宇宙人ビンズと黄金の星

この物語は、惑星テコヘンがありとあらゆる星々を調査するために結成した「惑星調査団」に所属する能天気な宇宙人ビンズと、その友ベーリッヒの活動報告である。


やぁ皆んな、テコヘン惑星調査団のベーリッヒだ。今日の私は宇宙船で静かに読書を楽しんでいる。なんでかって?惑星調査団にも休日というものがある。当然、ビンズも休暇中で今はテコヘンに帰り、飲みに出かけている。私もテコヘンに行こうとは思ったが、あいつと一緒だと気が休まらないからな。で、もっとゆっくりと読書を楽しみたいと思っていた矢先に、あの騒がしい男が帰ってきた。息を切らし、私がおかえりと言っても返事をせず操縦席に座り、座標を表示し始める。おいおい、今回はどこに行こうとしているんだ?まぁ、私は関わらなければ良いだけの話だ。いつもそうだ、恐竜の星に行くだの、拳法マスターになるだの、はたまた銀河一周を目指すだの、クラゲの刺身が食いたいだの、スケールの大きいものから小さいものまで様々だ。当然、仕事でもある訳だから私もついて行かざるを得ない。だが、私は今回何があっても同行するつもりはない。宇宙船で1人、「テコヘン鉱物大百科」を見るのだ。結構、結構高かったんだ。サイズもボリューミー、故に読破の邪魔はさせない。しかし、念の為だ、一応断っておくのが大人としてのベストな対応だ。私は珍しく焦って宇宙船を操縦する彼に、私はついて行かないと念押ししておいた。するとビンズは「好きにしろ、俺1人で行く。」と返してきた。なんだ、いつもなら無理矢理にでも引っ張るこの男が、珍しい。私は本を読む手を止め、宇宙船の窓を見ると、目の前には輝きを放つ星があった。大きく、太陽の光に照らされ星一つが宝の山。私は慌てて座標を確認すると、この星は惑星ゴルドスだとわかった。私はビンズからハンドルを奪おうとする。ダメだビンズ、その星にどんな理由があっても行ってはいけない。どうしてあの星が危険度Aに設定されているのか知らないのか?惑星ゴルドス、全てが黄金で出来ている星だ。それだけならいいが、一度入れば黄金に魅入られて永遠に星から出ようと思えなくなり死ぬか、危険知らずの宇宙海賊どもが黄金を奪いにくる、そいつらに遭遇しても死ぬ。我々惑星調査団も調査を打ち切った星だ、理由はさっきの2つがあるからだ。ビンズ、宇宙海賊ならお前の力でどうにかなるだろうが、黄金の不思議な力までは防げない。金が欲しいのか?よしわかった、別の星に金銀財宝を取りに行こう。それなら私も一緒について行ってやる。わざわざこの星じゃなくてもいいだろう!止まるんだビンズ!


結局、星に着陸し、ビンズは外にスキャナーを持って宇宙船を出ようとする。私は止めたが、彼に突き飛ばされてビンズはそのまま外を出る。私もスキャナーと光線銃、そして秘密兵器を何点かカバンに詰めていく。何を入れたかって?黄金の魔力を打ち消すものとだけいっておく。他のやつはともかく、私はゴルドスにある黄金の正体を知っているからな。


さて、私とビンズは宇宙船から出て30分ほど歩いた場所に辿り着く。歩いているとわかるが、一面金色で気味が悪い。そのくせ言葉のようなものが聞こえてくるのだ、まるで我々を導くように。黄金はきっと我々を誘おうとしているのだ。そして、それに呼応するかのようにビンズの顔色も悪くなっていく。顔は青ざめ、ここで暮らしてもいいかもとつぶやき始める。やはりな、ここにある黄金の正体を知っている私からすれば、今のビンズが滑稽に思えてしょうがない。私はカバンから大量のミントを手に持ち彼の体や顔に擦り付ける。ビンズは涙目になりながら何するんだと怒ったが、黄金の魔力がどうやら解けたようだ。彼はまた元気に歩き出す。私もミントの葉を鼻に詰めて後を追う。


結局、ビンズは何もも言わないまま歩き続けている。途中目を覚まさせてくれてありがとうと感謝されたが、それでもこの危険な星に来た理由を語ってはくれなかった。だが、彼は立ち止まり指を指す。あれが今回の目的であると。ビンズがさした方向には我々と同じテコヘン人がいる。耳には2つのピアス、男とは思えないほどのアイシャドウ、そしてファンキーな出立ち。間違いない、我らが調査団の同期、ジャックではないか。こんなところで何をしているんだ?よく見るとジャックは黄金で出来た石をかき集めその中を泳いでいた。アイシャドウ越しでもわかるほどやつれており、多くヨダレを垂らしてゲラゲラと笑っている。まずい、黄金の魔力が彼を蝕み始めていたのだ。ビンズはジャックの手を引っ張り帰るぞと言ったが、彼はずっとここにいるともがく。ビンズは私からミントの葉を取り上げてジャックの顔面をバシバシと叩くが、ジャックは正気を取り戻さない。どいつもこいつも、世話が焼けるな。私はカバンから缶詰を出し、それをジャックの前で開ける。開けた途端ゴミだめのような匂いが充満しビンズとジャックは悶え始めた。するとジャックは、ハッと正気を取り戻し我々にゆっくりではあるが話しかけてくる。よかった、この分だと後遺症はなさそうだ。ビンズは私の缶詰めを取り上げ投げ捨てる。先程の缶詰は「ハエたかり」と呼ばれている魚を生で発酵させた物を缶詰にしたものだ。あまりの匂いにハエを寄せ付ける事からそう名前がついた食べ物だ。私はそんなに嫌いじゃないんだがな。おつまみとして美味しい部類に入ると思うんだが。ジャックはゆったりとした口調で久しぶりだなと言ったが、ビンズは珍しく怒りながら腕を引っ張りジャックを宇宙船に連れて行こうとする。だが、ジャックは正気を取り戻しても尚、目の前に広がる黄金にすがろうとする。最終的にビンズは彼を縄で縛り付け、彼を引きずりながら歩いていく。賢明な判断だ。


