見出し画像

【詩】たった一人

たった一人でよかった
たった一人いればよかった

そうすれば
毎朝起きなくてもよかった
目の眩む太陽を手で遮る必要はなかった
雨を心配しなくてもよかった
毎朝毎晩、他人に裸をさらす必要はなかった
毎日毎日、排泄のことを気に掛けなくて済んだ
記憶に肺を押し潰されることはなかった
愚弄されることはなかった
怒りと憎しみを抑え込むこともなかった
死に向かう苦しみを恐れなくてもよかった
死を願う必要もなかった
死ぬまで生き続ける日々に疲弊しなくて済んだ
楽しみや喜びを追い求める必要もなかった

そう
何十億人、何百億人の先祖の中で
たった一人でよかった
たった一人が、子どもを作らないでくれれば
私はここに存在せずに済んだのだ

それなのに
なぜ、何十億人、何百億人の先祖の中で
たったの一人も、そうしてくれなかったのだろう
 



★Kindleで詩集『戯言―ざれごと―』『寓話』発売中★

(kindle unlimitedご加入の方は無料で読み放題です)


作品を気に入って下さったかたは、よろしければサポートをお願いします。創作の励みになります。