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『正欲』をやっと読んで

念願。ずーっと読みたかったのだけど、文庫化するのを待っているのを言い訳にし、文庫化されたのに気づかずに今まで来ていたというバカ野郎である。今回、飛行機で読もうと思い、空港の本屋さんで購入。珍しくゲートに走らなくていい程に余裕があった自分にグッジョブ。

※ネタバレあり

正欲 朝井リョウ著

私が好きで嫌いな多様性をテーマにした作品。タイトルがいいよね。でもこの正欲ってワード、本編には出てこなかったような気がする。それでこそタイトルって感じもする。

そして味わったことのない読後感。スッキリではない。ずっしりでもない。感動!でもない。疲れたでもない。ふぅう、という良い溜め息な感じである。

正しい性欲なんてないなぁと改めて思った。多様性をうたってる割に、やっぱりマジョリティは男女であり、成熟した性器と性器で行う性交渉が一般的。それ以外を異常とする。この辺までは私もそれってどうなのって思ってたけど、それを越えてきたところは?って問いによってたくさんのことを考えるきっかけになった。そして結局自分もちゃんと安全圏のマジョリティにいることも、きっと無意識に安全圏のマジョリティを守っちゃってるんだろうなってことも。

何かの記事を書いた時に、「一般女性」という表現を使ったら、「一般女性なんてないのかも」とコメント?いただいたことがあって、いや、やっぱりそれは違うのではと思ったことを思い出した。

性癖の話だけすれば、私は男が好きだし、性行為は男としかしないし今後もしないだろうと思う。先のことは知らんけどね。でも、世の女性が頑張ってる体型維持とか、胸が小さいデカいとか、まつエクとか(まつエクって何の略やねん)、ネイルとか、美容とか(美容に良いから○○食べるとか知らんし)、オシャレとか、服とか、ヒールとか、最たるものが化粧なのだけど、興味ない。なんならやっぱり自分にとっては金の無駄と思う。そしてその話をすると、大体マジョリティ女性たちから何か言われがちである。

これが本編と何の関係がって感じだけど、要するに、私ってやっぱりいわゆる一般的な女性ではないと自覚していて、でも興味ないことや金の無駄と思うことって普通に話せてもいいと思うし、何ならこの考え方は他人には関係ないことなのである。が、やれ「今日はまつエクした」とか「こんな服を買った」とかは許されても私の小言はダメなのかいな。悪口だから?私からしたら、まつエクした・新しい服を買った=お金に余裕があって羨ましい、となり、少々嫌な気分にもなる。結局はその人がどう考えているかなのに、社会では美容とオシャレに金を使う女性マジョリティが優先される。

みたいな偏屈思考を常に持ってるんだけど、本編ではそれのもっと深い深いところの話をしていたと思った。

誰も思いもしないであろう性癖を持って生まれたこと、理解してもらえるかなんてレベルでなく話すことすらできない、その状況で、やれ多様性と言われたらふざけんなとなるのは間違いない。婚外恋愛や不倫関係で人に言えない恋愛してますって人、てんで問題なし。noteに書ける時点でだ丈夫ですよーって思う。社会で定義されてる”普通じゃない”に入らないことを理解なんて想像なんてやっぱり私にもできないって思った。

これもnoteだったけど、「社会はあなたが思うよりあなたに優しい」ということを言われたとき理解できなかったことにも繋がった。いや、実際そうかもしれない。その人にとっては社会は優しいのだろう。でも私はやっぱりそれには同意できない。安全圏にいるマジョリティの人が言える発言だと今でも思ってる。

夏月と佳道が結婚して一緒に住んで日常を送るという場面が好きだった。安心て一緒に居れる、話せる、自分を認めてもらえる環境。それを家族とも同級生とも同僚ともずっとできなかった二人が見つけた、安全な空間に流れる空気がとてつもなく美しいと思った。セックスしてみようの場面が、二人にもちゃんと人間的な人との繋がりを描いていて、読んでて泣けた。

大也と八重子が家の前で口論ぶちかますシーン、最高。二人とも自分の一方的な主張なのに、どちらも正論でどちらも間違ってるような気がした。でも人と人が本音で話すときってそういうことなんだと思った。譲る必要なんてない。譲るのはリスペクトではないと改めて思った。

一応海外生活が長いので、多様性とか異文化にほんの少しだけ理解があると自負しているけど、それでも常に自分の正しさを振りかざして、きっと私もどこかマジョリティと戦っちゃってるだろうなと思った。本編の途中で、マジョリティでいることって大変なんだ、マイノリティでいることの方が実は楽なのだ、というような内容のことが描かれていて、これにちょっとグサッと来た。いや、私の言うマイノリティなんてたかがしれてるけど、それでも私が海外で仕事をしたい理由はマイノリティになれるからで、最初から異分子の環境にいたいからである。マイノリティであることはマジョリティにしがみつかなくていい(日本だとその傾向高いって思う)。

最終的に、主人公のマイノリティたちの「顔面の肉が重力に負けていく」その表情、言葉にしたら失望とか諦めとかなのかもだけど、その顔をなんとなく想像してみて、あぁ、私は母と対峙した時にその顔したなと思い出したのであった。

2回目に読むのがすでに楽しみ。

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