(小説)2人の探偵とデュアルアイドル

第1話(プロローグ)


「みんな盛り上がってるー?」
 ホールに響く歓声。
 ステージに立つのはアイドル志望のぴよりん。
 今はまだアイドルとして走り始めたばかりの新人だけど、ついにステージに上がれる日がきた。
 今までたくさん練習してきたし、配信アプリでファンとの交流もしてきた。
 1ヶ月前、事務所から「そろそろライブしようか」って言われた時は心臓が飛び出るほど嬉しかった。
 観客席にはお客さんがいっぱい。
 後ろの方には立ち見の人もいる。
 今日のために私は頑張ってきたんだ。
「いっくよー! カラフルセカイ歌いまーす! みんな応援しってねー!」
 「「おー!!」」

第2話(脅迫ファンレター)


「ぴよちゃん。今日のライブ最高だったよ!」
「ありがとうございます。マネージャーさん」
「これなら次のライブも開催できるよ」
「ホントですか! やったー!」
 彼女はキラキラなステージ衣装を纏(まと)ったまま喜んだ。
「じゃあ、そろそろ片付け始めるから、ぴよちゃんも着替えてね」
「はい」
 ここまでくるのに長かった。
 今までどんなに辛い練習でも耐えてきた。
 お金がない時はバイトもした。
 でも、これで私はアイドルの道をまっすぐ進める。
 みんな、ありがとう。

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 私服に着替えた彼女は、サングラスと帽子を被ってステージの裏口から外に出た。
 今まではあまり意識しなかったけど、ファンに囲まれないように一応変装をする。
 「ふう。楽しかったなあ」
 ステージ後の外の空気は最高に気持ちい。
 ひんやりした空気は熱(ほて)った体にちょうどいい。
 事務所に戻ったらファンレターの確認しなきゃ。
 うきうきしながら事務所への道を歩いていると、
「あの、すみません」
 突然声をかけられた。
「は、はい。なんでしょう」
 もしかしてファンにバレた?
 そんなことを期待をしていると、
「実はこの男を探してまして、見たことありませんか?」
 スーツ姿の細身の男性に写真を見せられた。
 そこに写っていたのは見たことない男の人で、少しぽっちゃりしてメガネをかけている40代ぐらいの人だった。
「いえ、ありませんけど」
「そうですか。あ、申し遅れました。私こういう者です」
「は、はあ。田中健二(たなかけんじ)さん」
「はい。探偵事務所の所長をしています。もし似ている人物を見かけたら連絡もらえませんか」
「この人何かしたんですか?」
「詳細は言えないのですが、探偵の調査絡みです」
 そういうと彼は足早に去っていった。
 探偵って大変なんだね。
 もらった写真をもう一度みるが、やっぱり見覚えがない。
 仕方なく写真をカバンに入れて事務所に向かうことにした。

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「お、今日の主役の登場だ」
 事務所に入ると、ひと足さきに帰っていたマネージャーに声をかけられた。
 事務所内はお祭り騒ぎで、私のライブポスターがそこら中に貼ってある。
「とっても緊張しましたよー」
「カラフルセカイ最高だったよ」
「ありがとうございます。次のライブも頑張ります」
「そうそう、次のライブと言えば」
 そう言うと彼は、
「販促用のポスター作ってあるから」
 そこには、ステージ衣装を身に纏(まと)ったぴよちゃんの姿があった。
「もうできてたんですね!」
「もちろん。ぴよちゃんならすぐ次のライブできると思ってたからね」
「ありがとうございますマネージャーさん」
「とりあえず最初は1万枚販促するからね」
 そう言うとポスターの束を取り出した。
「こんなに!? すごい!」
 これ全部、私のライブのポスターだなんて信じられない。
 本当に夢のよう。
 次もみんなに喜んでもらえるように気合い入れて練習するぞー。
「あ、そうそうぴよちゃん。ぴよちゃん宛にファンレター届いてたよ」
 マネージャーに手渡されたのはA4サイズの茶封筒だった。
 暑さはないからお手紙かな。
 封を開けるとコピー用紙に印刷された文字が飛び込んできた。
「何これ……」
「どうしたの?」
「こ、これ見てください」
 マネージャーに手紙を渡すと、
「なんだこれは」
 そこにはこう書かれていた。
「次のライブを開催するな。もし開催したらステージを爆破する」
「こ、これって脅迫メッセージですよね」
「そうだな。まさか出だしのライブでこんなのが届くとは」
「どど、どうしましょうマネージャーさん」
「そうだな」
 顎に手を当ててマネージャーが考える。
「そうだ。俺の知り合いに頼める奴がいる」
 そう言うとスマホを取り出して電話をかけた。

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「もしもし。田中か? 実は相談したいことがあってな」
「なんだ? こっちは今依頼を受けてて忙しいんだ」
「まあまあそんなこと言うなよ。俺たちの仲だろ?」
「まったく、分かったよ。で、どうした?」
「実はうちの事務所のタレント宛に脅迫メッセージが届いたんだ」
「そう言うのはそっちで対応するんじゃないのか?」
「それはそうなんだが、次のライブを爆破するって脅されてるんだ」
「爆破だと。その話詳しく聞かせてくれるか」

