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寝かせていたらミニレポートが完成した(読書感想文②)

私が思うエッセイ二大巨頭の一人である三浦しをんさんについて書いた後、もう一人の北大路公子さんのこともご紹介せねば……と書き、そのままでした。すみません。待っていた方がいるかはわかりませんが……。

一回目より二回目はプレッシャーがあるというか、比較したうえでの紹介だからテキトーにするわけにもいかない。余力があるときにやろうと思っていたらしばらく無かったという話もあるが、今日こそ書くぞ。



と、書いていたらびっくりするくらい長くなってレポートかな? という勢いの分量になってしまった。なので、北大路さん作品(主にエッセイとして売られているもの)のおすすめポイント的なところをメインでご紹介させてください。

物語とのギャップ

しをんさんについての記事でも述べたが、北大路さんのエッセイと物語のギャップもすごい。エッセイの途中に挟まる形、独立した形の二種類あるが、特に後者は同じ人が書いたとは思えないくらいである。『すべて忘れて生きていく』(PHP文芸文庫)の第四章が奇談集になっており、初めて彼女の完全フィクションを読んだ。非現実的な世界観でありながら、知らないだけで現実世界に潜んでいるのかもしれないと思ってしまう不気味さを含み、終始ゾクゾクさせられた。


ギャップを強く感じさせる所以

北大路さんの物語に衝撃を受けたのは、普段のエッセイの「緩さ」にある。しをんさんのエッセイは趣味の話を熱量いっぱいに語り、ご友人とライブや漫画の剛速球トークを繰り広げるなど、勢いがある場面が多い印象がある。かと思えば真面目に文学を語り、その硬軟の使い分けもさすがと思うのだが、それはひとまず。

北大路さんのエッセイは終始穏やかな波、平坦な道、という雰囲気がある。『すべて忘れて~』の第一章の題名が「私は頑張らなくていい」なのだ。その堂々さが素敵。同書は過去の連載をまとめたものなので、この章には幼い頃から成長していく中での話や思考が集められているのだが、その考え方に確かにそうかもな……と思ってしまった。私は無駄に焦っているのかもしれないな、もう少し力を抜いたほうが生きやすいのかしらんと肩の荷が下りる感覚にもなる。ご自身に「覇気がない」ことをはっきり述べるので批判されたこともあるそうだが、それで救われる人(私)もいるし、なによりもその姿勢が唯一無二の文章を作っているのだろう。


声に出して笑ってしまう

家の中の話、近場の話がほとんどなのに、すごく面白い。日常からネタを探し出す観察眼と、ちょっとしたことを面白おかしく伝えられる文章力に脱帽である。以前、幸運なことにサイン会に参加できたのだが、対象本を並びながら読んでいて思わず「ぐふっ」と声に出して笑ってしまった(笑い方よ)。母も一緒にいたのでまだよかったが、周囲に驚かれるかもしれないので読む場所には注意が必要である。

楽しい文章を作るうえで言い回しも重要だ。彼女の文で私が特に好きなのは、句点ではなく読点でつなぎ、一文が少し長くなるところ。前文から、少し長いが引用させていただく。

もともと著作が少なく選択肢がほとんどない状態であるのに、右を向けば『枕元に靴 ああ無情の泥酔日記』であり、左を向けば『生きていてもいいかしら日記』であり、その向こうに『ぐうたら旅日記』である。どんだけ日記好きなんだよ、というか今どさくさに紛れて宣伝してるだろうという話は別として、これから自らの権利と存在とを賭けてフェイスブック社に申し立てを行おうとする人間の添付画像が『ああ無情の泥酔日記』とはいかがなものか。 
 (2017年『私のことはほっといてください』PHP文芸文庫、49頁)  


この、途中で自らを突っ込むような言葉を挟む形式。テンポが変わるのでやり方によっては不要なものになりかねないが、クスッと笑えるポイントになっていて私はとても好きなのだ。僭越ながらこの手法を真似したことがあるが(すみません)、なかなか納得のいくものにはならず……修業が必要である。

急にテンションが上がる場面もあり、その不意打ちさとコミカルさにも笑ってしまう。例えば『私のことはほっといてください』に収録されている「『邪心』と闘う運命を背負って」では、嫌いな冬の良い面をいくつかの観点から冷静に見つめていくものの……ってこれを引用すると結構ネタバレになってしまう気もするのでやめておくが、面白いので読んでみてください(雑)。


エッセイに導入される物語

エッセイの途中でその内容に沿った物語(妄想?)に入っていくパターンも散見される。現実離れした世界観は先述した奇談集にも似ているが、それよりも面白おかしさが強いので、エッセイの延長線上で読むことができる。私が一番好きな話は「人類が進化を諦めた日」(『私のことは~』)、って改めて確認したらむしろエッセイが導入みたいになってるよ! その部分のテイストも普段と違うから全部物語なのかもしれない……。

最後にイレギュラーなものを例示してしまったが、この話を薦める気満々だったのでこれで押し切りたい。


おわりに

自分が思っている以上に言いたいことが多く、一方でそれらが抽象的なのでうまい具合にまとめられたか甚だ不安である。そして、やっぱり長い。
ミニレポートサイズの分量を読んでくださった方、本当にありがとうございました。





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