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ペーパーレス化プロジェクトの失敗とそこから学べること

以前参画したペーパーレス化プロジェクトについて紹介したいと思います。ハンコやFaxの廃止など、DXの文脈でもペーパーレス化を検討することが多いかもしれませんのでその知見を紹介できればと思います。

今回の記事の内容もスライドにまとめています。

システム化の背景・目的

このクライアントでは、書面での契約が必要となる商品を販売しているのですが、主に営業代理店にて申込を獲得し、自社の各エリアの作業員が訪問して契約するという方式をとっています。

販売エリアも関東全域で、エリア事務所も数十あるため、営業代理店からはまずは中央事務所に申込書をFaxしてもらい、取りまとめ、各エリアの事務所へFax、契約法もするという方式をとっていました。

ここで、営業代理店→中央事務所→エリア事務所のやり取りがFaxであることから、電子データでの受け渡しできるシステムを構築することで、業務効率化及び紙資料の削減を図るというのがこの案件でした。

アサイン時のプロジェクト状況

私がプロジェクト参画時には、すでに要件定義も終わり、開発中でした。立場はクライアント側のPMです。

当初から、しっかりとした企画書が無く、システム化の目標や期待効果が不明瞭であることが心配でしたが、初めてのクライアントだったため、まずはPMとしての成果を出す事に集中、プロジェクトの安定化を目指しました。

システムリリース後の現場反応

方針が2転3転したり、社外(代理店)との調整もあったので面倒な部分もありましたが、概ね当初計画通りに無事リリースを迎えることができました。

一気に全てのエリアに導入するのではなく、特定エリアから順次導入していく計画で、私自身も各エリア事務所を訪問してシステムの説明などを行っていました。

各エリアへの導入が進んできた頃、当初から気になっていた導入効果について確認することにしました。仲良くなった現場担当者が何人かいましたので訪問してみて、ぶっちゃけ使いやすいですか?と聞いてみます。すると、何か言いづらそうな反応。

システム導入初期は、使い方に慣れるまでは現場からは反発があるのが一般的なので、最初は様子見をしていましたが、一月経っても良い反応がなかったため、問題が発生しているかもしれないと考え、システム開発の責任者に、効果測定することを提案します。

そもそも、明確なシステム化の目標や期待効果が定義されていなかったため、改めて目標を明確化し、定量測定可能であれば定量(数字)目標を設定し、それが難しいものは定性的な目標を定義しました。

その上で、各担当者、管理者レベルへアンケート及びヒアリング調査で確認していきました。

システムリリース後に判明した問題

アンケートを取ってみると、業務効率化に関する効果が低い。というよりも、システム導入以前よりも業務負荷が上がっているという結果でした。

その状況を確認すべく、再度現場に訪問、業務調査(業務の流れを実際にみさせてもらう)してみると、Fax業務がなくなっていないことに気づきます。そこで、事務員の方にヒアリングしてみると以下のような意見をもらいました。

中央事務所: 事務員
・各エリア事務所からFaxで資料を送ってほしいといわれている
・代理店もFaxで資料を送りたいといわれている
・結果的にFax業務を無くせておらず紙資料も残っている

Fax業務をなくせていないのでイマイチな反応であったことが判明します。原因を探るため、エリア事務所と営業代理店にも訪問してヒアリングしてみると以下のような意見。

エリア事務所: 担当者
・紙資料は現場に持ち出しのため、Faxの方が印刷の手間が省けて良い
・Faxや印刷を無くす場合、現場での資料を確認用タブレット等が必要
代理店: 担当者
・現場は紙資料で申し込みを受けるのでシステムへのデータ打ち込みは手間
・タブレット等配布してくれれば営業が直接システムに打ち込むことはできるかもしれないが、高齢でITリテラシーが低い人も多いので全員に対応させるのは困難

つまり、契約業務をする各エリア事務所でも、申し込みを受ける代理店でも、紙資料が必要なため、中央事務所へFaxを要望していたのです。そのため中央事務所でもFaxをなくせず、加えて、システム導入により、今までのFax業務とシステム対応で負荷が増えているという状況でした。

システムリリース後に判明した根本的な課題

このシステム開発における根本的な問題は、業務の一部分だけをペーパーレス化してしまったことです。一連の業務フローの中で、途中だけをシステム化しても、システム入力(紙→電子)、出力(電子→紙)という無駄な業務が発生してしまいます。これであれば、紙資料で統一されていた方が無駄が少ないわけです。

ペーパーレス化するのであれば、一連の業務全てで紙を無くす必要がありました。要は、代理店での紙資料での申込みと、作業員の現場への資料持ち出しをペーパーレスで行えるようにする必要がありました。具体的には、タブレットなどで資料を参照できる、申込みを受け付けられるようにすべきでした。

プロジェクトの根本課題的な問題

”プロジェクト”という観点でもこの問題を整理したいと思います。

これは明らかに”企画フェーズ”の問題です。業務分析が足りていない。システム開発前に現状の業務フローを見える化した上で、システム化後の将来の業務フローを描いていれば上記の課題は識別できていたはずです。

また、目標設定、期待効果の検討が不十分であったことも、根本的な課題を検知できなかった要因になったかなと思います。

企画フェーズをしっかりしておけば、システム化スコープが不十分であるためより広範囲なシステム企画となっていたか、企画段階で中止という判断ができ、無駄なシステム投資を避けられたはずです。

プロジェクトの顛末

この状況を整理、追加機能開発やタブレット整備した場合のIT投資費用を概算した上で上席へ報告しました。結局、投資効果が低いという判断で、システムを停止(廃棄)すると言う判断になりました。

まとめ

今回はペーパーレス化プロジェクトにおける失敗と、その原因と対応策について紹介しました。DXの文脈でペーパーレス化に取り組む方には、その勘所についても少しお伝えできたのではないかなと思います。

ペーパーレス化するのであれば、業務の一連でペーパーレス化しないと効果が出せません。また、システム開発においては企画フェーズでの検討が不十分だと失敗・無駄なIT投資となりえます(どのシステム開発でも同じですが)。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!


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