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【国を持たない最大の民族 クルド人②[各国での立ち位置]】

こんにちは。

トップの写真は「コフタ(kofta)」という料理で、東京の十条にあるパレスチナ料理店でいただきました。香辛料を混ぜたラム肉のハンバーグをトマトベースで煮込んだ料理です。

アラブ料理はあまり癖がなく、日本人の舌にも合う印象を個人的には抱いています。1年以上ヨルダンに居住していますが「これは苦手だな」という料理にはまだ出会っていません。
もし機会があれば、ぜひお試しいただきたいです。

それでは、前回の投稿はこちらからお願い致します。

前回は、概要ということでクルド人が居住している地域や、彼らが辿ってきた歴史などを主にまとめました。

そこで今回は、それぞれの国においてクルド人が置かれている立場、そこで受けている苦境に焦点を当てていきます。

(数カ国にまたがって分布しているクルド人居住地域)
ikeuchisatoshi.comより引用

【一人のシリア人男性から見たクルド人】

先日、職場の同僚の一人であるシリア人男性に、シリア国内でクルド人が置かれている立場や将来的な国家建設の可能性について尋ねてみた。

前回の記事でも触れたように、クルド人はトルコ、イラク、シリア、イランなどの山岳地域に居住している。2500万人から3000万人もの人口を有しながらも彼らは国を持っていない。
そうしたことから「国を持たない最大の民族」ともいわれている。

「クルド人の国家ができるとしたら、それはどこにできると思う。彼らの多くは4つの国にまたがって居住している。それでいて1つの独立した国家を作るのは難しいだろう。例えばシリア北部にはハサカという町がある。ここは国内でも比較的大きな町だ。シリア北部には多くのクルド人が住んでいるが、ここには当然アラブ人も住んでいる。そして、隣接するイラクとの国境をまたぐとイラク北部にはクルド人自治区がある。私にはクルド人の友人もいるし個人的に悪い印象は持っていないが、独立は難しい問題だと思っている」

このシリア人の職員が言うように、数カ国に分布しているクルド人を1つの国家として独立させることは現実的に困難である。
もし、恣意的な人口移動によってまとまった民族・宗教・宗派ごとに住み分けさせ、国境線を引いて国家を切り分けるということになれば、それは「民族浄化」として人権上多大な問題を引き起こすことになる。

また、ある1つの国で独立国家ができれば、その周辺国に住むクルド人も独立を訴えることが予想される。そういったことから各国でクルド人の独立国家建設を認める動きはなく、とりわけトルコやシリアではクルド人に対して強権的な扱いをしている。

【各国における立場】

歴史的に見ても、クルド人はそれぞれの国で少数民族として迫害されてきた過去がある。
トルコでは長らく「山岳トルコ人」と呼ばれ、シリアでは「クルド系アラブ人」、イランでもクルド語はペルシャ語の方言と見なされるなど、少数民族としての存在すら公に認められなかった時期も長い。

イラクのフセイン政権は、イラン=イラク戦争の際に敵国であるイランに肩入れしたとして、化学兵器を用いてクルド人を大量虐殺した。また湾岸戦争の際には、弾圧されたクルド人が周辺諸国に逃れ、多くのクルド難民を生み出すことになった。
フセイン政権が崩壊すると状況は一変し、2006年にはイラク北部にクルド人自治区が誕生するに至った。2017年には独立住民投票が実施され賛成派が多数となったが、イラク中央政府はこの結果を認めず、国家建設には至っていない。

(イラクの国旗)

(クルド人自治区の国旗) 共にWikipediaより引用

トルコでは、伝統的にクルド人の存在を否定し、あくまでも「トルコにはトルコ民族しかいない」との態度を貫いている。中央政府は、山岳トルコ人と見なしているクルド人にトルコ語を教え込むなど、民族同化政策を推し進めてきた。
国内におけるクルド人の人口は全体の4分の1以上を占めている。しかし、文化的な抑圧として役所や学校、病院などではクルド語が使えず、クルド人というだけでいじめを受けたり反体制派であるとして逮捕され拷問を加えられたりするなど、不当な扱いを受けている。

これに対して、トルコからの分離独立を求めるクルド人は1978年に武装組織クルディスターン労働者党(PKK)を設立した。中央政府は、軍と治安部隊を標的に激しく抵抗するPKKを「テロ組織」とみなして弾圧を続けている。

また、トルコ政府は自国内だけではなくシリアやイラクといった周辺国のクルド人組織が自治政府の設立を認めることなどあってはならない、という立場を明確に示している。周辺国のクルド地域の独立によって、自国内でのクルド人分離独立運動の促進を懸念するトルコは、シリア北部(クルド人居住地域)に越境軍事干渉を行うなど、各国のクルド民族運動に対しても強権的な対応をとっている。

しかし、このように独立勢力となったクルド人に対して、国連は全く対応できておらず、クルド人の側にも国連や国際法に訴える手段がないのが現状である。

こうして各地で困難な立場に置かれているクルド人は、弾圧や迫害から逃れるために難民として周辺諸国へと流出している。そして、意外に思われるかもしれないが、1990年代初頭辺りからは難民認定を受けるため日本に渡る人も増え始めた。
しかし、故郷から数千キロも離れた日本の地でもなお、彼らは厳しい環境に置かれている。

次回【日本に居住するクルド人】に続く。

【参考文献、引用】
日本で生きるクルド人 鴇沢哲雄
サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 池内恵
ikeuchisatoshi.com

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