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書評 #84|変幻

 『同期』シリーズを完結させる『変幻』。作品を貫く謎。臨海地区で見つかった刺殺体。その犯人と消息を絶った仲間。スピード感と臨場感あふれる展開。真相へと進める歩の丁寧さ、緻密さは今野敏らしい。外れがない。

 魅力の多い作品ではあるが、疑問として浮かぶ要素がある。主人公の宇田川亮太だ。物語を前進させ、事件を解決へと導く上で欠かすことのできない存在。しかし、経験の浅い刑事ではあるが、それ以上に自信のなさ、特徴のなさが感情移入を妨げる。それはまるで強風の中を漂うたこのよう。質問を多くすることは理解できるが、的を射ない質問が続くと感じてしまう。その流れから奇跡のように事件を収束へと向かわせる、ひらめきもどこか冷めた眼で見てしまう。

 成熟していれば魅力的に映るというわけではないだろう。若さ。未成熟さは原因ではない。自らが信じる道を突き進む。その原動力が同期を大切にする絆や仲間意識であることも不自然とは思わない。問いたいのは、そこに原理原則があるか。『隠蔽捜査』シリーズの竜崎伸也にあって宇田川亮太にないもの。それはリアリティ。言い換えれば人間味であり、人格を形成する背景と論ずるのは少し厳しいだろうか。


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