宮本松

【月・水・金に配信予定】身近に起こる出来事を、時には真面目に、時には面白く、エッセイに…

宮本松

【月・水・金に配信予定】身近に起こる出来事を、時には真面目に、時には面白く、エッセイにまとめています。読んでもらえるとうれしいです。娘のミドリー、再婚夫のテル坊、息子のドラちゃんなどの家族が登場します。童話は不定期で配信中。

マガジン

  • ながいお話。

    動物たちも登場する、ちょっと不思議な世界のお話です。長めのストーリーは分けて掲載しています。

  • みじかいお話。

    こどもの頃の体験や空想をもとに、5000字くらいのお話を作りました。短めのストーリーのものを掲載しています。

最近の記事

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#37居心地のいい図書館。

みなさんは、一週間に、あるいは一ヶ月に何回くらい図書館に出かけますか。わたしは、週に3回から4回、足を運んでいます。まるで、自分の仕事が図書館に通うことであるかのように、図書館に出現していることになります。 それほど通うのには、理由はあるのか。まずは家から徒歩10分足らずという、近場にあること。それから蔵書数が多くて、さまざまなジャンルの本がそろっていること。最後に、居心地がいい場所であること。 今わたしの住んでいる村には、公立の図書館がひとつしかなく、あとはコミュニティ

    • #87アイロン瞑想。

      (もしかして、この時間が一番、わたしの頭の中は整っているかもしれない) それは週に一度か二度、アイロンをかける時。アイロン台の足を伸ばし、小さなひし形のアイロンをコンセントにつなげ、霧吹きをセットしてから、その日の分のシャツを一枚ずつ、台の上に広げていきます。 アイロンがちゃんと熱くなっているか、手を近づけて確かめてから、霧吹きをほんの少しシュシュッと吹いて、シャツの上をゆっくりとアイロンを滑らせていきます。いつもやり方は決まっていて、襟をかけて、後ろ身頃、前身頃を一つず

      • #86やあ、また君の季節かい。

        「いた」(テル坊) 「何が?」(わたし) 「…たぶん、蚊」(テル坊) 「あちゃあ」(わたし) 寝苦しい夜に、なかなか寝付けなくて、となりでゴロゴロ布団の上で転がっていたテル坊があいつを見つけたようです。あいつとは?もちろん蚊のことです。 「明日ベープの替えを買ってこないとね」 翌日ホームセンターで、詰め替え用のベープを三つ購入しました。家族が気ままに過ごす、それぞれの居場所に置いておくためです。わたしが子どもの頃は蚊取り線香を使っていました。田舎に泊まりにいった時には、ばあ

        • #85手ごわいクッキー。

          「うーん、これを買うべきか、買わざるべきか」 今日もへんなおばさん(わたし)が、スーパーのお菓子売り場で腕組みしながら、考え込んでいます。どうやら品物選びが難航しているようです。ちょっと声をかけてみましょう。 「どうしましたか?」(リポーター役のわたし) 「お菓子が日に日に値上がりしていくし、持ってみると中身も軽くて。買おうかどうしようか迷ってるんです」(お客さん役のわたし) 「もし、購入されない場合は、どうするご予定ですか?」 「そうですねえ、その場合は自分で作るしかな

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        #37居心地のいい図書館。

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        • ながいお話。
          21本
        • みじかいお話。
          12本

        記事

          マフラーを巻いたうさぎ。(4)

          (うさぎさん、心配してるかな) まい子は自分の手のひらの上にある懐中時計を見つめながら、うさぎのことを考えている。この前の土曜日、うさぎと別れたあとに図書館の司書さんがあわてて追いかけてきた。 「これ、忘れてましたよ」 それはうさぎが胸のポケットにいつもしまっている懐中時計だった。 「ありがとうございます」 時計を受け取ったまい子は、うさぎが帰って行った方にむかって走り出した。まるで司書さんから渡されたバトンをもって走り出すリレー走者みたいな気持ちで。 (うさぎさん小さい

          マフラーを巻いたうさぎ。(4)

          #84そんな風に生きているから。

          心がざわざわして、理由もなく落ち着かなくなった時、わたしは銀色夏生さんのエッセイを読みたくなります。 銀色さんを知ったのは高校生の時。友だちから借りた詩集を読み、日常にある普通の風景を、これほどはかなく、愛おしく、懐かしい写真におさめながらが、心の奥深くに響く言葉を発することの出来る人がいるなんてと驚いたのを覚えています。 時は流れ、わたしは結婚し、慣れない育児に奮闘していた頃、育児日記のような銀色さんの『つれづれノート』というエッセイを見つけ、それ以来欠かさず読み続けて

          #84そんな風に生きているから。

          #83感謝とは湧いてくる思い。

          「ありがたいことだよ。感謝しないとな」 何かにつけて感謝、感謝と父が口にしていたのは、わたしが高校生の時でした。 何事にも感謝する。感謝すべきことは、日々の暮らしの至るところに見つかる。身近にいる人たちにしてもらったこと、助けられたこと。今元気でいられることも有難いし、ご飯を食べられることも有難い、それから毎日、家族がそろって食卓を囲めるなんていうことは、当たり前のことじゃないんだぞと、機嫌のよい時の父はご飯を食べながら、同じ話を何度も繰り返すのでした。 父の言っているこ

          #83感謝とは湧いてくる思い。

          #82餃子の王道。

          「そろそろアニバーサリーが近づいてきたね」 アニバーサリーというのは、テル坊の誕生日とわたしたちの結婚記念日のことです。再婚同士であるわたしたちは、結婚式も挙げていません。二年ほどお付き合いをして、まずは同居からスタートしました。内輪だけの食事会でも開こうと思っていたにも関わらず、世界中がコロナで大混乱に巻き込まれたため、食事会すら行わないままの入籍になってしまいました。一応、お盆と正月にそれぞれの親戚のところへ挨拶に回ったこともあるし、もうそれでいいかなと。ずいぶん適当に

