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【映画所感】 告白、あるいは完璧な弁護 ※ネタバレ注意

痺れる脚本、息を呑む演技

この2つのポイントを的確に衝いてくる快作『告白、あるいは完璧な弁護』を遅まきながら鑑賞。

数ヶ月前に観た劇場予告で、主演がキム・ユンジンだということを知り、俄然期待値が高まったいた。

キム・ユンジンとくれば、なんと言っても『LOST』

2004年〜2010年にかけて放映されていた、アメリカのテレビドラマ(シーズン1〜6)で、監督・脚本・制作を務めたJ.J.エイブラムスの名前を全世界に知らしめた、メガトン級の作品だ。

飛行機の墜落事故で、無人島にたどり着いた生存者40数名。サバイバルを余儀なくされた生存者たちの群像劇。その主要キャストのひとりが、キム・ユンジンだった。

いかにも幸薄そうで、どことなく影がある女性を好演。同じアジア人ということを差し引いても、その佇まいには惹かれるものがあった。

『LOST』から幾歳月。キム・ユンジンにスクリーンで再び出逢えるとは…自分にとってはこの上ない福音。キリスト教の贖罪をテーマに据えていたドラマだけに、感慨もひとしおなのだ。

で、本作『告白、あるいは完璧な弁護』。

不倫相手キム・セヒ(ナナ)殺人の容疑をかけられた、IT企業社長のユ・ミンホ(ソ・ジソブ)。

窮地に立たされたミンホは、刑事裁判において実績申し分なしの敏腕弁護士ヤン・シネ(キム・ユンジン)を雇い、自身の潔白を証明しようとする。

詳細な打ち合わせと弁護契約のために用意された舞台は、深い雪に覆われたロッジ。人里離れた“ポツンと一軒家”という形容がもっとも相応しい。

表向き、マスコミ対策のために逃れた山荘という設定が、ミステリ好きにはたまらないシチュエーションを呼び込んでくれる。

綾辻行人の“館シリーズ”に出てきそうで、いかにも惨劇が起きそうな雰囲気なのだ。

“新本格派”と呼ばれる著者たちのミステリを読書中に思い浮かべる面妖で奇怪な建物が、しっかりと具現化されている。

この密室でミンホの口から語られる事件の真相が、弁護士ヤン・シネの繰り出すカードによって二転三転。

どうやら殺人事件以前に、ミンホとキム・セヒが引き起こした交通事故が、事件の元凶であったのだと、徐々につまびらかになっていく。

本編で提示されたミスリードの数々は、サスペンス耐性が染み付いた観客には少々物足りないかもしれない。

もはや古典の黒澤映画『羅生門』(1950)における、別視点からの証言による事実の食い違いなど、それなりに既視感はある。

だが、主要キャストの芸達者ぶりが、斜に構えかけた意識をフラットで無垢な状態に引き戻してくれる。

「さぁ、気持ちよく騙してくれ。こっちは、心ゆくまでちゃぶ台をひっくり返してほしいんだ!」

この作品、『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』(スペイン・2016)のリメイクなのだそう。まずはイタリアでリメイクされた後に、晴れて韓国映画となった経緯なんだとか。

なるほど、原作が素晴らしければ、全世界共通でそのプロットは、重宝されるという好例を肌で感じられた。

本格ミステリの未来は、まだ心配するには及ばない。


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