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おいしそうな文章にある”最高のトッピング”

沖縄から東京へ向かう飛行機の中で、ANAのアプリで『極道めし』を読んだ。1巻では刑務所で受刑者の男たちが、1年で最も豪華な食事であるおせち料理のおかずを賭け、めし自慢バトルを始めるストーリーだ。参加者のうち、最も多くの人が「食べたい」と感じさせた者が全員のおせちのおかずを1品ずつもらえる。日ごろ味気ないご飯を食べてばかりの受刑者は、人におかずを取られたくないし、人より多くのおかずを味わいたい思いが強い。絶対に負けられない戦いの中で、各々が思い出のおいしいご飯の自慢話を語っている。

読んでいる途中で東京に到着してしまったが、どこにでもある普通のご飯がことばだけでここまで食欲をそそれるのか!と大変勉強になった。

極道めしをよむまで、「食材は最高級の~~」や「食感が~~」とか、料理や食材に焦点を当てた食レポのような書き方で、おいしく感じると考えていた。しかし極道めしは違う。食べ物の特徴以上に、食べ物に至るまでの自分の行動や状況、食べ物を食べているときの感情、食べ方など、自分自身が中心に語られているのだ。例えば仕事を終えて帰る深夜、山手線でまだ閉店していないそば屋を捜しまわり、かきあげそばを夢中ですする……そんなエピソードがある。立ち食いそば屋に行った経験のない私でも、魚介だしのきいたツユの香りや、ハフハフしながらすする蕎麦のうまさが鮮明に浮かんだ。

どうやら、美味しそうと感じる食べ物の話には「共感」が重要のようだ。食べ物を味わった時の状況や、どれだけ自分が美味しいと感じたのかをつたえて、自分がその料理を食べた時の思い出がよみがえり、食欲がわく。漫画の中で餃子をスープに浸して食べたエピソードが披露された際、最年長の男性が戦時中に食べたすいとんを思い出して涙を流していた。つまり、その食べ物への思い入れや愛、自分自身の「美味しい!!」と感じた思いこそ、おいしそうな文章の最高のトッピングとなるのだ。

美味しい食べ物に出会ったときは、まず自分が美味しいと感じている状況に向き合って、おいしそうな文章が書けるようになりたい。


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