          #82餃子の王道。

          マフラーを巻いたうさぎ。(3)

          < 3 > 「まい子、ご飯にしようか」 「うん」 お父さんに言われて、テレビを見ていたまい子は立ち上がり、食卓にすわった。こい緑色のエプロンをつけたお父さん。見慣れない格好だ。ぎこちない空気が台所にみちている。 「いただきます」 「いただきます」 二人とも普段の半分くらいの音量で、挨拶をしてから、箸を手にとった。今日のおかずは、白いごはんとコロッケ、やさいサラダ、それから味噌汁。コロッケはスーパーのお惣菜でお父さんが買ってきたもの、サラダは千切り野菜のパックと缶詰めのコーン

          マフラーを巻いたうさぎ。(3)

          #81麦わら帽子の思い出。

          「あんたが掃除してくれた庭がすっきりと片付いて、気持ちがよくてね。庭を見るたびにあんたのことを思い出しているのよ」 実家に帰省した後は二週間ほど、母からの電話の回数がいつもより割増になります。 「そう、それは良かった。毎朝、父さんが庭を掃いてくれてるからね」 父は、朝起きてから田舎の田んぼ道を小一時間ほど散歩するのが日課です。散歩からもどってくると、熊手で庭の石砂利をきれいにならします。雑草の生えやすい庭ですが、小さなお手入れを続けていると雑草が育ちにくく、きれいな状態

          #81麦わら帽子の思い出。

          #80ゴリラのスリッパ。

          皆さんは家の中でスリッパを履かれますか。それとも裸足の方が楽ですか。生まれ育った習慣もあると思いますし、今住んでいる家の造りにもよると思いますが、わたしは40代に入った頃から、スリッパを履くのが習慣になりました。 その頃、住んでいたアパートが、日当たりの悪い一階の部屋で、冬場になると地面の冷気が床まで伝わってきて、足元が凍るほどに寒かったせいです。スリッパを履いていないと体温を奪われてしまうのではないかと思うほどの寒さでしたし、実際にスリッパを軽くみていた当時小学生のミドリ

          #80ゴリラのスリッパ。

          #79運動場は楽しいな。

          「うぇえい、うぇえい!」 休み時間になると、校舎のいたるところから子どもたちが運動場にかけ出してきて、何がそんなに楽しいのか、満面の笑みで走り回っている。わたしがまだ仕事をしていた頃、時折訪れる小学校で、そんな光景を何度も目にすることがありました。 (まだ子どもだった頃、わたしもあんな風に走り回っていたのかな) 自分の姿は自分で見ることが出来ませんが、記憶の糸をたどった時にまぶたの裏に浮かんでくる、小学生時代の友だちの様子をゆっくり確かめてみると、自分も同じように毎日飛び

          #79運動場は楽しいな。

          マフラーを巻いたうさぎ。(2)

          < 2 > 週末になるのが、こんなに待ち遠く感じられるのは、久しぶりのことだ。もちろん学校が休みであることは、いつでもうれしい。でもそれはワクワクする気持ちとは、ちょっと違う。 (こういう感覚、小さい頃によくあったな) まだ小学校の低学年だった頃、休みの日になると、いつもより一時間以上早く目が覚めて、家の中をうごきまわり、お母さんに叱られた。 「たまの休みくらい、ゆっくり布団で寝かせてよ」 眠たい時のお母さんは、すごく機嫌がわるいのだ。 「はあい」 素直に返事だけはするも

          マフラーを巻いたうさぎ。(2)

          #78メガネのフレーム。

          「よくそんなにかっこ悪いメガネのフレームを、探し出せたもんだね」 わたしがメガネをかけている姿を見ると、ミドリーが時々そう言って笑います。 「だって、あんなに沢山フレームが並んでたら、何を選んでいいのか分からなくなるんだもん」 一年半ほど前、5年ほど使っていた老眼鏡の度数が合わなくなってきて、テル坊といっしょに新しいメガネを買い求めたのですが、そのフレームの形が、わたしの顔かたちに合っていないらしいのです。 「母ちゃんが二つも買ってもらったと大喜びするから、どんなメガ

          #78メガネのフレーム。

          #77追い風しかない。

          わたしが今住んでいる地域は、年中風が強くて、春のこの時期も一日の長い時間、ぴゅうぴゅうと音を立てながら風が吹いています。洗濯物が吹きとばされることもあれば、台所の裏のベランダに置いているゴミ箱が倒されていることもあります。 朝起きてカーテンと窓を開け、外の空気を吸い込むのはわたしの日課の一つです。 「今日は一段と風が強いな」 そう感じた日には、テル坊が洗面を済ませ身支度を整えて、朝ごはんを食べ始めたタイミングで、こう語りかけます。 「今朝はけっこうな風が吹いているよ」

          #77追い風しかない。

          #76蕁麻疹と共に。

          夕方18時になると、わたしのスマホがオルゴールの音で知らせてくれます。 「やばい、やばい、忘れるところだった」 バッグのポケットから錠剤を取り出して、パクッと口に入れます。これが蕁麻疹の薬です。以前の病院では、口の中で溶かすOD錠をもらっていましたが、今の小さなクリニックには常備されていないので、薬を飲み込むためにお水も飲まなければなりません。 「なんだか痒いぞ。あれ、腕が赤くなっている」 二年前、梅雨もそろそろ終わりに近づいた頃、お風呂から上がるたびに、それまで感じたこと

          #76蕁麻疹と共に。