ビンズと私はジャックを引きずりながら歩いていると、道中別の宇宙船を発見する。宇宙船にはドクロのマーク。どこかの宇宙海賊だろう。多種多様な種族が黄金をかき集めている。まぁ、ああいう奴らにとってはお宝かもしれん。我々にとっては毒以外の何者でもないがな。まるで血を流しているかのように赤い目をした彼らに見つからぬよう、我々は静かに宇宙船に戻り飛び立つ。黄金を欲しがっていたジャックを乗せて。

 

それからというもの、我々はもう一度テコヘンに戻り、とある古い酒場にジャックを連れて入る。懐かしいな、訓練生時代によく皆んなと来た酒場だ。すると1人の老人が我々を見るなり近づいてくる。

ジャック!!

老人が真っ先に彼の名を読んだ。そして縄をほどき平手で彼の顔を思い切り叩いた。するとビンズはピコピコハンマーを取り出し老人に手渡す。

これで勘弁してやれよ。

老人は叩く手を止め、膝をつき落胆するジャックの頭をもらったピコピコハンマーで何回も叩く。ジャックと老人はずっと泣いていた。その光景を後に、我々はゆっくりと店を出る。


我々は束の間の休日を終えてまた次の惑星を目指す。ビンズは結局、理由を話してくれなかったがなんとなく理解した。ビンズはあの日、あの老人にジャックの事を聞いて、ゴルドスにいる彼を救うため慌てて私と向かったのだと。だが、ビンズは黄金の正体を詳しくは知らないだろう。ゴルドスがなぜ立ち入ってはいけない星なのか、ジャックにどれ程の危機が訪れているのか、そんな思考を度外視して助けに行った。私がビンズを嫌いになれない理由のひとつがこれだろう。さて、後世に伝えるという名目で、私はゴルドスの脅威を皆に教えなければならない。勉強好きのこの私でもつい最近知った情報だ。


オウゴンモドキ。光り輝くその物質は至る所に存在し、黄金の輝きを放つが価値はメッキ以下の代物だ。オウゴンモドキは本来鉱物や植物であったもののチリ寄せ集まり金色の物質として生まれる。サイズも埃程度のものが多い。その埃と同類の扱いをされるオウゴンモドキで形成されて出来たのが惑星ゴルドスなのだ。ここまでの話ならどこに危険があるかなんてわからないだろう。そう、寄せ集まる素材が問題なのだ。寄せ集まりオウゴンモドキを形成する植物や鉱物の成分は、人体に大きな幻覚作用をもたらすものが多い。つまり、あれは金色をした麻薬なのだ。だから一度入ればあの黄金の虜になってしまうというわけだ。厄介なのは、オウゴンモドキが太陽の光を反射した際の光にも同様の幻覚作用がある。だから防護服なので呼吸器を守っても無駄なのだ。普通ならチリ程度しか存在しないものが、惑星一個分で存在するから脅威であり、本来なら放っておいても問題はない。何より、対処法も物凄く簡単だ。オウゴンモドキの幻覚作用以上の刺激を呼吸器に与えれば、一気に目を覚ます。だから私はミントや缶詰を持っていったのだ。要するに、1人ではどうすることもできない悪魔の力なのだ、オウゴンモドキは。海賊達が狙う理由は、言わずともわかるだろう。だが、そんなものに手を手を出せば、いつかは天罰が下る。我々調査団が手を出す必要はない。


さて、オウゴンモドキ及びゴルドスがいかに危険かわかっただろう。この情報は、最新の「テコヘン鉱物大百科」第41ページに記載されているので、興味が有れば見てみるといい。テコヘン学的には鉱物に分類されるそうだ。しかし、結局最後までゴルドスに行く理由を伝えてくれなかったのは未だにわからない。私は宇宙船を操縦するビンズに、なぜジャックの事を話さなかったのか聞いた。するとビンズはこう話す。


お前、ジャックのことあんまり好きじゃなかったみたいだから。


たしかに、訓練生時代からあいつの事は嫌いだ。いじめっ子体質だったからな。だが、家が貧乏で金を稼ぎたいという熱意は皆が認める物だった。あの老人はきっと、ジャックの父親だろう。ジャックの父親も、どういう訳かオウゴンモドキの知識があったのだろう。ジャックも頭は悪いが鉱物の知識は人一倍あったからな。金が欲しい故に禁忌に手を出した。ジャックが今回の件で逮捕されない事を祈る。さて、私がビンズに珍しく気をつかわれたのでもう少し甘えてみようと思う。いつもは私が宇宙船を操縦するが、それを横目に私はソファーに座り「テコヘン鉱物大百科」の49ページ目を開いた。


調査報告

惑星ゴルドスに自生するオウゴンモドキの幻覚作用は極めて危険であり、今後はこの脅威を次世代に伝えていく事を早急に検討するよう案を提出するものとする。


宇宙人ビンズと黄金の星 









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