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従来型の資本主義は、低コスト高パフォーマンスを基準に採用・雇用してマネジメントしてきた。そのおかげで経済成長につながった。しかしこの方針は、障害のある人など効率良く働くのにかなりの工夫が必要となる人達が取り残されることが避けられなかった。このことから、資本主義には「優生思想」的なものが内在していると言える。

企業のコンプライアンス・社会的責任は最小限に、働く人をいつでも解雇・雇い止めでき、少ないコストで金銭的利益に大きく貢献できるとマネジメント層が考える人材だけを残すことが、企業の「生産性」強化につながり、人々も恩恵を受けることができる、とする見方は今なお根強い。今日、無意識のうちにもてはやされ、目指すべきとされるロールモデルは、どんな環境の変化にも強く、いつリストラに遭っても引く手あまたで、フリーランスや起業で活躍することもでき、メンタル不調とは無縁の人物、というのが浮かび上がる。

こうした見方は、国民全体での遺伝的な質を向上させ国に貢献できる人材を育成し不良な子孫の出生を防止することが国を豊かにするという優生思想と見事に重なる。それはなくならないのか。

日本的経営で取り残された発達障害者を、従来型の資本主義の行き過ぎに歯止めをかけビジネスと社会貢献の両立を目指すステークホルダー資本主義がすくい上げるか。

そういう大きな問題提起を含んでいるのが、セールスフォースの調査報道。

筆者は調査報道を始める前、労働裁判の取材はやったことがなく、調査報道を始めたのは、マーク・ベニオフCEOのホームレス問題への発言などを真顔で受け取り、日本的経営で取り残された発達障害者をステークホルダー資本主義がすくい上げる、と密かに考え、障害者採用に名乗りを上げた人物が丸の内のJPタワーにおり、この関係者のキャリアストーリーを同社に提案したことからだった。発達障害者への差別と雇い止めでの労働裁判が焦点になるとは全く予想していなかった。

これと、2016年に起きた相模原障害者施設殺傷事件が、互いに地続きの関係にある問題だとして、警鐘を鳴らした。

同社日本法人では、障害者だから生産性がないと一律に切り捨てるということが行われていたわけではなく、例えばパラリンピックで実績を上げた人を何人もアスリート雇用して公式のホームページやSNSで取り上げるといったことも行われていた。彼らは企業にとって有用性があるとされた。その一方で、自社のカルチャーにおいて継続的でないとされた発達障害者や精神障害者が、有用性がないとされ雇い止めに追い込まれていた。これまでの障害者雇用状況を見ると、2009~2021年において大半の年で法定雇用率は未達で(同社と連携する就労移行支援事業所によると本格的な雇用を始めたのは2012年)、雇用状況報告を怠っていた(罰則規定あり)年もあった。「受け入れ部門がとまどう事も様々あり、相互理解に時間と労力を費やしてしまうことも多くあった」「働くことはもとより、健康管理を含む勤怠もままならないケースがあり、自ずと雇用に関して消極的になってしまうという負のスパイラルに陥った」(人事関係者)。

より効率の良い優秀な人材だけを採用・雇用してマネジメントした方が、合理的で成長力のあるビジネスになるだろうと考えるのもわかる。しかしそれを徹底的にやり始めて、障害の有無問わず非常にシビアに生産性を追い求め、ついて来れない人はどんどん切り捨てていくのをいとわない(企業側の言い分として聞かれるのは「本人のためを考え、本人に合った職場への転職を勧める」というものだ)としたら、ごく限られた人しか生き残れない企業になってしまうだろう。しかもよく見ると、その人が有用性がないとされるようになった背景には、生産性を発揮するための環境調整を怠っていた可能性が否定できない、そのための環境調整自体が「効率的でない」と退けられてきた(そもそも障害者雇用への反対姿勢を示すなど)可能性が否定できない、という事情があった。こうした状態は決して「ダイバーシティ&インクルージョン」「ビジネスと社会貢献の両立」とは言えない。

だから、優生思想はやはりいけない。

今回は、優生思想の危険性を訴える記事を集めた。

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