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旅行3日目、ヒトリ二シテクレ

つぼみ形のランプから
光が差して
店内が暖炉色に照らされている

雰囲気のある喫茶店で、
木製椅子に腰を下ろした途端、

そいつはやってクる

そいつはやってきて、私の体内に入りこんで毛細血管の一本まで浸蝕する。そうなるともう、私はなす術もなく、
形なきモノに溶けてゆく。

そいつが…う…ずきゅっ…!!!でろーん…

そう、そいつの名は
妖怪ヒトリ二シテクレ

人と旅行して3日目、そいつは必ずやってくる。
どんなに好きで、大事で、長年連れ添ってきた(?)心やすまる人といたとしても。必ず、一緒にいたくなくなる。

いつもの穏やかでニコニコにやにやの私は、
ヒトリ二シテクレの足の小指の先っちょにい押し込まれて、声を出すこともできない。

ヒトリ二シテクレは、人の一挙一動に苛立つ。

誰かが息をすれば、「ソンナニ空気ウマクナイダロー!」と叫びたくなるし、
皿にあんこの欠片を見つければ、「サイゴまでタベナイなんてナンテヤツダ!」と思うし、
髪の毛を触れば、「オヌシの髪型、誰もキニシトランワ!」と意地の悪い気持になるし、
歩き始めれば、「そのビミョーなスピードはナンジャイ!」と理不尽な怒りを覚えたりする。

そういう時、ヒトリ二シテクレは、妖怪らしく不可解なスピードで歩き出すことで、独りになろうとする。
周りも私も、この妖怪の気が済むまで、独りにさせてやるしかない。妖怪は1時間くらいすれば飽きてどっかに行く。

もちろん私だって、どうにか小指から這い出ようと、薬指のあたりまで一生懸命ヒトリ二シテクレを押し返していたこともあった。
でも薬指に到達した瞬間、ヒトリ二シテクレが全権を持って私を押し返したから、その反動で私はもうちょっとで消滅するところだった。
かろうじて小指の爪の先に留まっていたけど、その日は1日中そこにいるハメになったのだ。

ヒトリ二シテクレ、恐るべし。
妖怪は気の済むまで好きなようにさせておくに限るのだ。
おぉ、こわ。

ということで、ここまでヒトリ二シテクレにちょうど押し出されて小指にいる私がお送りしてきました。

目の前にいる母、すまぬ。
しかし、こればかりはどうしようもないのだ。

みなさんにも、ヒトリ二シテクレがやってきたら、さっさと場所を明け渡して、noteに逃げることをオススメします。

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