杉山雄二

東京都生まれ。神奈川県在住。写真作家/写真集愛好者。The White Reportに…

杉山雄二

東京都生まれ。神奈川県在住。写真作家/写真集愛好者。The White Reportに掲載した写真集レビュー、ミニレビュー、展評など、主に写真に関することについて。

最近の記事

LORENZO VITTURI 『DALSTON ANATOMY』 (2013, SPBH Editions)

イタリア人写真家であり、彫刻家のロレンツォ・ヴィットゥーリの出世作である本書は、イースト・ロンドン、ダルストン地区のリドリー・ロード・マーケットを題材にしている。西アフリカからトルコ、イギリス、中国など多様な文化がミックスされたマーケットのカルチャーに魅了されたヴィットゥーリは、この地にアトリエを構え、7年間にわたり居住しながら、この作品を制作した。 テレビで旅行番組を見たり、YouTubeで検索したりすれば、どこかの街が映し出され、グーグルストリートビューを見れば、その街

    • Piergiorgio Casotti 『Emanuele Brutti, Index G』 (2018, Skinnerboox) 【写真集レビュー】

      タイトルの『 Index G 』とはジニ係数のことで「おもに社会における所得分配の不平等さを測る」指標であり、居住地における人種差別の測定にも用いられる。イタリア人写真家、ピエルジョルジオ・カソティとエマニュエル・ブルティは、ミズーリ州セントルイスを例に取り上げ、現代における経済的不平等さ、人種差別による社会の分断とその見えにくさについて、車内から撮影した(ように見える)「カラーの風景写真」、アフリカ系アメリカ人男女のポートレイトと室内を写した「白黒写真」、それに加えて「映画

      • Rein Jelle Terpstra『Robert F. Kennedy Funeral Train, The People’s View』(2018, Fw:books) 【写真集レビュー】

        ポール・フスコ(Paul Fusco)の『RFK Funeral Train』は、アメリカ人ではなく、ロバート・F・ケネディの信奉者でもなく、当時をリアルタイムで経験したわけでもない私から見ても、不思議なぐらい胸が熱くなる写真集だ。1968年6月5日、ロバート・F・ケネディ上院議員は大統領予備選の選挙活動中に暗殺され、葬儀はニューヨークで行われた。その後、棺を乗せた列車はワシントンDCまで8時間かけて移動した。『ルック』マガジンの専属カメラマンとして、この葬儀列車に乗っていた

        • 野村恵子『Otari - Pristine Peaks 山霊の庭』(2018, スーパーラボ)

          新潟との県境、北アルプス山脈の麓に位置する長野県北安曇郡小谷村を舞台に撮影されたこの写真集は、四季、水、血、生命の循環をテーマとしている。最初にこの写真集を見た時に、野村の過去の写真とは、少し違う印象を受けた。対象との間に何かフィルターが掛かっているような空気感や揺れ動く不安定感を感じた過去の写真に比べ、より対象を明確に捉える意識が強く感じられる。また、もともと35mmフィルムカメラで撮られた写真はトリミングされ、ほとんどが 6x4.5フォーマットに統一されている(4枚だけは

        LORENZO VITTURI 『DALSTON ANATOMY』 (2013, SPBH Editions)

        • Piergiorgio Casotti 『Emanuele Brutti, Index G』 (2018, Skinnerboox) 【写真集レビュー】

        • Rein Jelle Terpstra『Robert F. Kennedy Funeral Train, The People’s View』(2018, Fw:books) 【写真集レビュー】

        • 野村恵子『Otari - Pristine Peaks 山霊の庭』(2018, スーパーラボ)

          M L Casteel 『American Interiors』 (2018, Dewi Lewis Publishing)【写真集レビュー】

          深刻かつ複雑な問題に向きあうとき、簡潔で明快なコンセプトに基づいた控えめな表現が、刺激的で生々しい表現に比して、むしろ説得力のある強いメッセージとなる場合がある。アメリカの写真家 M L Casteel は『American Interiors』において、退役軍人が所有する車のインテリア写真をとおして、彼らとアメリカの抱える苦痛やその問題の深刻さについて静かに問いかけている。この本を構成しているのは、小さなデジタルカメラで車の内部を撮影した写真だけだ。それらは写真家が、退役軍

          M L Casteel 『American Interiors』 (2018, Dewi Lewis Publishing)【写真集レビュー】

          Gabor Arion Kudasz, Human (2018, self-published)【写真集レビュー】

          ハンガリーの写真家 Gabor Arion Kudasz は『Human』のなかで、ヨーロッパでの伝統的な建築材料である「レンガ」をメタファーとし、現代の東ヨーロッパでの社会の歪みを示しながら、人間の存在と世界の成り立ちの関係性を再定義する手掛かりを模索している。撮影は、おもに東ヨーロッパ(ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア)のレンガ工場で行われた。大判カメラで撮影された統一感のある白黒写真群は、ポートレイト、工場内の施設、すでに放棄されたように見える建築物などと続くなかで、

          Gabor Arion Kudasz, Human (2018, self-published)【写真集レビュー】

          Stephan Keppel, Flat Finish(2017, Fw:Books)【写真集レビュー】

          Stephan Keppel(ステファン・ケッペル)『Flat Finish』は、2017年にオランダの Fw:Booksから出版された。オランダのビジュアルアーティスト、ケッペルは『Reprinting the City(2012年)』『Entre Entree(2014年)』をやはりFw:Booksから出版しており、ハンス・グレメン(出版社の主催者でデザイナー)とのコラボレーションで生まれた3冊の写真集は、一連のコンセプトで作られている。『Reprinting the C

          Stephan Keppel, Flat Finish(2017, Fw:Books)【写真集レビュー】