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脳梗塞の治療2。頸動脈内膜剥離術(CEA)とは?

 前回は、脳梗塞の治療として、血栓回収術を紹介させてもらいました。
今回は、頸動脈内膜剥離術(CEA)と言う治療を紹介します。

 頸部頸動脈狭窄症と言う疾患は、動脈硬化の一環で起こる病気ですが、
動脈硬化が全身病であるにもかかわらず、臓器別の専門家医療が
日本では行われているため、その弊害についても記載したいと思います。

 当院では、年間約30例の頸動脈内膜剥離術(以下CEAと略す)を
行っています。中には、緊急手術で行う事もあり、今回は緊急手術を
行った症例を提示します。

1)正常の脳血管、頸動脈分岐部とは?

頸動脈分岐部とは、首のところで脳へ血液を送る血管(内頚動脈)と
顔面の皮膚や筋肉に血液を外頸動脈に分かれる部位を言います。
ここは、動脈硬化で血管が狭くなりやすい場所です。
正常のMRIをよく覚えておいてください。

 血管が2つに分かれる部位は、川が二つに分岐するところに三角州が 
できるように、糖化や酸化されたコレステロールのカスがたまり、
血管が狭窄しやすいのです。下記のMRIを理解するうえで正常のMRI画像を
よく覚えておいてください。

2)緊急CEAを行った症例

1)現病歴

自動車の運転をしていたのは、娘さんでお母さんの意識が低下し、しゃべらなくなり
脈が触れにくくなったため、自動車の中で心臓マッサージをしたそうです。
娘さんは、看護師さんでした。

  娘さんが看護師さんであったため事なきを得て救急搬入されました。
救急搬入された時は血圧も脈も安定しており、意識障害と左半身の麻痺が
見られたので、脳のMRI検査をすることにしたのです。

 この国では、高血圧症 糖尿病 高脂血症など動脈硬化を
起こす可能性のある病気を何十年にもわたり、治療しておきながら、
脳の血管にしろ心臓の血管にしろ、簡単に検査ができる時代で
ありながら、血管の検査はせず、血管障害を起こして、初めて血管の病気の治療をするようなことになっているのです。
(お医者さんの多くは、次に起こってくる病気を予防しようという
考えが無いと思います。メタボリックドミノと言う言葉は、
絵に書いもちになっています。)

 高血圧、糖尿病、高脂血症、などを何十年も薬を飲んでいる患者さんは、
血管の病気を発症する前に、1度くらい血管の検査を受けてほしいと
思っています。血管の病気は、発症してから治療では、すべての患者さんを
良くすることが出来ません。血管の病気は、予防的治療がとても大切です。

2)救急搬入時の脳MRI

右頭頂部(心臓から遠い部位)に淡く白い部分が認められます。この部位に脳梗塞を
起こしかかっているのです。これが、左上下肢まひの病巣です。
また、心臓から離れた部位に起こる脳梗塞は、血流低下が
原因のことが多く、大きな血管の血流低下が疑われます。

 搬入時のMRIでは、脳梗塞の範囲は小さいものですが、血流低下が
原因であれば時間とともに脳梗塞が進行する可能性があります。

3)救急搬入時のMRI(MRA)

右内頚動脈は、左と比較して明らかに頸部より細く描出されており
血流低下が起きています。頸部の頸動脈分岐部の狭窄が原因と思われますが、
3D-CTA(CT血管撮影)で見ると狭窄部位は、全周性に石灰化(骨のように固くなっている)
しており、バルーン(風船)による拡張は困難と診断しました。

 右内頚動脈の血流低下は、頸部頸動脈の狭窄が原因です。
頸部頸動脈狭窄をバルーン(風船)で拡張する治療法もあるのですが、
 この症例は、狭窄血管の壁が、全周性に石灰化(骨のように固くなっている)しているためバルーンでは、拡張できません。
そこで、緊急内膜剥離術を行います。

4)頸動脈内膜剥離術(CEA)

右内頚動脈は、血流低下のため外頸動脈より細くなっています。
血流遮断した状態で手術をすると、手術中に脳梗塞が進行する可能性があるため
シャントで脳に血流を送りながら手術をしています。
内膜剥離後のきれいな血管壁を見てもらいたいと思います。