 マネージャーこと井田大輝(いだだいき)が田中に説明する。
「なるほど。もしかしたらうちで追ってるやつと同一人物かもしれんな」
「追ってるやつってどんなやつなんだ?」
「連続爆弾魔だ」
「な、なんだと」
「今、警察と連携して調査を進めているところだ」
「捕まえられる見込みはあるのか?」
「まだ分からん。こっちも全ての情報を話せるわけでもないしな」
「そうか……」
「だが、もし同一人物ならそのファンレターも証拠の一つになるかもしれん。こっちに送ってもらえるか」
「ああ、分かった。出来るだけ早く見つけてくれよ」
 井田は電話を切るとぴよちゃんに向き直った。
「マネージャー! 連続爆弾魔って本当ですか!?」
 彼女の声は恐怖で震えている。
 それもそうだ。
 今から立つかもしれないステージが爆破されるかもしれないんだ。
 誰だって恐怖を感じるはずだ。
「と、とにかくぴよちゃんはしばらく事務所にいた方がいい。家に帰る途中で何かあったらまずい」
「わ、分かりました」
 そう言うと、彼女は事務所の休憩室に向かった。

第3話(連続爆弾魔)


「橋本さん。何か新しい情報入った?」
「例のアイドルへの脅迫文書以外は何もでてこないですね」
「そうか」
 田中は探偵事務所にいる事務員の橋本さんとの電話を切ると道ゆく人の顔を観察していた。
 今ある情報は犯人の顔写真だけだ。
 潜伏場所も不明。
 しかも危険な爆弾を所持している。
 もし万が一、大勢いる場所で爆発されたらまずい。
 井田のところの脅迫状の話も気になるが、こっちもいち早く情報を得るために使えるものは使わないといけない。
 相手はアイドルばかりを狙う爆弾魔。
 犠牲者を出すわけにはいかない。

ーーーーーーーーーーーーーーー

 休憩室でぼんやりしていたぴよちゃんは、アイドル仲間のはるりんとLINEで連絡をとっていた。
「今日、うちの事務所に爆破予告がきたの。やばくない」
「え、うそー。ぴよりんもなの。実はうちにも来てるの」
「え、そうなの!? それってめっちゃやばくない」
「事務所の人たちみんな震え上がってるよ」
「うちなんて、身の安全のために家にも帰れないよー」
「私、今外にいるよ」
「危なくない?」
「私はバッチリ変装してるから大丈夫だよ」
「でも脅迫きてるんでしょ? 出歩かないほうがいいよ」
「そうかなあ。でももう少しで家に着くし」
「あ、そういえば」
 ぴよちゃんは田中健二から渡された写真の事を思い出した。
「今日ライブ終わった後に探偵さんに声かけられたんだけど、この人って関係あるのかな」
 入力して写真を送ると、
「え、この人何かしたの?」
「秘密だから言えないって」
「え、ちょっとどうしよう」
「どうしたの?」
「この人、さっきから私の後ろにいるの」
「……え」
 危険を感じた私は、すぐにマネージャーにはるりんのことを伝えた。
 はるりんはぴよちゃんと同じ事務所だから連絡先も知っている。
 マネージャーは急いではるりんに電話すると位置情報を送ってもらった。
「マネージャー。はるりん大丈夫かな」
「絶対に危険な目にはあわせない」
 そういうと再びスマホを手に取り田中に連絡した。

「と言うことだ。位置情報を送ったから後は頼んだぞ」
「分かった。今すぐ向かう」

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 井田からもらった位置情報を元に、田中は現場に急いだ。
 幸い、走れば10分で着く場所だ。
 探偵として鍛えてきたこの肉体。
 いざという時のために護身術も会得した。
 必ず助け出す。

ーーーーーーーーーーーーー

 どうしよう。
 ぴよちゃんの話では後ろにいるのは危ない人らしい。
 私何かされちゃうのかな。
 怖いよ。
「あの、ちょっといいですか?」
 後ろから声をかけられた。
 驚いたはるりんはダッシュで走ろうとして、勢いよく転んだ。
「大丈夫ですか?」
 そこにいたのは細身の男性だった。
 ぴよちゃんに教えてもらった人とは違う。
「は、はい」
「私は井田から情報をもらってあなたを保護しにきました」
「マネージャーさんの?」
「はい」
「お怪我はないですか?」
「大丈夫です」
 すると後ろのほうで、
「おい待て!」
 複数人の警官が男を追いかけていた。
 そこにいたのは田中が渡した写真そっくりの男性だった。
「もうじき犯人は捕まります。安心してくださいね」
 田中がそういうと、はるりんは膝から崩れ落ちた。
 恐怖から解き放たれて力が抜けたのだ。

第4話(デュアルライブ)


 後日、お昼の番組は連続爆弾魔が捕まったことでもちきりだった。
「ぴよちゃんよかったね。これでライブできるよ」
「ほ、本当によかった。マネージャー怖かったです」
 ホロホロと涙を流す彼女に、井田が肩に手をやる。
「もう大丈夫だから。ライブでみんなを元気にしてこよう」
「……はい」
 うつむくぴよちゃん。
「アイドルがそんな暗い顔してたらダメだよ。どんな時でも元気でいなくちゃ」
「わ、分かりました。私、爆弾魔なんかに負けません! このライブでみんなを笑顔にしてきます」
「そのいきだよぴよちゃん」

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「みんなー! 盛り上がってるー!?」
 ステージに降り注ぐ照明が彼女の衣装をより煌(きら)びやかに輝かせる。
「ぴよちゃん待ってたよー!」
「今日も可愛いねー!」
 観客席から歓喜の声がステージに届く。
 今回も絶対ライブ成功させる。
 彼女がそう意気込むと、
「やっほー。はるりんだよ! 今日はなんとぴよちゃんとデュアルライブでーす!」
 ステージ脇からはるりんが飛び出した。
「え、はるりん!? なんでここにいるの!?」
「ぴよちゃんには内緒にしてたけど、私も一緒に出ることになったんだ」
「知らなかったよー」
「ふふ。秘密にしてたからね。じゃあぴよちゃんいっくよー」
「「カラフルセカイ! 歌います!」」


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