【読書記録】2021年1月(前半)

ごきげんよう。ゆきです。

2021年も読書記録していきます。ゆるりとお付き合いいただけると幸いです。

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眉目秀麗、頭脳明晰、白面の貴公子。輝かしい形容に彩られた名探偵、神津恭介。彼が挑むのは密室トリックの数々。鍵の掛かった部屋の外に残された犯人の足跡、四次元からの殺人を予告する男…。不可解極まる無数の謎を鋭い推理でクールに解き明かす!いつまでも燦然とした魅力を放つ神津恭介のエッセンスを凝縮した六つの短編を収録。傑作セレクション第一弾。

金田一耕助、明智小五郎、そしてこの神津恭介が日本三大名探偵と呼称されているという。少し前に書かれたものなので、取っ付きにくさを感じる方もいるだろう。でもそれを理由に敬遠するのはあまりにも勿体ない。ひとたび手に取れば、名作と言われる所以がまざまざと眼前に迫ってくる。

この本を開いたのは、Amazon Prime会員だと無料で読める本があると知ったのがきっかけだった(今も本書が対象なのかは不明)。いろんなジャンルの本が取り揃えられている中で、読んだことのない探偵ものの傑作選が目に留まり「無料ならいいか」と手に取った次第である。結果、作者や出版元に金を払わずしてこの名作を読んでしまったことに、居ても立っても居られないような申し訳なさを感じる羽目になった。それぐらいの傑作だった。

6つの短編の中で私が気に入ったのは『影なき女』と『妖婦の宿』だ。読了後に調べてみると、やはりこの2作は名作との呼び声が高いらしい。両方とも50年以上前に書かれたものなのでところどころ時代を感じる箇所はあるが、その中で全く色あせない感動のトリックを鮮やかに見せつけられ思わず唸ってしまった。次から次へと発売される厚めの長編ミステリを適当に選んで読むくらいなら、この短編2編読んだ方が満足度が数倍、いや数十倍高いんじゃないかとさえ思う。そりゃ日本三大名探偵と呼ばれるわけだ、と納得。どこか雰囲気が似ている気がして、私は勝手に神津恭介を和製シャーロック・ホームズと呼んでいる。

文庫はどの本屋に行っても見つけられなかった。ほぼ廃盤状態なのだろうか。紙で手元に置いておけないのは甚だ残念だが、電子書籍化されていたことを素直に喜ぼうと思う。次巻はその本の対価としてきちんと出資し、至高の推理に浸りたい。

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「いらっしゃいませー!」お客様がたてる音に負けじと、私は叫ぶ。古倉恵子、コンビニバイト歴18年。彼氏なしの36歳。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。ある日婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて…。現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作。

月に1冊くらいは何らかの賞を受賞した純文学を読んでおくか、と思い立ち、表紙が印象的だった本書を選んでみた。

結論から言うと、本書と私の相性が悪かった。小説を読むときに少なからず登場人物に感情移入したがる私は、どこに自分の精神を持っていったらいいのかわからなくなってしまったのだ。

たぶん、この本と上手く付き合う方法は「こんな人もいるんだな」という距離感で読むこと。決して共感とか羨望をするために読むものではない。

主人公は(専門の知識がないから確かなことは言えないけれど)おそらく精神的な疾患がある。死んだ小鳥はから揚げにして食べればいいし、喧嘩しているクラスメイトはスコップで殴って黙らせればいいと真剣に考えている。途中で現れる白羽という男は完全なヒモ体質で、「自分が仕事に就けないのは社会のせい。稼ぎがある女性に寄生して暮らしたいが、その女性は自分好みの容姿じゃないと嫌だ」などと堂々言い張る、これもまたちょっと精神的に怪しい人物だ(本当に隅から隅まで言うことが腹立つ男で、これまで多くの小説を読んできたけどダントツで嫌いな登場人物になった。あまりにもイライラして舌打ちしながらkindleを途中で閉じたことも数回)。この2名がメインな時点でこの小説、読むのがしんどい。ちょいちょい出てくる他人物も、絶妙に嫌な奴で好きになれない。

途中から恵子の妹(普通の人)目線で読むことにしたら、早々に読み終わった。物語との距離感って、思ったより大事だ。

私のような読者はぜひ、解説を読んでいただきたい。解説をかみ砕いて初めて「あ、すごい本じゃん」と思えた。さらっと読んでしまうと気付けない趣向が随所にちりばめられている。これに気付いて評価を下した芥川賞の選定員も、それを読者にわかりやすく提示した解説者も、当たり前だが生半可な人達ではないんだなと思い知った。この境地に自分が至れる気がしない。し、今のところ至ろうとも思っていないので、またのんびりミステリーを読んでシワの少ない脳を動かそうと思う。

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夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。

羊=不吉の象徴みたいな使われ方をすることが多い気がするのだけれど、気のせいだろうか。本書もタイトルに羊が付くイヤミス短編集だが、似たような構成の『強欲な羊』(美輪和音著)という短編集を学生時代に読んだのを思い出した。雰囲気がとても似ている。ちなみに『強欲な羊』の続編は『暗黒の羊』で、これまた羊が使われている。なんでだろう。

本書は裕福な家庭で育ったご子息ご令嬢だけが参加できる読書会「バベルの会」をモチーフに書かれた5つの短編が収録されている。どれも甘美で豪奢な雰囲気に酔ってしまいそうな運びだが、どんどん暗雲が立ち込めていき、最後にはゾッとする一文が待っている。こういうの大好き。

読者人気としては『玉野五十鈴の誉れ』が高いらしい。なるほど、たしかにラスト一文のインパクトは最高だった。私個人としては『北の館の罪人』が好きだったな。どんでん返し×2の構成にまんまと踊らされた。背筋が凍るラストとしては前者よりこちらに軍配が上がる、と思う。5編全部好きだったのでまるごとオススメできる1冊。

ちなみに本書、「え、そんな理由で?」と思う場面がいくつもあるのだが、これは著者の狙いらしい。落語的なミステリーを書いてみたかったのだそうだ。落語的イヤミス。新しいジャンルだし、動機や設定にリアリティがないことが逆に読みやすくさせてくれるので、これはアリだと思う。米澤作品はこれで3冊目だが、毎度違う雰囲気を醸し出してくるので面白い。すっかりファンになってしまった。

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3冊でした……。後半巻き返したいな……。

私は読了後に口コミやネタバレを見る癖があるんですけど(他の読者と感想を共有したいので)、今回紹介した『儚い羊たちの祝宴』に関して「よくわからなかった」「解説してください」と書いている読者をちらほら見かけました。そんなに複雑なことは書いていないし、ほんの少し想像を広げたり、もう一度読み返せば察しがつくはずなので、真相を知って驚くチャンスを他人に委ねてしまうのはもったいないな~と思ってしまいます。ミステリーって、自分の中に落とし込めた時が最高に気持ちいいんですよね。

「よくわからなかった」という理由で口コミ評価を下げている方もいて、悲しい気持ちになりました。自分の推理力のなさを本のせいにしないでいただきたい。どの著者も考え抜いた至高のトリックを綴ってくれているのです。それに騙され、踊らされるのが楽しいんです。自分の理解が追い付かなかったのならそれはそれでいいので、公に本の評価として点数をつけないでほしいな、とミステリ好きとして思ってしまいました。たまにあまりにも複雑すぎて「???」となるものもあるので、気持ちはわかるんですけどね。

後半もまた読んでいただけると嬉しいです。皆さんのオススメミステリーがあったら教えてください。

See you next note.

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