 私たちは、この手術を必要性があれば緊急で行います。脳は、極めて
虚血に弱い臓器だからです。また、動脈硬化が強く狭窄の程度が強いほど
内膜ははがれやすく容易にできます。手術時間は、麻酔も入れて2時間
程度でした。このような症例をクスリによる治療に頼ると脳梗塞は
進行してしまいます。理屈ではなく、当たり前のことを当たり前にすることがとても大切です。

5)術後MRI

緊急CEAにより、来院時の脳梗塞は防ぐことが出来ませんでしたが、
脳梗塞の進行は食い止めることが出来ました。
後遺症は、左下肢の脱力かあるいはほとんどないと言えます。

 手術翌日のMRIでは、来院時の脳梗塞は防ぐことが出来ませんでした。
しかし、手術をせずに経過を見たら、脳梗塞は進行し、右大脳半球に
広範な脳梗塞を起こしていた可能性があります。

6)術後MRA1

術後のMRAを見ると術前血流低下により左内頚動脈より細く描出されていた
右内頚動脈が血流が改善して太くなっています。
しかも右中大脳動脈(右大脳表面に血をお来る血管)が、手術していない左より
明らかに描出が良くなっているのが分かると思います。

 術前と術後を比較してみると、明らかに血流が回復したことが
わかると思います。

7)術後MRA2

CTAで白くなっているのが血管の石灰化ですが、右頸部頸動脈には白い部分が無く
石灰化した血管壁が摘出されていることが分かると思います。
手術をしていない左頸部頸動脈には、たっぷり石灰化が残っています。

内膜剥離術は無事終了し、日本の専門家医療では、ここで退院となります。
それでいいのでしょうか?

8)頸部内頚動脈狭窄症と冠動脈疾患の関係について

この患者さんは、発症時自動車の中で、心臓が停止しかかっていました。
脳梗塞を起こしたからと言って心臓が停止する可能性は低いのです。

 日本の臓器別専門家医療は、脳と心臓は別の医者が診ていますが、、
動脈硬化は、全身に起こるのです。頸部頸動脈狭窄症の患者さんの
30%程度は、30年前から冠動脈(心臓を栄養する血管)疾患を
合併することが分かっているのです。でも、今でも同時に検査を
している病院は少ないのではないでしょうか?
 この患者さんの場合、心臓が止まりかかった原因は脳梗塞では
ありません。むしろ、心臓が停止しかかったため、血圧低下、脳血流低下が
起きて脳梗塞が起きたと考えられます。術後すぐに3D-CTAで冠動脈を  検査しました。今は、CTで簡単に検査できるので脳外科の私たちで
検査をしています。

9)CTによる冠動脈検査

3D-CTAによる冠動脈造営をしてみると左冠動脈がほとんど閉塞していることが
わかると思います。

 CT造影冠動脈検査で、思っていた通り左冠動脈は、ほとんど
閉塞していました。心臓が停止しかかった原因は、左冠動脈閉塞による
心筋梗塞を起こしかけたためと考えられました。
 冠動脈の治療は、当院循環器内科で経皮的血管拡張術をして
もらいました。
 脳梗塞の治療だけで退院していたら、心筋梗塞でまた運ばれてくるか
死亡していたと思います。

10)退院前の患者さん

CEAと冠動脈血管拡張術を受けて退院前の患者さんです。
後遺症もなく病前の状態で退院されました。

11)頸部内頚動脈狭窄症と冠動脈狭窄の関係

内頚動脈狭窄症と冠動脈狭窄症は、かなり高い頻度で合併します。
これは、当院のデーターですが、30年前よりさらに合併率が
高くなっている可能性があります。

 上記は当院のデーターですが、冠動脈疾患と頸部頸動脈狭窄症の合併率は
30年前に約30%程度と言われていたものが、時代が進み合併率が高く
なっている可能性があります。脳梗塞を起こすような患者さんは、
心筋梗塞を起こす可能性も高いと言えるでしょう。また、逆に心筋梗塞を
起こす患者さんは、脳梗塞を起こしてもおかしくないと言えます。
 血管の病気は、急性発症します。起こしてからでは重度の後遺症が
残ったり、また、救命できない場合があります。

 いまは、MRAとかCT造影血管撮影とか血管を簡単に検査できる時代です。
高血圧、糖尿病、高脂血症など動脈硬化を起こす病気を長年にわたり
治療していながら、1回も血管の検査受けていないのでは、血管の病気を
予防することはできません。元気なうちに受けてください。

 血管の病気は、予防が一番なのです。



 







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