ていた。 「説明会は市役所の第3会議室であるってよ。15歳以上ならいいらしい。」 「たくさん集まるのかな」 「さあね。まあ、行ってから決めればいいさ」 話していると、ヤスが来た。 「さて、行こうか」 子郡市役所は駅から歩いて10分のところにある。レンガ造りの3階建て。ぱっとしないただの四角い建物。エントランスは暗くて、心細くなる。案内

市内RPG ④魔王討伐説明会

「主な説明は私、尾林がいたします。企画の目的、活動、評価と報酬の順に説明します」尾林さんは話し始めた。 「まず、この企画の目的は、魔王を倒すことです。魔王は世界の破滅を目論んでいます。邪悪な魔物を従えて虎視眈々と世界を狙っているのです。しかも、魔王はどこにいるかわからない。丁寧な探索が必要です。魔王を見つけ、そして、魔王を倒すことがこの企画の目的なのです。」尾林さんは少し興奮気味に言った。 「次に、活動を説明します。先ほど述べた探索と戦闘と報告の3つがあります。探索は、魔

市内RPG ⑤勇者登録

池木下さんは青いファイルを開いて、登録用紙を取り出した。 「3人がパーティー?」 「そうです」ヒラが言った。 「名前、住所、連絡先、希望職業を書いてね。高校生?なら、保護者と連絡先もね」 「名前、住所、連絡先、、、希望職業?これ何ですか」ぼくが尋ねると、池木下さんは 「勇者、戦士、魔法使い、僧侶、盗賊、武闘家から選んでね。あ、パーティーに一人は勇者が必要だから、相談してね」と言った。 ヤスを見ると「戦士」を選んでいた。「ヤス、戦士なの?」「オレ、剣道部だから。やっぱ戦士でし

市内RPG ⑥勇者誕生?

次の日、郵送で通知が届いた。 封筒には3枚の書類と木の棒が入っていた。書類は、勇者登録通知書、活動と報告の手引き、保険加入のお願いだ。 勇者登録通知書は、あなたは今日から勇者ですと書いてあった。少し立派な紙に市長の名前と印鑑が押されてあった。 活動と報告の手引きには、バーコードがあってケータイで読み取るように書いてあった。読み取ると、すぐに登録確認画面にログインさせられ、本人を確認した後認証されたようだ。ケータイには勇者としての身分証明書が送信された。魔物を倒したら写メ

市内RPG ⑦火の呪文

「どーなの?魔法使える?」ぼくとヤスはヒラに尋ねた。ヒラは、魔法使いになったのだ。なったのかな、市役所に登録しただけで。 「いやー、やっぱり練習と登録がいるみたいでねー」ヒラが言った。 「どうゆうこと?」 「魔法はイメージと呪文と効果登録が必要らしいんだよ。ケータイがキー局になってる。例えば、火の魔法をイメージする。イメージはケータイを通して現実の効果がつくられる。つまり、目の前に火がつくられる。さらに、呪文によって発動する。火が魔物に向かって放たれるらしい。レベルアップの

市内RPG ⑧会心の攻撃

ぼくとヒラとヤスの3人は、同封されていた武器を持って集まった。 ぼくとヒラは木の棒。ヤスはプラスチック?なかなか硬そう。 この違いは何だろう。職業の違いか? ぼくは勇者。ヒラは魔法使い。ヤスは戦士。 ヒラは木の棒を振り回しながら言った。 「これはヒノキの棒だね。ヒノキボー。ほら、ホームページに書いてある」 そう言って、子郡市のホームページをケータイで見せてくれた。ホームページには、「ヒノキボー、初心者の武器」と書いていた。 「あった、ヤスのはバトルステッキ、これだ」

市内RPG ⑨スライム

戦士のヤスはバトルステッキを装備している。 魔法使いのヒラはアツッの魔法を身に付けている。 勇者のぼくはヒノキボー。勇者のはずなのに。何か頼りない。まあ、とりあえず、ケータイに登録して装備した。 ヤスが言った。 「装備したら、戦いたくなるな」 「スライムくらいなら、勝てるかも」 ヒラもやる気だ。 子郡駅前噴水広場にそいつはいた。 小犬くらいの大きさで、水色の半透明のボディは形を変えながら動いていた。目や口は見当たらない。ただ半透明のボディの奥に核と呼ばれるソフトボー

市内RPG ⑩勇者のレベル

コンビニの広い駐車場で、グリーンスライムを見つけた。白線の汚れをかじっているようだ。 戦士ヤスと魔法使いヒラがゆっくり近づく。 よく見ると、2匹。 「大丈夫かな」ぼくは言った。 「勇者のくせにチキンだな」ヤスが言った。 「アツッ」ヒラが突然、火の呪文を唱えた。 「オリャー」あわててぼくも飛び出した。スライムAをヒノキボーでぶっ叩く。 「オリャー」ヤスも攻撃する。スライムの核をバトルステッキで突き刺す。 スライムAの動きがみるみる鈍くなり、動かなくなった。 動かなくな

コラボ企画「市内RPG」10回記念

高校生がバイト感覚で魔王討伐を目指す。ゆる〜い冒険譚「市内RPG」。 第10回記念として、絵が大好きな方とのコラボ企画を行います。 連載中の「市内RPG」を読んでいただき、インスピレーションを受けたイラストやマンガを気軽に投稿していただけたら、うれしいです。 イラストのもとになった「市内RPG」を貼り付けて、コメコメントいただけると、マガジンにまとめて拡散させていただきます。 ⑥勇者誕生? ⑦火の呪文 ⑧会心の攻撃 ⑨スライム ⑩勇者のレベル  冒険は続く。

市内RPG 11装備と4人目

翌日、1時。また、子郡駅に集合した。 「やっぱり休息は大事だねー」と魔法使いヒラ。 「力がみなぎるねー」と戦士ヤス。 「みんなレベル2だからねー」と勇者のぼくは言った。 「ところで、持って来た?」ヒラが尋ねた。 「一応、持って来たけど」 昨日、家に帰ったところで、ヒラからラインが来た。防具になりそうなものを持ってこいというのだ。 剣道部のヤスは防具一式を担いで来ていた。 「身に付けて」 「ここで?」 「そう。早く」 ヤスは服の上から面と胴、そして小手を身に付けた。 「T

市内RPG 12強くなるパーティー

ぼくら勇者、戦士、魔法使い、僧侶のパーティーは、子郡駅から電車に乗って、1つ北の小保駅で降りて、アスファルトの道を歩いている。 「ちょっと遠くない?だから、明日にしようと言ったのに」 さっきパーティーに加わった僧侶のカナは、文句をたらたら言いっぱなしだ。 「明日、自転車でって言ったのに」 戦士ヤス、魔法使いヒラ、勇者のぼくはそれを聞き流しながら歩いた。 広い県道が真っ直ぐ伸びている。片側は住宅地、もう片側は田んぼが広がっている。風はあるのだけど、日差しが強い。目的地は運動

市内RPG 13カゲとの遭遇?

レベル5になったぼくらは、市役所での情報をもとに、子郡運動公園に向かっている。 レベル5の戦士、勇者、魔法使い、そして僧侶。 もうスライムやジャンボタニシは恐れない。 市役所の尾林さんは、子郡運動公園にいるカゲから情報を聞くようにと教えてくれた。無事にカゲに会えるのだろうか。 カゲ。市役所の探索部。一般市民を装って、勇者を支援する。 子郡運動公園にそのカゲがいて、魔王の情報をつかんでいるらしい。 子郡運動公園。市民の憩いの公園である。 プロ野球チームの福井丘ソフトバ