すべての企業はサービス業になる

今起きている変化に適応しブランドをアップデートする「11つ目」の視点

最近になってブランディングに関する仕事の依頼が増えています。ミミクリデザインでは「意味のデザイン」を基軸とした商品開発と、ボトムアップ型の組織開発を得意としているので、ある意味で必然的なのかもしれません。

そうしたこともあって、昨年からブランディングに関する知見のインプットは継続しているのですが、その一環で読んだ『すべての企業はサービス業になる 今起きている変化に適応しブランドをアップデートする10の視点』という書籍が読みやすく整理されていたので紹介します。

本書は、従来の「企業らしさ」を自ら規定して、メディアを通じて顧客に伝えていく(押し付けていく)ブランド戦略はもう通用せず、世の中の変化を捉えながら未来を見据えて、事業全体、サービス全体を通して顧客側のコミュニティ内でブランドを育成していく戦略にシフトしつつあることを指摘しながら、新たなブランド戦略を構築する上で理解しておくべき環境変化や、顧客の行動の変化、また具体的な変化の兆しとして抑えるべき10のポイントについて整理されています。

変化の兆しとしての3つの環境変化

前提となる環境変化としては、以下の3つの変化が指摘されています。

環境変化(1)ミレニアル世代の出現-価値観の変化
・ミレニアル世代は、経済的判断はコスト効率、利便性、体験性を重視して合理的に判断する。
・ミレニアル世代は、縦社会ではなく横社会を重んじて、多様性を認め尊重することで包摂的に考え、平和で豊かな社会を重視する。
・ミレニアル世代は、スマホから世界中の人やサービスにアクセスし、コミュニティを形成する。
環境変化(2)シェアリング・エコノミー-消費行動の変化
・ミレニアル世代の価値観に合致し、個人と個人が直接つながるプラットフォームによって実現される。
環境変化(3)IoT、ビッグデータ、AI-オートメーション時代への構造変化
・センサーとしてのIoT端末、多種多量なデータ、AIによる、リアルタイムで最適な実行を提供する高度自動化社会へシフトする。
・サービス品質向上、AIの成長すらオートメーションである。

ブランドをアップデートするための10の視点

このあたりは、多くの読者にとっては「おさらい」という感じでしょうか。このような環境変化や、顧客の購買行動やチャネルの変化なども踏まえながら、本書の後半では具体的にブランドをアップデートするための10の視点が紹介されています。以下、僕の言葉で要約したまとめです。

視点(1)一度購入した商品を再購入させるのではなく、他者への推奨を目的とした関係作りが大切になる
視点(2)メディアによる認知率が信用を作るのではなく、顧客コミュニティにおける人の評価が信用の源になる
視点(3)消費行動はモノを所有する喜びよりも、合理的なシェアする喜びが中心となる
視点(4)組織や顧客との関係性は、ハブを軸にした縦型の支配関係ではなく、ハブが存在しない水平的な接続関係になる(サービスの在り方も、ネットワーク的な自立型のコミュニティになる)
視点(5)マスをターゲットにするのではなく、オートメーションとカスタマイズによる個人へのパーソナライズした売り方が必要となる
視点(6)オンライン→オフラインに誘導して売るのではなく、オンラインで購買が完結することも踏まえ、オンラインとオフラインを駆使して認知・購買・行動・推奨を含んだシームレスな体験を提供することが重要になる
視点(7)ビジネスをゼロイチレベルで発明しようとするのではなく、既存の商品やサービスをベースに、自社の商品やサービスに置き換えた編集的なビジネスモデル設計が大切になる
視点(8)これまでは価値を明確にして顧客イメージをいかに醸成するかが大事だったが、これからはカスタマージャーニー全体をデザインし、事業やサービスの構造を再構築する必要がある
視点(9)産業構造が劇的に変わるので、現在の視点から実現可能なレベルでベストを考えるのではなく、未来の理想からバックキャスティングで戦略を考える必要がある
視点(10)企業対顧客で、作り上げた都合の良いイメージを与えるのではなく、人として振る舞い、人としての評判をあげ、人と人とのコミュニケーションを通してブランドを形成することが大切になる

以上です。技術や環境、それに伴う価値観の変化として、断片的に知っていたことや、肌で感じていたことを整理する良い機会となりました。

"正解探しの病い"から脱却する「問い」

しかし本書のような「未来を見据えるためのヒント」を参照する際に気をつけなければいけないのは、未来を予測するための材料として教えを請おうとするのではなく、未来を構成するための手掛かりとして活用するということです。

先日公開した「創造的衝動」に関する記事で指摘したところの、作り手としての主体"を失った「正解探しの病い」のモードでこの本を手にとってしまうと、どうしても「いつか訪れるであろう未来」が「正解」としてどこかにあって、それを「予測する」という態度を取ってしまいがちです。もちろん現実として目の前に訪れつつある「変化の兆し」に目を向けることは大事で、それがこの後「どのような大きな変化につながっていくだろうか」と想像することは、大切です。

けれども大事なことは、その「変化の兆し」のなかで、自分が何を感じているのか。その変化は望ましいのか。違和感はないのか。ワクワクするとしたら、どこにワクワクしているのか。正解探しの病いを誘発する「未来を予測する問い」ではなく、自分の衝動を解放するための「未来を構成する問い」を持ちながら、この本を読むと、見え方が変わるのではないでしょうか。

未来を予測する問い(正解探しの病いのモード)
・これらの変化の結果、どんな未来が到来するのか?
・これからの市場において、どんな商品/サービスが売れるのか?
・生き残るために、どんな先手を打っておくべきか?

未来を構成する問い(衝動を解放するモード)

・私にとって、これらの変化は望ましいのか?
・違和感があるとしたら、それは何/なぜか?
・変化の兆しにワクワクするとしたら、どんなところか?
・この変化のベクトルのなかで、私たちは何を仕掛けたいか?
・その先にどんな世界を作りたいか?

商品やサービスを開発するにせよ、組織をブランディングするにせよ、創造的なプロジェクトの起点は「個人の衝動」に基づくべきだと考えています。本書を手に取りながら、自分の中で「何が疼くのか」をメタ認知し、未来を構成していく衝動へと転換させていくことが、ブランドを自らの手でアップデートしていく上で重要な「もう1つ」の視点だと思いました。

追伸:この本は、0歳の娘もお気に入りでした。背表紙に理由が..!

以下、参考記事です。


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