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【本の感想】クダマツヒロシ『令和怪談集 恐の胎動』

怪談師として、語りもこなすクダマツヒロシ氏の単著一冊目。 本作の収録話は、彼の語りも含めてクダマツヒロシらしい切り口の話が並ぶ。 全31話の中でも、王道の様式を保…

あちゃ
2か月前
8

The Man

「撃てよ」  身体を撫でる風が鬱陶しい。  激しい嘔吐感にむせたくなる衝動に駆られ、素直に従う。  胃液と鉄が混じり合ったような、とんでもなく胸糞の悪い味が口一杯…

あちゃ
7か月前

In A Last Day

 今日、世界が終わる。  何がどうなるのか、とかさっぱりわからない。わからないのだが、とにかく今日世界は終わるらしい。  隕石が降って来るとか、そんなありきたりな…

あちゃ
7か月前
3

Take Me Far Away

「どっか行きたい」 「は?どっかってどこだよ?」 「誰もいなくて、新鮮で、すんごく綺麗なとこ」 「また夕の、俺を置いてけぼり妄想はじまった」  はは、真悟の奴、呆れ…

あちゃ
7か月前

Ghost In The Motel

 携帯電話のボタンを押す。  薄闇の中に浮かび上がる、蛍光色の黄緑色。発光するボタンは気持ち悪いほど無機質で、吐き気を催すほど有機的に見える。  安上がりのモーテ…

あちゃ
7か月前
1

RENNY

 銜えたセブンスターに、火を点ける。  ライターの炎が揺らめいて、煙草に移ろう様。それはとても神聖なことのようだ。  厳かな儀式。すぐに終わってしまうものだが、愛…

あちゃ
7か月前

月夜のロードサイクル

 心がふっと軽くなったような気がした。  そう思ったのは、わたしの身体が夜風を切ったせいだ。  山道に差し掛かる一歩手前の、畦道。わたしは一人、夜道を自転車で漕い…

あちゃ
7か月前
2

【本の感想】クダマツヒロシ『令和怪談集 恐の胎動』

怪談師として、語りもこなすクダマツヒロシ氏の単著一冊目。

本作の収録話は、彼の語りも含めてクダマツヒロシらしい切り口の話が並ぶ。

全31話の中でも、王道の様式を保った怪談もある(「訪問者」「理科室の女」)。

だが、本書に収録されているものの大半は、怪談の定石と外しの狭間をいくような、スレスレのものだ。例えば「御厨子開帳」や「豚の椅子」「恐の胎動」では、生理的嫌悪を衝く描写が隅々まで行き渡って

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The Man

The Man

「撃てよ」
 身体を撫でる風が鬱陶しい。
 激しい嘔吐感にむせたくなる衝動に駆られ、素直に従う。
 胃液と鉄が混じり合ったような、とんでもなく胸糞の悪い味が口一杯に広がる。
 俺は思った。
 全く、ついてない。
 目の前のガキを睨みつけた。薄ら汚れた子供が、黒い鉄の塊を握り締めていた。銃口はこちらに向いている。
 少女、と言ってもいいガキは、全くもってガキらしくない表情を浮かべ、未だ硝煙の立ち昇る

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In A Last Day

In A Last Day

 今日、世界が終わる。
 何がどうなるのか、とかさっぱりわからない。わからないのだが、とにかく今日世界は終わるらしい。
 隕石が降って来るとか、そんなありきたりなものかどうかも知らない。
 いきなりどうしてこんなことになったのか、僕にはさっぱりだけど、そういうことだと言われれば、そうなのだと無理矢理納得するしかない。
 街へ出れば殺伐とした空気が充満していて、殺気立った群衆が暴徒と化して店や女の人

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Take Me Far Away

Take Me Far Away

「どっか行きたい」
「は?どっかってどこだよ?」
「誰もいなくて、新鮮で、すんごく綺麗なとこ」
「また夕の、俺を置いてけぼり妄想はじまった」
 はは、真悟の奴、呆れてるし。その顔がもう何て言うか、変でおかしい。
 わたしの笑い声に、真悟はからかわれたって思ったみたい。ぷくーっと頬を膨らませた。
「こら、可愛い顔してるんじゃない。キスしちゃうぞ」
 でも、本当にどっか行きたい。
 誰もいない綺麗な海

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Ghost In The Motel

Ghost In The Motel

 携帯電話のボタンを押す。
 薄闇の中に浮かび上がる、蛍光色の黄緑色。発光するボタンは気持ち悪いほど無機質で、吐き気を催すほど有機的に見える。
 安上がりのモーテル。
 誰もいない。きっとここは、昔からわたししか住んでない。
 唯一の持ち物でもある携帯電話は、汚れることも破損することもなく、わたしの手の中に納まっている。いつ頃から持っているのか、具体的にはわたしは知らない。ううん、わからないと言っ

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RENNY

 銜えたセブンスターに、火を点ける。
 ライターの炎が揺らめいて、煙草に移ろう様。それはとても神聖なことのようだ。
 厳かな儀式。すぐに終わってしまうものだが、愛煙家ならこの瞬間の味がたまらないことくらい、わかるだろう。
 数秒もかからずに、煙の味が僕の身体を浸透していく。
 潮の香り。
 向こう岸の、工場から漂ってくるオイルの匂い。
 海の上を流離う汽笛とサイレン。
 つがいで飛ぶカモメたち。

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月夜のロードサイクル

 心がふっと軽くなったような気がした。
 そう思ったのは、わたしの身体が夜風を切ったせいだ。
 山道に差し掛かる一歩手前の、畦道。わたしは一人、夜道を自転車で漕いでいた。特にあてがあるわけでもない。単なる逃避。
 受験勉強で頭が疲れたのだ。パンク寸前の頭を抱えて、わたしは家をこっそり窓から抜け出した。
 もう家族は寝静まっている。
 二階の屋根を静かに降り、自転車を引っ張り出し――はじめての夜遊び

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